幼稚園児の企み
暗いトンネルに眩しいほどの光が灯った。幼稚園児が手を当てている場所だけだが、とても明るい。幼稚園児は光の中に半身を入れ、遥に手を差し伸べた。
「さあ、俺と一緒に来い」
「その中へか?!」
遥はびっくりしている。
(まあ、そうだろうな。人間には)
「俺と、このトンネルの一部になるんだ」
「な、なに?!」
遥の目に怯えが走った。幼稚園児は小さく舌を鳴らす。
(これだから人間はめんどくさい。この宣伝文句は、俺たちの種族には大受けなのにな)
「ああいや、言いすぎた。別に土塊とかになるわけじゃない。ただ、俺の家に行くだけさ」
「あんたの…家?」
「ああそうだ。そこにはたくさんの魔法の道具があるぞ。お前に見せた岩の他に、呪いの人形だとか、召使いの小人とかな」
遥はじっと考え込んでいる。幼稚園児はさらに、甘い声で誘惑してみる。
「食い物の心配もしなくていい。人間の食い物ぐらい、なんでも作れるさ」
「…」
「お前は、今生きている世界で限界を感じているんだろう? 俺が居場所を与えてやる」
「あんたの…家に?」
「そうだ。さあ来い。もうなにもお前を悩ませるもののいない世界に行けるんだぞ」
遥はなにも言わない。だが幼稚園児の方は、じりじりしていた。遥の感情が揺れていることに危機感を感じているからだ。
(ここで引っ張り込んでしまえばもうこっちのものだ)
自分の手元で好きなように「教育」できる。そうすれば、遥は永遠に自分の元で純粋なエネルギーを出し続けるだろう。
「もう迷うな」
だが、ここまで言っても遥は手を握り返そうとしない。その口からぽつりと言葉が漏れた。
「…り」
「あ?」
「舞鳥が…」
「忘れろ。あいつはお前を苦しめてきただけさ」
「…本当に?」
「今まで散々苦しめられてきたじゃないか」
もう限界だった。腕を自在に伸ばし、有無を言わさず遥の手を掴む。遥は抵抗しようとしなかった。放心した顔で、されるがままになっている。
(しめた!)
そのまま引きずり込む。遥の脚がズルズルと地面の上を引きずられ…。
そして止まった。
「!」
遥の手を引くのに、さっきよりも力がいる。幼稚園児は反対側から遥の腕を引くものがいることを知った。
「さては…!」
「山城君! 行っちゃダメだよ!」
光を照らすと、必死の形相の港海輝が遥の腕を引っ張っていた。
「今まで散々苦しめられてきたじゃないか」
確かにそうかもしれない。俺はそう思った。もう、なにがどうなってもいい。そう、思っていたのに…。
「山城君! 行っちゃダメだよ!」
この声でなぜかハッとした。
「…港?」




