#9 バトル・ロイヤル?
支度室を出て通路の窓から下を覗くと、ちょうど試合の様子が見える。周囲を水に囲まれた円形のリングの上で熱戦が繰り広げられているようだ。
ちなみに観客席はリングを水を挟んで囲うようになっていて、高低差があるため少し上から見下ろす形になっているようだ。そしてその少し上には、特別観覧席として領主?が佇んでいる。
観客数は千人以上いて、それでもまだ少し席に余裕があることから、このライザス闘技場の大きさが見てとれる。力入れすぎだろ。
試合はルール無しの何でもありで、意識を失うなどの戦闘不能かリングから落ちると負けなだけ。救護係もいるしトーナメントになると"参った!"があったりするけれど、死んでも文句が言えないよう受付の時に書類にサインをさせられている。
まあこんな大会に出るような奴らだから滅多に死にはしないだろうが。
「決まった~、勝者"カシン選手"!」
しばらく試合を見ていると決着がついた。
開始の号令でも思ったが、どうやら拡声器に似たような道具があるようでここからでも実況?の声がよく聞こえる。
勝ち残ったのはカシンという短めの赤髪に赤い眼をした男だ。年は20代前半位か?身長は高く190cmはありそうで、鋭い眼光に服の上からでも分かる筋肉が力強さを表している。しかも…イヌミミに尻尾まで生えてる。
戦闘スタイルはナックル付きの手甲を装着した上での武術で、剣も盾も使用していない。
身体能力は群を抜いており、目で追えていない奴もちらほらいたな。他にも獣人はいたけど、そこまでの動きではなかった。
観戦している他の出場者が話していたがどうやら有名な奴らしく、似たような武術の大会で優秀な成績を叩き出しているらしい。まあ確かに他の出場者を簡単にあしらっていたからそれも納得だ。
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その後も淡々と試合は進んでいき、とうとう俺の番だ。長いようで意外と早く出番が来たな。
さて、試合を見ながら考えていたことだが、この大会では目立つ超能力は極力使わないことにするつもりだ。
理由は思ったより魔法使い?いや、魔法士が少ないからだ。
俺の前の4グループ、約240名いた出場者の中にいた魔法士らしき人はせいぜい30名程度、しかも殆どが剣などの武器をメインに魔法自体は陽動程度にしか使っていない。小さい火の玉とか突風での目眩ましが関の山だ。
先日の2人組のように杖しか持たず魔法をメインに使用しているのは片手で収まる人数しか今のところ見ていないので、なかなかに珍しいらしい。流石に学校で学ぶだけあるというものだ。
リングに着き周りの出場者を見渡しても杖を持った奴は…1人しかいない。俺の杖はもうバックにしまってあるので数には入らないからな。というか杖持ちの顔をよく見たらあの2人組の片割れ、ポーラ様じゃないほうだ。
「───では予選第5試合、グループEの試合を開始します!」
ドーン!
銅鑼の音とともに試合が開始された。リングが広いとはいえ、60人近くがいるとなかなかに混戦だ。近場の奴等を剣の腹で殴ってリングの外に飛ばしていくが、数が減った気がしないな。
「───ん?」
背後からの熱風に振り返ってみるとポーラ様じゃないほう…名前忘れたから仮に"おまけA"として、そいつが何か魔法を使ったらしく炎の竜巻が周りの奴等を蹴散らしながら俺の方に迫っていた。
「おーっとここでアイリ選手、複合魔法"ヒートサイクロン"を放った!これは強烈!」
可愛い顔でえげつない魔法を使うもんだ。かなりの火力が出ているから触れた奴は火傷を負いながらリングの外へと逃げ出している。竜巻は動きながらどんどんそのサイズを大きくしていくので、リングの安全地帯もなくなってきた。
「ふんっ!」
……まあだからなんだということだが。
「───え?」
単純治せる力業だが、竜巻の回転とは逆向きに剣を振って突風を起こし相殺する。中学の修学旅行の時に直撃した台風を消したことがあるから、そう難しくはない。
「なんとキャッスル選手、剣を振っただけでヒートサイクロンを消し去ってしまった。いったいどうやったんだ?これは魔法か?はたまた剣速の成せる技なのか?どっちにしろとんでもないヤツだ~!」
「──よそ見は駄目だぞ。」
「……うっ。」
竜巻を消されたことに呆気に取られていた──えっと…アイリの背後に周り首に手刀を叩き込む。透視能力で首周辺の血管、神経は見えているので気を失わせるのは昼飯前だ。
「ついに決着がついた。いつの間にかアイリ選手の背後に回ったキャッスル選手、手刀で意識を奪い予選通過だ~!」
どうやら竜巻のおかげでリングの上に立っているのは俺とアイリだけになっていたようだ。
なんとか無事に予選を通過出来て良かったな、力加減も問題ないようだ。殴って吹っ飛ばした奴もせいぜい骨の数本が折れている程度、命に別状はないだろう。
「それでは予選第6試合、グループFの試合を開始します。」
おっと、次の試合が始まるところだ、よく見るとポーラがいるな。
開始と同時に杖を掲げたかと思ったら何かブツブツ唱えている。格好の的とばかりに何人かが襲いかかろうとして───
「──フリーズ・クライシス!」
その言葉と共にリングの上が白く覆い隠される。
白い霧がはれるとリングの上はポーラを中心に白銀世界へと変貌を遂げ、出場者たちは膝元まで凍って身動きが取れない状態になっていた。
あれではもう戦闘不能と同義だ。
「な、なんと、一瞬にして決着がついてしまった。勝者、ポーラ選手!……おっと情報が入りました。なんとポーラ選手、あの有名な魔法士育成機関、センターアースを首席で卒業した実績があるようです。それならこの結果も納得でしょう。」
まさか一瞬で終わるとは…流石に自分で歴代最強とか言うだけの事はある。口先だけじゃなかったんだな、ますます相手するのが面倒だ。
そんなことを考えているとちょうどリングから戻ってきたポーラとすれ違う。
ポーラは俺の顔を見つけるや否やキッと睨み付け、そのまま足早に去っていってしまった。…こりゃ完全に目を付けられたな。
さて、残すところ予選もあと2戦となった。予選が終わったあとは昼休憩を挟み、その後トーナメントが始まる。出来ることならポーラとは当たりたくなかったが、このままだと戦うことになりそうだ。
やはりこの大会が終わったらこの街を離れるかな。 ポーラの知名度が露呈した今、たとえポーラ自体を倒さなくとも優勝してしまえば注目されてしまうだろう。
しかもこの街の領主は強者であれば引き入れるような性格らしいから、もしかすると大会後には声をかけられるかも……というか今千里眼で確認したら、スカウトの準備の為か誓約書みたいなものを既に数枚書いている偉そうなおっさんが。
閣下とか呼ばれてるし多分コイツが領主か。
部下には俺達を逃がさないように兵の配置などを指示している。………本気過ぎるだろ、おい。どんだけ戦力が欲しいんだって話だ。あれか、戦争でもおっ始めるのか?
……ちなみにこの場合、普通?ならば声は聞こえないんだが、そこは俺の超能力の1つ"千耳通"という千里眼の耳バージョンがあるので、千里眼で見える場所の声はしっかりと聞こえる。
しかし闘技場から抜けるのはわけないが、その後もこの街で過ごすのは骨が折れそうだ。特に思い入れがあるわけでもないしどこか別の街に拠点を移すか。
──おっと、考え事をしていたら残りの2戦も終わったらしい。これっぽっちも見てないが…まあ大丈夫だろう。さて昼飯だな、確か食堂があるらしいからそこで済ませるか。
次回、トーナメント前の休憩