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トンネルの先には  作者: 椎名れう
14/30

こんな助け舟いらねえ。

「今日は誰にする?」

「じゃあ、金村で」

あいつは俺を無視しやがってるんだ。嫌がらせの一つでもしてやらなければ気が済まない。

「金村…ああ、あの小僧ね。あいつも許せない奴さ」

幼稚園児(本当は自分の違うんだろうが)が俺と同い年の金村を「小僧」と呼ぶのはかなり違和感がある。ま、でもそんなことは別に重要じゃないしな。

いつもと同じように岩に攻撃を加え、ありったけの暴言を吐いて俺の「気晴らし」は終わった。金はかからないし、気分もスッキリする。これで、今日の家事は楽々こなせるに違いない。

「じゃ、俺家帰るわ」

「また来い。あ、そうだ。次は誰にするか、決めたのか」

「いや」

「今度は長野はどうだ。あ、飯谷でもいい。なんなら、も一回舞鳥でもね。」

話している間、奴の目はギラギラ光っている。相当興奮してんだな。

「ああ、重要な奴がいた。君の怒りを逆なでした奴が。港海輝だ。明日は港海輝にしよう」

「勝手に決めんな」

俺は思わず大声を上げていた。なんでかは分からん。幼稚園児の顔に嘲笑が浮かんだ。

「一週間前、あの女はあんたの傷口に塩を塗った。もしかして忘れたのかしら」

「あいつは今でもムカついてる」

「そういや、別の日にあいつは君に助け舟出したんだったな。そして、君はその日、ここに来なかった。一度救ってもらったぐらいで恩でも感じてんのか。それともまさかの恋かしら。ウフフ、ロマンチックね。よりによってあんなダサい子にね。…言っとくが、あいつは自己満足のためにやっただけだぞ」

「うっせえな。分かってるし。とにかく、気晴らしをするのは俺なんだ。俺の希望を通すのがあんたの役目だろ」

さっきまでの快感がズルズルとはがれ落ちている感じ。このままだと、また不愉快な気持ちに逆戻りしてしまうかもしれない。だけど、なぜかやめられなかった。

「明日は長野にすんだぞ」

「役目? こっちは趣味でやってるだけだぜ。ま、あんたは大切なお客様だから、なるべく希望は聞くけどよ」

俺はそのままトンネルから出た。せっかくの快感はどっか吹っ飛んじまった。あいつのせいだ。港海輝が口さえ突っ込んでこなければ…。


「何か文句あるの、港さん」

「い、今のは飯谷さんもよくないと思う」

飯谷の直視をまともに受けられる奴なんていない。港も脚がガタガタ震えてやがる。

なんでそこまでして口を突っ込んでくるんかね。てか、港、お前もちょっと身なり整えろや。飯谷とあまりにも対照的すぎるし。

多分同じこと考えたんだろ、飯谷の口からフッと笑いが漏れた。

「聞かせてもらうわ」

「…う、あのさ…私の意見なんだけど…仮に山城君が舞鳥君とかのこと…睨んでたとして、なんで飯谷さんが口突っ込むのかなっておも…」

「口突っ込む? 私はただ、注意しただけじゃない」

「正直言って、そこがおかしいと思う」

「はい?!」

「注意するなら、こっそりすればよくない? なんで、大勢の人が見てる前で罵るのさ」

お、港の声がしっかりしてきた。

「ののし…!」

「まるで、なぶりものにしてるみたいだったよ。それにさ、もし睨んでたんだとしても、何か事情があるのかもしれないじゃん」

は? なに言ってる。

「な、なによ」

「そこ、もうちょっと考えてみてもいいんじゃない?」

分かったような口ききやがって。

「う…」

「山城君の気持ちとかも無視しちゃダ…」

「うっさい、黙れ!」

もう我慢の限界だった。俺は港を怒鳴りつけて、教室から飛び出した。あとはただ、ひたすら廊下を走った。みんな俺のこと見てるけど、知ったことか! あいつに俺の気持ちなんて分かんのかよ。

なんでかわかんねえけど、悔しかった。

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