黄色のウサギ話 Ⅱ
おひさしぶりです。
更新が遅れてすみませんでした…
双子にこの世界のことを説明してもらった後に、本来私たちが聞きたかったことを思い出した私は、双子に問いかけた。
「ねえ、私はどうすれば人の姿になることができるのかな?何をしてもこの姿のままなんだ。」
私はもふもふしたこの体を、自分の小さな手で触りながら話した。
「そうだなぁ、オレたちは小さい頃から自然に変えることができてたからなぁ。今でも変わりたいと思えば変われるし、そこは個人によって違うからオレたちにはどうしようもできねぇ。」
最初に答えてくれたのは双子の弟ルンだった。
ルンはうーんと言いながら腕を組み、うつむきながら考えるポーズをとった。
次に答えたのは兄のランだった。
「ルンが今言った通り、自分が人になる姿を強く念じてみたらどうかな、思いつかなくてなにもしないよりは良いと思うよ。」
ランの言う通りだと思った私は、「分かった!」と返事をして、さっそくみんなのいる前で実践することにした。
目を閉じ、異世界へ行く前の、人だった時の私の姿を想像する。
すると、足元から小さく輝く黄色い光が現れ始める。
それを見ていたダイキから「アイラ・・・!」という声が聞こえてくる。
今度こそいける・・・!そう思った矢先に、黄色い光は一気に消えてしまった。
また失敗をしてしまった。私はいつになればまた人として過ごすことができるのだろうか、この世界で私は、これからどう生活をしていけば良いのか、今のこんな小さな体では前の時のようにイスに座ったり、料理をすることもできない。
どうすることもできない私はただただ不安が積もるだけだった。
暗い顔をしていたのか、私を見たダイキは笑顔でこう言った。
「もうすぐご飯の時間だよね。ご飯たっくさん食べて元気になったらさ、もしかしたら人になれるかも!」
「ダイキさんがお腹すいてるだけなんじゃないんですか。」
「でもオレもお腹すいたー!良かったらここで食べていけよー!」
ダイキの一言で、場の空気はとても和やかな様子になった。
本当にお腹がすいていただけだったのかもしれないけど、フォローしてくれてありがとう、ダイキ。
するとランは立ち上がり、私たちに「簡単なものでいい?」と聞き、私たちはこくと頷いた。
ランは私の方を見てきたので、何だろうと思い聞くと、
「よかったらキッチンに来る?君のいた世界とは料理とか、食材とか違うかもしれないし。」
「わああ、見たい見たい!ありがとう!」
「それじゃあ行こうか、キッチンまでは僕が運んでいくよ。」
「ううぅ・・・迷惑かけてすみません。」
ランに抱き抱えてもらいながらキッチンへ向かうと、ランは私を安心させてくれるようなことを言ってくれた。
「そんなに焦らなくても、人になれるまでは僕たちが助けてあげるから。生活のことは心配しなくても大丈夫だよ。」
私が思っていたことが見抜かれていたのか、彼は私にそう言ってくれた。きっとキッチンへ一緒に行くことを誘ってくれたのもそのためだろう。
「ありがとう、ラン。」
私はランを見て礼を言うと、ランは「別にいいよ。」と無表情で言い返した。
彼は最初に会ったときから無表情のままだ。弟のルンはあんなに表情がコロコロと変わるのに、きっとランも笑えばとても可愛らしいだろうに、なんだかもったいないなと思ってしまった。
話をしているとキッチンに着いたらしく、ランは私をそばにあった大きめの台にのせて、食材や調理が見える位置に置いてくれた。
キッチンの様子は特に変わったものなどはなく、なべや包丁、フライパンもあれば電子レンジや冷蔵庫もある。やはり地球の文化や様子などを調査されているのもあって、あまりにも馴染みのある物がありすぎて、逆に落ち着いてしまうような、そんな光景だった。
しかし、変わっていたのは食材の方だった。
「さてと、どうしようかな・・・そうだ、あれが多めにあったんだよな。」
ランは冷蔵庫から何かを取りだし、こぶし一つ分のサイズの小さな物を取り出した。
それは私の知っているある食材にとても似ていた。
「それ、卵?」
ランは首を傾げてこう答えた。
「卵?これはエグの実といって、マゴニワトリ族にしか作ることのできない実なんだ。なかはとろとろした卵白と、黄色い卵黄が入っていて、いろいろな調理に使われているよ。」
「へぇー、この世界だと実になるんだぁ。」
「そっちの世界とは違うらしいけど、この世界の食材は実になって育つものが多いんだ。だから家庭で育てる人も多いんだよ。」
たしかにここは動物の世界でもあるんだった。
もしかしたらこの世界には、あまり弱肉強食なものはないのかもしれない。
次にランは、冷蔵庫から地球と全く同じような野菜をいくつか取りだし、そしてウインナーのようなものを取り出した。
まさか肉なのか、この世界なら豚族とか牛族とかも存在しそうなのに、一応聞いておこう。
「ねえラン、それは・・・」
「あぁ、これはアカマメを加工したチャウエッセンだよ。火を通すとジューシーで、表面はパリッとしていて、ルンが好きなんだよね。」
私は肉ではなかったことよりも、その食材の名前にとても聞き覚えのあるような物を想像した。
チャウエッセンって、あれのことを否定しているのだろうか、と。
ランは野菜を一口サイズに切り始めた。それをみると、なんだか私も料理をしたくなってきていた。
あの頃のように、自由に動くことができればなんて幸せだろう。
――あぁ、この手でまた、料理が出来たら良いのに。
するとその時だった。
足元から、またあの光が身体中に舞い、私はたくさんの光のなかにいた。
光は眩しく、しかしとても暖かいような光で私を包み込み、手足はみるみるうちにのびていき、あのもふもふした体はだんだんと姿を変えて、気づいたときには、また人の姿になっていたのだ。
だけどその今の自分は、まるで別人のようにあの頃とは変わっていた。
ほんのりオレンジ色のショートにお気に入りのダイヤの形をした髪止め、大きな黄色いリボンに、上に黄色の上着、下と繋がっている白い服、そして黄色のラインが入ったシューズ。
そして何よりも特長的なのは、頭の上に生えている大きな白い耳と丸いしっぽ、今までの私なら一生着ることのないような黄色でまとめた服装だったもので、姿が完全に変わった直後、私は自分の可愛らしい格好に思わず顔を赤くしてしゃがみこんだ。
「ななな、なにこれぇ!?いやー!恥ずかしい!」
隣で料理をしていたランは、口をポカンと開けてこちらをじーっと見ながらこう言った。
「ほー、君は人型になるとそうなるんだねぇ。」
「何を冷静にそんな、まさかこんなことで人になるなんて・・・」
今までの努力とはと自分に問いかけ半分、これで自由に行動できることへの喜びの方が大きかったため、その事はもう良いとした。
これから始まる異世界生活、私は新しい自分を知ることとなった。