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魔法?いや、超能力なんです。(小休憩中)  作者: ぢそべ某
第3章!
44/45

#44 昼間の暗躍? 続

 










「さて、そろそろ行くか。」


 黒幕らしき老紳士が帰って少し経ったが、ドルルたちはどうやらここに留まるらしい。好都合だな。



 休憩していた王都の外れの廃れた飯屋から出て廃屋に向かう………廃れた建物ばかりだなこの辺は、流石王都の外れ。通り過ぎる奴等も人相が悪いし、空気も澱んでいる気がする。


 長居は無用だろう。黒仮面を再装着し、廃屋の扉を蹴り飛ばす。


 ドガシャーーーン!!



「―――――――――邪魔するぞ。」


「な、なんだテメェ!?何処の組の回し(もん)だ!」


「元二年A組だ、バカ野郎ッ!」


「グヘッ!!」


 驚いている若い方を飛び膝蹴りで失神させてから、【サイコキネシス】で作った足場を使いドルルの胸を殴り付け……ようとして避けられた。



「ほう、なかなか良い動きだ。只の人間にしてはやるな。」


「そいつはどうも、アンタも熊の割には素早いね。」


 そこそこ強そうだったから強さも速さもカシンの時以上を出したつもりなんだけどな。



「俺様をそこいらの熊人族と一緒にしないでもらおうか、俺様は選ばれた存在なんだぜ?」


「選ばれた存在?只の犯罪者が随分大きく出たな。」



「ふんっ!確かに今は犯罪ギルドの頭に過ぎないがこれからは違う。魔族(・・)の力を手に入れた俺様ならこの王都すら、十日もあれば壊滅させられるだろう。」


あの方(・・・)への手土産には充分だ。」



 おいおい、この感じだとあの方って奴が魔族の力を与えたって事か?これ以上の黒幕は勘弁だぞマジで。



「………だがその前に目障りなお前を殺してくれようか。あの守銭奴の協力でこの力も随分体に馴染んだが、戦える相手がいなくてな。」



 なるほど、あの老紳士はドルルの強化の為に利用されていただけなのか。黒幕みたいな雰囲気で紛らわしい奴だ。しかしまあ………


「………そいつは楽しみだな。」


 少なくともカシンよりは強いんだ、俺を楽しませてくれるんだろう。勿論、それが終わったらお仕置きだけどな。



「良い度胸だな、余程自分の力に自信があるのか。その度胸に免じて良い死に場所を用意してやろう。」



 そう言ってドルルが指をパチンと鳴らすと、ふいに景色が変わった。小川流れる谷間……山か。


「ここはハミル山脈のドラギャニオンだ。白竜の素材が俺様を強化する魔法薬に使えるもんでな、【転移リング】の転移先をここに設定しているんだ。」



【転移リング】………あの指輪がそうか。欲しいね。現在地は………ハミル山脈の奥の方だから、これがあれば移動の手間が減る。毎度飛ぶのはいい加減面倒だ。


 移動時間も鍛練だ、とかいう脳筋じゃないし。



「――――――では始めようか、さっさと構えろ。俺様はこのまま剣を使うが、望むなら素手で戦ってやらん事も無いぞ?」


「いや、そのままでいい。俺もこのまま戦うからな。」



「ほう?なかなか豪気な男だ。良かろう、敬意を表し俺様も素手で戦ってやろう。光栄に思うがいい。」



 なんかこんな反応ばかりだな、武器の扱いが得意じゃないだけなんだけど。素手じゃないとうっかり殺しちゃいそうだからね。


「じゃあさっさと始めようか。」


 軽い挨拶代わりに後ろへ回り込んで膝に蹴りを入れ……たが避けられ、お返しに右のパンチを受け吹き飛ぶ。やはり良い動きだし、パンチもそこそこ重い。



 試しに食らってみたが危うく川に落ちる所だった。【サイコメトリー】で過去の戦闘シーンを垣間見たがここまで強くはなかった筈だ。これが魔族の力というやつか。



「どうした?こんなの小手調べだぜ?」


「悪い悪い、思ったより強かったからびっくりしてな。もう大丈夫だ。」


 大体の強さは分かったからな。


 個人差はあるだろうが、魔族の力を手に入れると別人並に強化されるようだ。危ない事を考えている奴等がこの力を手に入れたら混乱を招くのは必須だろう。



 だが魔族の力を持っているのがギルドの中でコイツ一人と言う事は、力を手に入れるには条件や準備、何にしろ簡単にはいかないのだろう。詳しくはあの方(・・・)とか言う奴に聞けばいいか。


 そうと決まれば、早いとこコイツをぶちのめしてしまおう。



 先程よりスピードを上げ、再び後ろへ回り込むと腰へ蹴りを放つ。今度は反応出来なかったのか、見事にクリーンヒットして吹っ飛び山肌にめり込んだ。



「なるほど、この速さには対応出来ないのか。」


 さっきの二.五倍速だったんだが、振り向きすらしなかったな。受け身も取れていないし完全に無反応だった。まあ所詮この程度か。



「ぐふっ………なるほど、先程までのがお前の小手調べだったと言うわけか。では俺様も本気を出さなくてはな。」


 おっと?タフだな。手…足応え的には腰の骨が折れていてもおかしくないんだが。



「ふっ!ぐっ!がぁぁぁぁぁぁ!!」


 そんな呻き声を上げながら、ドルルの体から黒い光が漏れ出てくる。そしてそれと同時にその体がぐねぐねと蠢いたかと思うと、どんどんとその体を膨れ上がらせていった。



 辛うじて熊っぽさは残っているが頭からは羊の様な丸角が二本生え、いつぞやのグロースベアの二倍はある巨大な体躯。着ていた服は破れ足元に散らばるが、伸びた毛がその体を覆い隠している。


 随分とワイルド……というか人の枠から外れた見た目だ。指一本一本がワインボトル並の太さは幾らなんでも人外過ぎる。まあそれでも、指輪が壊れず幅が広がっているんだから魔法も大概何でもありだ。


「……待たせタな。これが俺様の本キ、魔族の力を解放シた真の姿だ。」

『何が俺様だい、オレっちの力を借りている分際で。』



 ?何故だがドルルとは別の声が聞こえる。ドルル本来の声は凄みが増してはいるが間違いなく本人のモノだ。だがもう一つの声は高い声で全く異なる。



『これだから下等種族はイヤなんだい。オレっちのような魔人が本来手を貸すのも光栄に思って欲しいねっ!』

「どうシた?この姿にビビったか?まあ無理もない。俺様は既に人に非ズ、この身はもう魔人のソレよ。」



 ………どういう事だ?言葉を信じるなら、声の主は魔人?とかいうヤツだ。そしてドルル自身も、体は魔人だと言っている。だがドルルには、この声が聞こえている素振りが無い。



 俺にしか聞こえていない?何故だ?クソ、分からない事ばかりだ。こういう時は無理に考えない方が精神衛生的に良いか。だが


「一つだけ聞きたい。お前はもう人間とは別の存在なのか?」



「無論ダ、そんな下等ナ生物の殻は脱ぎ去ッた。」


「そうか………ならもう遠慮はしない。」



「ン?それはどウいうk…ガハッ!!」



 俺の右アッパーがドルルの顎を捉え空へと打ち上げる。拳には骨の折れる嫌な感触が伝わるが、無視してそのまま懐へ手を伸ばす。


 取り出したのはコーランだ、残念ながらお仕置きは出来そうにないからこれで終いにしよう。



「どっちにしろ、今のお前の状態じゃ騎士に引き渡す訳にもいかないからな。悪いが消えてくれ。」


 ドュガーーーン!!!


 そしてドルルに向けて引き金を引く。空に打つ分なら手加減は無用だ、山を消し飛ばす心配も無い。ドルルは綺麗さっぱり消えてしまったがな。



「そんで、残ったのはコレだけか。」


 そう言ってポケットから取り出したのはドルルの【転移リング】だ。アッパーをお見舞いした時に【無限収納庫】でこっそり頂戴しておいた。


 スリにも便利な超能力だな………いやいや、ダークサイドに堕ちるつもりは無いけどね。



「さて、あとはアノ老紳士か。流石にこっちは魔族だの魔人だのはごめんだな、どうか普通の黒幕っぽい感じであって欲しいね。」


 普通の黒幕ってなんだって話だけどね。さあ、王都に戻ろうか。早速コイツを………



「………ん?あれ?これってどう使うんだ?」


【転移リング】の使い方が分からねえ………ボタンとか無いし、指パッチンしても何も起こらない。誰か取説ッ!


 はっ!も、もしや魔力が無いと使えないとかそういうパターンか?それは本当に勘弁だ。



「はぁ~仕方無い、とりあえず普通に戻るか。」


【転移リング】をしまってから、【透明化】で姿を消して【浮遊】で飛び上がる。割とトバしたから五分で着いてしまった。




 早速【千里眼】で老紳士を探すと、デカい商家の一室に奴はいた。どうやらこの老紳士は商人………それも豪商と言われるレベルの人物だったらしい。



 ドルルも良いパトロンを見つけたものだな。


 目的が魔族の力の強化だったからある程度能力や権力、金のある人材が好ましかったのだろう。



 キースからの調査書によるとエルピスって結構な値だったから、老紳士も金儲けに惹かれて喜んで協力した筈だ。



 けしからんな。


 肥やした私腹はまとめて俺が徴収してくれよう。











 老紳士の商家付近の路地裏まで飛び、そのまま様子を伺う事数分。豪商だけあって、商家のセキュリティもそこそこ万全らしい。


 隣接する倉庫にある商品の管理の為に武器を携帯した野郎が何人もいるし、庭には狼の様な魔物が数体解き放たれている。テイマーを雇っているのか、やるね。



 ………さてさて、どうやって侵入しようかな。


 とりあえずトップが悪だからといって下が全部悪だとは限らないわけだし、ここは穏便に隠密に侵入するべきだろうが。



 薄暗くなってはきたが闇に紛れる程でもない。


 かといって【透明化】を使っても、人目のある所で扉を開けて侵入しては不自然だ。



 となると一番侵入しやすいのは庭か、扉を開けても見ているのは狼もどきだけだ。狼相手じゃ姿を消しても匂いでバレそうだが、そのくらいは許容範囲だろう。




 路地裏から出ると【透明化】したまま五メートル程の塀を飛び越え、庭へと侵入する。すると直ぐ様狼もどきが反応し、匂いの源、つまり俺の元へと向かってくる。



 だが姿が見えないため、近くまで来たところで足を止めて辺りを見回している。このままスルーしてもいいんだが、帰りの事を考えると今対処した方がいい。



 対処、と言っても殺しはしない。


 コイツらに罪は無いし、無駄に殺す必要は無いからな。だからそう、軽く。軽く殺気を漏らす。



「お座り」


 殺気の乗ったその呟きが狼もどきの耳に届いたかは分からない。


 だが動物だけあって危険察知能力は高いのだろう。殺気に当てられた狼たちは即座に腹を地に着け顔を伏せた。



 ………これは【お座り】じゃなくて【伏せ】なんじゃないかな?とは思ったが、目的は果たせたし充分だろう。



 そのまま平伏した狼たちの間を通り家の中に侵入し………ようとしたが、室内の人通りが増えてきて侵入出来ない。お仕事お疲れ様です。



 はあ……やれやれ、狼の脅し損だなこれは。


 折角人の行き交う廊下を苦労しながら目的の場所まで行く、という忍者の真似事が出来ると思っていたのにこれでは無理だ。仕方無い。



 何の捻りも無いし簡単過ぎるが、【浮遊】で飛び上がり老紳士のいる三階の部屋の窓を開ける。鍵?【サイコキネシス】で簡単に開けられる。




「何じゃ?窓が独りでに………鍵は掛けていた筈なんだがなぁ。ワシもボケたか?」


 危機管理が無っちゃいないな、三階だからって透明な侵入者が飛んでこないとも限らないだろうが。



 窓を閉めに掛けていた椅子から立ち上がる老紳士の隣をすり抜け、机に腰掛ける。焦げ茶色の重厚で高そうな机だな、センスは良い。



「ドルルと一緒にエルピスを捌いている一人、で間違いないかな?」


【透明化】を解きながら老紳士に語りかける。老紳士は一瞬驚いた後、軽く微笑みながら俺を見つめた。



「ふむ、窓が開いたのはそういう事じゃったのか。してお前さんは………王国騎士には見えんなぁ。」



「只の一般人だ。エルピス関連の事件が五月蝿かったから対処しようと思ってな。ちなみに、ドルルはもう処置済みだぞ。」



「!?なんと!あのドルルをか?――――――それではワシは勿論、ワシの部下も手も足も出せんな。」


 そう言いながらゆっくりと机を横切り扉の方に近づいて行く。今更逃げやしないだろうが、一応警戒しておくか。


「まあそういう事で、お縄につけ。」



「………ふぉっふぉっ、詰めが甘いな。ワシがエルピスに関わった証拠は何処にも無い。例え捕まっても、証拠不十分ですぐに釈放だろうなぁ。」



「ふーん、まあそんな事だろうとは思ったけどな。そもそも俺の行動自体、自己満足ってか八つ当たりみたいなモンだし。」



「………じゃあ捕まえるのも殺すのも勘弁してやるから、今後一切悪事を働かない事を誓って貰おうかな。」


 いくら八つ当たりでも流石に殺すのは問題がありそうだしね。


「殺されないとは魅力的な提案じゃが、それをワシが守るとでも?」



 その言葉と同時に、部屋に武装した男たちが大勢流れ込んで来た。いつのまに呼んだのか………まあいい。



「形勢逆転じゃな。確かに一人一人の力は弱いが、ここまで囲まれては分が悪かろう。どうする?そのまま窓から逃げるか?」


「その選択肢は無いねぇ、だって逃げる必要無いもん。」


 バタバタバタ、と男たちが次々に倒れていく。【サイコキネシス】で昏倒させただけで殺してはいない。



「な!?い、いったい何が?」


「お前が知る必要は無いものだ。さて、形勢逆転の逆転なわけだけど、そのまま扉から逃げるか?」


「ぐっ………約束を守れば命は助けて貰えるんじゃな?」



「ああ、約束は守ろう。」


「………分かった。今後一切、悪事を働く事を止めよう。」



「よしよし。まあ保険のために、一応呪いの魔具でも装備してもらおうかな。」


 そう言って【製氷】で、老紳士の手首に蛇が尻尾を咥えた様な毒々しいデザインのブレスレットを作成する。【物質変化】で硬度を最大まで上げたから、自力で外すのは不可能だろう。手首を切り落とさないと。



「これは?」


「呪いの魔具【悪即粉輪(あくそくふんりん)】だ。装着者が悪事を働くと感知して、装着者を粉にする。」


 分かりづらいだろうからデモンストレーションといこうか。



【製氷】で簡単なマネキンを作り、手首に老紳士と同じブレスレットを着ける。ついでに、簡単なライターサイズの押しボタン式スイッチも作成する。



「分かりやすいように実演してやろう。このスイッチを押せば、粉になる。ほいポチッとな。」


 マネキンの肩に手(・・・)を置きながらスイッチを押すと、ブレスレットを残してマネキンがキラキラと粉に変わる。



 ようやくこの道具の恐ろしさが分かったのだろう、老紳士は顔を真っ青にして震えている。



「とまあこんな感じだな。ちなみに悪事の基準だけど、自分でやるのは勿論、他人に命じるのも禁止だ。悪意ある行動に出た時点で終わりだから注意な。」



「わ、分かった。」



 ………さて、脅すのはこのくらいにしておくか。ハッタリでも効果は抜群だな。当然の事ながら、俺に呪いの魔具なんて作れるわけはない。



 只のブレスレットにそんな力が付けられるかっての。粉にしたのも、こっそり【物質変化】を使っただけだし。でもこんな実演を見せられたら、まともな人間ならもう悪事を働く事は出来ないだろう。悪意の搾取は完璧だ。



 これで一件落着、かな?とりあえずは。


 後処理も多少はあるだろうけど、それは明日にでもしよう。晩御飯もそうだが、カシンが自宅に来るかも知れないからな。










 ―――――――――でもその前に、肥やした私腹を根こそぎ貰ってもバチは当たらんよね?


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