#6 買い物?
そんなこんなで心にダメージを負いつつ食事を終えた俺は、服屋で普段着る用の服、肌着や靴下などを購入する。そろそろ学ラン戦士は引退だな。
普段着は灰色のレースアップシャツに紺色のズボンで、ゴムがないからか靴下は足袋のようにボタンで留め、ズボンは腰元を紐で結んでいる。パンツまで紐で固定されるのは変な気分だ。
そのまま服屋で着替えさせてもらったので、次は装備品か。
少し歩くと防具屋に着いた。店内には様々な素材で出来た帽子や鎧、靴などが並んでいる。
とりあえず俺自身の耐久力…というか攻撃を受けること自体皆無だろうことを考慮に入れるとそこまで高い装備はいらないので、安い皮製の装備品で統一する。
あとは…ああ武器か。使う頻度はほぼ無いだろうが、流石に丸腰というのは何かと舐められるからな。
ちょうど隣の店が武器屋なので寄っていくか。
こちらには剣や斧、弓や杖など数多くの武器が売っている。杖は先端に魔結晶の付いた全長1mに満たない棒切れで、説明書きを見るとなんでも魔法を使うときの消費魔力を抑えたりと便利な機能が付いているらしい。
その割に杖の品揃えは悪く数えるくらいしか置いていないが……ああ、こんな田舎には魔法士になれるような魔力量の人間はほぼいないんだっけか、それならこんな品揃えでも仕方ない。
少し考えたのち、鉄の剣と目に付いた杖を購入することにした。鉄の剣の倍近い値段だが、杖は一応購入しておこう。俺の超能力は魔法ではないが、他人から見たら同じだ。
魔法を使える奴だと魔力を感知出来るらしいが、感知させないようにする技術もあるみたいだし俺が使っても不自然ではないだろう。
それなら杖くらい持っていないとな、こういうのは形から入らなければ。
さて、あらかた今日することは終わってしまったので、街をブラブラしてから宿に帰るとするか。
とりあえず道具屋に寄るとしよう。なんでも冒険者の必需品となるような便利グッズが多数売ってるらしいからな。
お金のあるうちに買っておかないと。
あらかじめ武器屋で場所は聞いていたので迷うことなく到着する。名前的に雑貨屋みたいなものを想像していたが、随分と大きな建物だ。
ギルドよりは小さいが、それでも並の建物よりは大きく品揃えが豊富そうだ。
店内に入ると…確かに色々と面白そうなアイテムが置いてある。
魔物を惹き付けるお香、魔力を回復させるポーション、またそれらを入れる道具袋など見たことのない物ばかりだ。
ポーションはいらないけど、お香と道具袋は欲しいな。
お香は5つ入りの小袋で、1個で1時間の効果が得られるらしい。これなら短時間で多くの魔物を相手に出来るから効率が良さそうだな。
道具袋は作りの丁寧ながま口ショルダーバックで、容量は見た目通りではないらしい。なんでも魔法加工が施されているようで容量が拡張されているんだとか。
こちらはピンキリで、高い物だと100kgまでなら重さは元のバックのままらしい。ちなみに上限を超えた後も収納は出来るが、そこからの重さはしっかりと反映されるようだ。
俺が言えた義理ではないが、魔法も大概なんでもありだな。
悲しいかな、あまり高い物は買えないので30kgまで入るバックと、お香は予備も含め10個購入しておく。おかげで金貨4枚が飛んでいった。
さて、早速買ったバックにお香とスクールバックをしまう。
お~ほんとに入った。やっぱり魔法って凄いなー!これで出すときはちゃんと欲しいものが取り出せるのだから驚きだ。しかも念じるだけで中身のリストが頭に浮かび上がる仕様とは魔法サマサマである。
さて…いい買い物も出来たし、あとはゆっくり街をぶらぶらするかな。
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街を歩き情報収集も軽く出来たので宿に戻り、余裕を持ってとりあえず3泊分の宿代を払っておいた。連泊するなら先に払っておいた方がいいだろうしな。
「あ、お帰りなさいユートさん。またこちらに泊まってくれるんですね!」
2階に行こうとするとちょうどミラが下りてきた。
「はい。雰囲気がいいですし料理も気に入ったので、しばらくは泊まるつもりです。」
「気に入ってもらってありがとうございます。あれ、服が今朝と違いますけどどうかしたんですか?」
「ああ、あれは大事な服なのでもう着ないことにしたんです。」
「そうなんですか。確かに見たことのない服でしたし、貴重な物なんでしょうね。」
ああ、やっぱり学ランは目立ってたんだな。
「あ、引き留めてすみませんね、どうぞゆっくり部屋でお休みください。夕食の頃に呼びに行きますから。」
「ありがとうございます、では失礼しますね。」
さて、疲れたし少し横になっておくか。ここ最近当たり前のように使っているが、以前までは抑えていた超能力を頻繁に使っているんだ。
前の世界でも多少は使っていたが、それは能力の試運転や本当に必要な時のみ。一番最近だと半年前に火星大の巨大隕石が地球に来たときに使ったきりだ。あれはそこそこ疲れた。
久しぶりだし徐々に慣らしていかないと力加減を間違って無駄な被害が出るだろうし、俺の体に異常が出ないとも限らない。
まあ時間はたっぷりあるしゆっくりと慣らしていこう。少なくとも間違って人を殺さないようにな。──森の時は運が良かっただけだし。
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コンコン!
「ユートさん、そろそろ夕食のお時間ですよ!」
横になっていたからいつの間にか寝ていたみたいで、どうやら夕食の時間のようだ。1階に降りると他の連中はもう食べ始めている。
今日の晩ごはんも美味そうだ。寝起きだが腹ペコだったのですぐに完食した。残念ながらおしゃべりする友人もいないので、食べたあとはすぐに部屋に戻る。
だが、部屋に戻ってもすることはない。昼寝をしたから眠くもない。
……どうしましょう?
ボケッとしてるのも勿体ないし、森にでも行くか。それとも酒場にくり出すか……いや森だな。いまなら金に余裕はあるが、この世界の成人年齢も知らないし、そもそも酒は殆ど飲んだことがない。
酔うとどうなるか分からないし、だったら森に行った方が安全だ。
そうと決まれば、夜の森に出発だな。
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さて、森に着いた。確か夜行性の魔物も何種類かいるし、そいつらを狩るとしよう。
折角だから買ったばかりのお香を使ってみるかな。バックからお香を取りだし火をつける。薄ピンクの煙が出てきたが、全然匂いはしない。
まあ魔物にしか分からない匂いでも出してるんだろう。その証拠に魔物がちょっとずつ集まってきた。寄ってきた魔物の中に新しいのが2種類……牛並みのデカイ黒狼と1m前後の青白いコウモリだ。
確か…狼の方が"ホロウルフ"で、コウモリが"ヘビーバット"だったかな。狼は暗闇に紛れて見辛いが、この距離なら気配で分かるから問題ない。コウモリに至っては暗闇に浮いて変に目立つしな。
しかし思ったよりお香が効いたようで、いつの間にか魔物に囲まれていた。まあこの程度で苦戦する俺でもないので、力を調節しながらサイコキネシス、発火能力、そして風の刃を駆使して魔物を狩っていった。
―――――――――惨劇とでも言えばいいのか、お香が切れる1時間が経つ頃には辺りは死体の山が出来上がっていた。
「いくらなんでもお香が効きすぎたよな…倒しても倒してもキリがなかったぞ。」
まあ1時間でこれだけ倒せたから今後もたまに使うけどな。それじゃ、コイツらの処理が終わったら帰るか。
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……さて、解体は終わったな。結局解体しながら数えたら100体なんて軽く越えてた。明日も森に来るから、その帰りにまとめてギルドに持っていけばいいだろう。
ビュン!バキバキバキ。
「ん、なんだ?」
後方から何かが飛んできて木々を薙ぎ倒しながら向かってきたようだ。とりあえずサイコキネシスで弾いておく。
「───ポーラ様、もう少し抑えないと危ないですよ~。」
「こんな時間のこんな場所に人がいるわけないじゃない。いたら変人よ!」
「…それだと私たちも変人てことになりますけど。」
ゲッ、昼間の2人組だ。
「あら、いましたね変人が。」
「だからそれだと私たちも…はぁ、いいですよ。それより大丈夫でしたか?今のが当たったり─」
「いえ、大丈夫です。運良く脇に反れたみたいで。」
コイツらにはあまり関わりたくないな…面倒くさそうだ。
「そうですか、それは良かった…あれ、なんですかこの死体の山は!?もしかして貴方が?」
「ちょっとアイリ、こんな貧相な顔の男にこんなことが出来る訳ないじゃない。大方、誰かが倒したこの場所に偶然出くわして呆然としてただけでしょ。」
「ちょ、初対面の方を貧相だなんて失礼ですよポーラ様。すみません失礼な事を、思ったこと後先考えずに言っちゃう方でして。」
あれ、フォローかと思ったら地味にディスられたぞ。
「大丈夫です、気にしていないので。…えーっと、では自分はこれで。」
「ちょっと待ちなさい!貴方…魔法士を見なかった?なんでも凄腕の魔法士がこの辺りで目撃されたらしいんだけど。」
「あ~いえ、見てないですけど…。」
「…そう。まあ端から期待してはいないけどね。」
じゃあ聞くなよ!
「あのポーラ様、そろそろ…」
「ああ、もうそんな時間なの…それじゃさようなら。もう会うこともないと思うけどね。」
……どっと疲れた、まるで嵐だったな。これで大会でも出くわすかと思うと憂鬱だ。しかも言っていることが本当なら実力は相当な物らしいし、戦わないといけないかもしれない。
あんなのと戦って勝ちでもしたら目を付けられそうだ…大会後の事を考えると心配だな。
解体した魔物の死体を燃やして宿に戻ると、すぐにベッドに崩れ落ちる。やっぱりああいう奴の相手は精神的に疲れるな。明日はどうか遭遇しませんように…