#8 大会当日!
翌朝目を覚ますと時刻は7時前だ。夜中に1度目は覚ましたが、それでも10時間以上は寝ただろう。…流石に寝過ぎだな。
少しして朝ご飯が出来たようなので1階に下りさっそく頂く。他の宿泊者もとい、大会の参加者たちは早くも食べ終わり大会への意気込みを話し合っている。残念ながら優勝するのは俺だがな。
さて、途中で買い物もあるしそろそろ出るか。朝早いが防具屋は開いている。まあ冒険者の大半は朝早くから活動を開始し夕方まで…とまるでサラリーマンのような生活リズムなので、それに合わせるとそんなもんだろう。
防具屋に着くとお目当ての頭装備の棚へ足を運ぶ。一昨日は見なかったがあんまり置いてないな。兜とかならあるけどそれだと駄目だし…あぁもう面倒だから"コレ"にするか。
頭装備の棚の端の端にポツリと置いてあった物を無造作に掴みそのまま会計を済ませる。
何を買ったかというと、仮面舞踏会で見るような目元のみを隠す…ベネチアンマスク、もしくはマスカレードマスクに似た仮面だ。"セーラーム○ン"のタキ○ード仮面が付けてる物といえば分かりやすいだろう。
色は全体的に黒を基調とした落ち着いた物だが…なぜこれが防具屋にあるのか。いったい何を守っているのだろう?防御する気が欠片も感じられない。
まあ相手の攻撃を受けるつもりはさらさらないし、極論顔を隠せれば防御はいらないけどな。
買い物が済んだので大会の開かれる闘技場"ライザス闘技場"へ向かう。
森に行くときに横切っていたから場所は覚えている。街の外れ、森の近くにある"それ"はローマのコロッセオを思わせる。まあサイズはもう少し小さめだが。
普段はお抱えの奴隷剣闘士や志願して剣闘士として雇われた者と森で捕まえてきた魔物との試合や、剣闘士同士での決闘などをほぼ連日開催しているらしい。まあ前時代的な娯楽ってことだな、どちらが勝つかとか賭け事の対象にもなっているし。
日本人としては奴隷という言葉に多少不快感はあるが、この世界では当たり前のようだ。一般的には借金等のために身を売る、または犯罪を犯した処罰として奴隷にされる。
ここより大きい街だと"奴隷商"という…まあ名前の通り奴隷の販売を行う店もあり、社会の歯車としてなくてはならない存在のようだ。
そんな事を考えながら歩いていると目的地に到着した。
もう受付は始まっているから闘技場の入り口付近は多種多様な人々で埋め尽くされていた。俺も参加費の金貨1枚を支払い受付を済ませると、金貨と引き換えに"278"と番号の書かれたプレートを渡される。
安全ピンも磁石も付いていないが胸元にしっかりと張り付いた、地味に不思議なアイテムだ。
ちなみに、受付の直前に仮面は装着済みであり登録名簿の名前には念のため"キャッスル"と書いている。
別にギルドカードの提示とかないし、馬鹿正直に本名を書く必要もないからな。これで俺の素性は完全に隠蔽されただろう。
余談だが"キャッスル"は俺が以前使っていたネット上のハンドルネームだ。城ヶ崎の"城"をもじった単純極まりない名前だが、この世界なら特定するのは不可能だろう。
さて、案内に従い闘技場の奥に進んでいくと大きな広場に着いた。選手控え室らしく一旦ここで待機だ。10時から予選を開始し、お昼の後くらいから本選…トーナメントが始まる。
控え室の隣には支度室が複数用意されており、武器や防具の貸し出しと荷物の預かりが行われている。普段試合している剣闘士連中が使っているこの支度室だが、大会の参加者用に解放されているようだ。
といっても大したものは置いてなく、大体は剣闘士スタイルの武器1+防具1の装備に収まる。まあ試合なんて言ってはいるがぶっちゃけこれはショーだ。観客は血を見に来ているようなものだろうからな。
俺も防具はいいとして、武器は折角だから借りるとするか。買ったばかりだから汚したくないし、剣とかって意外と手入れが大変だからな。
剣の良し悪しはよく分からないので、適当に使いやすそうな長剣を選ぶ。これも普段使われている物なんだよな…ちょっと"視"てみるか。
次の瞬間、頭の中にホロウルフの群れと戦う剣闘士の姿が映し出される。剣闘士は所々怪我をしており、統率の取れたホロウルフの攻撃に翻弄されているようだ。
…これは、俺の超能力の1つ"サイコメトリー"だ。人や物に触れることでその物体に関連した事象や記憶、人物の情報を読み取ることが出来る能力である。
これは便利な能力で、俺が触れている間は対象の人物の嘘を見抜くことも出来る。質問を受けたら連想した記憶を読み取ってしまうからな。
ちなみに、実は街での情報収集にも度々使っていた。ただ触れるだけなので、店に入った時の扉やすれ違う人との一瞬の接触だけでも多少の情報が読み取れるからな。
特にこの闘技場には色々と世話になった。森に行くときにちょくちょく触れて記憶を読み取るのだが、闘技場の内情だけでなく奴隷関連の話など色々と知れたからな。
ただ悲しいかな。読み取れる記憶は視るまで分からないので、たまに外れがある。さっきもベネチアンマスクでSMプレイに興じる女王様とM男を視たばかりだ。
『防具じゃなくて、ソレ用の小道具じゃねぇーか!』というツッコミをそっと心に押し止めた俺を誰か誉めてほしい。しかも男の顔が明らかに防具屋の店主だったのにはもはや何もいえねえ。
つうか他人の情事を見る趣味はないし、見るにしても俺の好み的にはご主人様とM女の方が良かったんだが───話が逸れたな。
サイコメトリーで暇潰しをしていたら時間になったようで予選が始まった。今回の大会は総勢462名が出場し、それを約60名のグループA~Hに分けてバトル・ロイヤルをするようだ。
組み合わせはランダムなので、番号は関係なしに俺はグループEだった。まあ試合観戦をして時間を潰していればすぐに出番になるだろう。
次回、軽く闘います。