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暁に手を伸ばして  作者: ゆーが
Day 3
16/40

15, The Beginning of The Girls' Expedition

「失礼致します。」

 コルデリアちゃんは手早く残りの食器類をカートに詰め込み、食堂へ引っ込む。

 これで私もこの空間から心置きなく脱出できる。

「イファちゃん」

「なにっ?」

「よかったら出発する前に1回、城の地下にある鉄の棒、見せてもらえないかな?」

「いいよっ!」

「ありがとう」

「こっちこっち」

 イファちゃんに手を引かれ、食堂から脱出する。

 エミリアさんは普段と変わらず優しそうな笑みを浮かべているのだろうけれど、後の2人がどんな表情をしていたかはわからない、と言うよりかは想像したくない。

 赤い絨毯のひかれた豪奢な廊下を通り、最上階まで吹き抜けのロビーのようなところに出る。

 その奥まったところ、石造りの壁に馴染んでいる灰色の金属製の扉を手前に引く。

「こっち」

 中にはひんやりとした空気と急な石造りの階段があった。

 その薄暗い空間を臆することなくイファちゃんは進んでいく。

 滑り落ちないよう慎重に階段を降りると、思いの外広い空間にでた。

 明かりを取るために天井付近の壁に穴が開けてあるようで、城の外の晴天の日光のお陰でぼんやりとあたりを見渡せた。

 操車場というのだろうか。石造りの床の、くるぶしほどの深さだけ下げてあるところに、鋼鉄のレールが敷設されていた。

 私達が降りてきたのと反対側の壁面にトンネルの入口があり、その手前にはポイントが設置され、トンネルから入ってきた単線レールが2本に分岐され、2つのプラットフォームそれぞれへ引き込まれていた。

「こんなところがあったんだ・・・」

「うんっ。それでね、あの向こうがどんなふうになってるかが気になるんだっ」

 屋根の上から周りを見たとき、この城の周りは深い森に囲われ、そのさらに周りは高い山に囲われていた。

「それ、私も気になる」

「でしょっ」

 さすがに、そろそろ食堂にいったん戻らないと行けない。

 そう思ったとき、突然天井に明かりが灯った。

「気が早いな」

 ルドヴィカさん、そしてエミリアさんが降りてくる。

「マリーたちはもう少ししたら来るはずだ。」

「わかりました。」

 あれ、

「コルデリアちゃんは?」

「マリーやローザと一緒に来るはずだ」

 訝しげな表情をするルドヴィカさん

 コルデリアちゃん、大丈夫だろうか。

「いやしかし懐かしいな。」

「ルドヴィカ姉様?」

「私も小さい頃は城のあちこちを探検してまわったものだ。」

「今の姉様からはとても想像がつき・・・ますわね」

「そうか?」

「はい。」

 ルドヴィカさんが肩を揺らしながら、大人っぽく声を出して笑う。

「いつまでも子供の頃の好奇心というものは忘れずにいたいものだったな。」

「わたくしもそう思います。」

 暗闇に包まれたトンネルの向こうを見ようと背伸びをしているイファちゃんに、ルドヴィカさんとエミリアさんの視線が注がれる。

 それに気づいたイファちゃんがこちらを振り返る。

「なにっ?」

「みんな、イファちゃんの事を見習いたいって」

「わたしのことを?なんかてれるなっ」

 薄暗い、広大な地下の空間に、微笑ましげな笑いの輪が広がった。

 しばらくして、蝶番の、金属の擦れる甲高い音がして室内の空気が動く。

 そして、メラメラと炎をたたえる松明をもったコルデリアちゃん、そしてマリーさんとローザさんが階段を降りてきた。

「ほらやっぱり、松明なんか要らないくらい明るいじゃない」

 マリーさんの声が薄暗い室内を反響する。

「松明、必要ありませんでしたね。失礼いたしました。」

 コルデリアちゃんが感情を感じさせない声でそう言うと、ペコリと頭を下げ、松明の火を消そうとする。

「いい。せっかく持ってきてくれたなら有効に使おう。なんせこれからあのトンネルを通るからな。」

「かしこまりました。」

 消そうとしていた手を止め、コルデリアちゃんは松明を持ち直す。

「この松明、こんな事もあろうかと、私達が用意させたの。ルドヴィカ姉さま」

マリーさんに、ローザさんもどことなく得意げな顔をする。

「そうか、ありがとう。」

「いえ、当然のことをしたまでですわ。」

 照明は増えたはずなのに、なんだか暗くなったように感じる。

 今日の朝食堂に入ってから、ずっと無表情のコルデリアちゃんの方を見る。

 大丈夫だっただろうか?そう思っていると目があった。

なぜか顔を赤らめると、私から目をそらした。

 本当に大丈夫だろうか?昨日もあんなことになってしまったし・・・

「さあ、みんな揃ったことだし、探検に出かけようじゃないか」

 ルドヴィカさんから探検なんて子供っぽい言葉が出るのは少し意外だった。

 松明と、大きなバスケットを抱えたコルデリアちゃんを先頭に、あかりのないトンネルに入っていく。

 いろいろな期待と不安が交じり合う、私達の“探検”がはじまった。

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