#43 昼間の暗躍?
持て余していた物々を【無限収納庫】に押し込み、一階へ下りて朝食を食べる。疲れているだろうに、相変わらず美味い。
さて今日の予定だが、とりあえず昨日出来なかった犯人探しをしないとな。エルピス関連の情報はキース頼みだが、オリヴァーを殺した犯人位なら俺でも探せる。
店に行って【サイコメトリー】を使えばすぐに判明するだろう。あとは【千里眼】で見つけるだけだ。
一方のマオとシリュウだが今日はマンサルドに行くらしい。何でも若い金竜や虹竜が使う良い修行場があるとの事。
前回と前々回だけではその全貌が分からずシリュウから聞いた事もまとめると、マンサルドは地球とほぼ同サイズの星であり、大きく分けると十二の島がある。
殆んどは異常気象や特殊な磁場の影響があったりと過酷な環境の島だが、シリュウが把握しているのはその内の三島。
そして毎回訪れているのは数少ない安定した環境である【三島】と呼ばれるシリュウが本拠地にしている島だ。
他に把握している島はそれぞれ【一島】【二島】らしいが、今回行くのは【二島】。
【二島】は異常気象は比較的少ないが特殊な磁場が至る所に発生しており、その中でもとある巨大洞窟の中は顕著でその影響か重力が重い。
異世界だろうと生体組織が外部から磁場を加えると逆向きに磁化する【反磁性】は変わらないのだろう。上下共に磁場が発生する洞窟という環境だからこそだ。
恐らく、天井付近の磁場の力の方が強い為に重力が重くなるのだろう。深く進むほど地下に潜るせいで磁場の力が強くなっていくが、浅い所なら鍛練にちょうど良いらしい。
【物質変化】を駆使して手足に付ける重りでも作ろうかと思っていた矢先の良い鍛練場の登場か。少し寂しくもあるが、シリュウの気遣いを無下にする事もない。
マンサルドだろうが、シリュウならマオをちゃんと守れるだろうしな。一応、苦手だが回復魔法も使えるらしいし多少の怪我なら許容範囲だろう。
家に帰ってきたら【病食】を使えばいいんだし。
過保護過ぎるのも信頼していないように見えるし、この位が妥協点だろう。一応、マオたちが出掛ける前に【風切】を強化しておく。
シリュウの竜牙粉を塗布するだけでも強力な強化になるのは、ついさっき【千里眼】で確認済みだ。白竜の竜牙粉を塗布した武器が武器屋に売られていたからな。
最弱竜の白竜の物だけあって割と安かったが、こちらは竜種の王だからな。比べるのも失礼だろう。
ついでに革鎧にも竜鱗粉を塗布しようかと思ったが、只の革鎧なら丸々竜鱗で作った方が丈夫だ。【風切】と違って魔具でもないから大事にする理由もない。
何処かの防具屋のちょうど良い鎧でも参考にして軽く作って、あとでマオの寸法に合わせるか。ホルスター作りのお陰で、竜鱗の加工にも随分と慣れたから大丈夫だろう。
マオとシリュウを見送ってから、自室に篭って鎧の作成に取り掛かる。そういえば、オリヴァーの店にちょうど良いお手本があるのを忘れていた。
確か三番の軽鎧だったか?【千里眼】で確認すると、店の奥に該当の鎧を見つけた。見本用だからか木製の鎧だが、形状の把握には問題無い。
【無限収納庫】からシリュウの竜鱗を取り出し、【物質変化】で粘土状にしてから形を作っていく。いい歳して粘土遊びに興じているように見えなくもないのが心配だが、それ以外は概ね順調だ。
胴体に続き足甲、手甲を作っていく。手甲には外側に向けて小さくしたシリュウの牙を付けたり、所々に金竜の鱗を貼り付けて色味のアクセントにする。
あら?なかなか良い出来なんじゃない?最後に材質を元に戻せばとりあえず完成だ。昨夜隅々までマオの体を堪能したからサイズもそこまでズレてはいないだろう。
しかし……防具一式を作ったというのに、鱗のサイズがデカいから三枚しか使わなかったな。軽いから少し厚めに使ったというのに。
せっかくだから俺とシリュウの分も作るか。どうせなら皆で揃えた方がいい。昼までには終わるだろうから、終わり次第キースの店に行こう。
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「―――――――――それじゃあ、集まった情報はこいつに書いてあるからよ。」
「ありがとうございます、キースさん。」
二着の竜鱗鎧を作り終わってからキースの店に来ると、情報はちゃんと集まっていたようだった。三枚の羊皮紙と引き換えに金貨を三枚支払い、内容を確認する。
「書いてある通り、売り捌いてるのは犯罪ギルド【熊猫会】の下っ端だ。大半が熊人族と猫人族で構成されているが、下っ端は人族が多いらしい。」
熊猫なのにパンダでは無いのか、まあ熊猫人族は流石にいないよね。
「熊猫会は王都の中でも大きい派閥で構成員は五百人強、頭目は熊人族の【ドルル】だ。左頬と右目に大きな傷がある大男で髪は赤、普段は虎柄のターバンを巻いてる。」
「よくこんな細かい事まで分かりますね。」
「蛇の道は蛇、てな。他の犯罪ギルドに伝があるんだよ。」
なるほど、便利だな。
キースの店を後にしオリヴァーの店に行く。いや、もうオリヴァーの店ではないか。ノエルちゃんだっけ?
二階へ上がると部屋はそのまま、解体した棚が隅に積み上がっている。ノエルちゃんは一階で作業中らしいから、気付かれない内にとっとと済まそう。
説明が面倒だからな―――――――――よし、犯人の顔は覚えた。とりあえずコイツは先に押さえておくか。
どうせ娼館とかカジノのエリアにいるだろうが………ミツケタッ。カジノでポーカーに勤しんでいやがる。いいご身分だな。
「………くっふっふ。」
おっと、つい笑いが。
カジノ内じゃ下手な行動には出られないから、カジノの横のホテル内のカフェで軽食を済ませながら時間を潰すか。【千里眼】があればわざわざ張り込む必要もないし。
スイーツに舌鼓を打ちつつ時間を潰していると、ヤツが外に出るのが見えた。顔や服装は普通、ただ顔色が悪く不自然な程に汗をかいている。
模範的な薬物常習者のソレだな。
少し懐かしい黒い仮面だけ着けて【キャッスル】に変装してから後ろを付けて歩いていると、少しして路地裏に入るのが見えた。慌てて後を追う、人通りも少ないしここでいいだろう。
「――――――おい。」
「あン?変な仮面着けやがってナニモンだてめぇ?ナンか用か?」
「………昨日の昼間、何処で何をしていたか覚えているか?」
「昨日の昼間ァ……ああ、おっさん殺して臨時収入がアったなぁ。」
ケヒヒィ、と笑いながら心底嬉しそうに喋る顔を見ると沸々と怒りが沸いてくる。さて、どうしてくれようか。
「――――――アガァ!?」
とりあえず両足の骨は折っておこう。【サイコキネシス】で防音の壁を周囲に展開したから、邪魔も入らないし音も漏れない。
勿論、足を折るのに【サイコキネシス】は使っていない。ローキックでしっかりと膝を砕いておいた。味気無いからな。
「な、ナンだよ!?オレっちがナニしたってんだよ!?」
「……あえて言うなら、俺の逆鱗に触れたからだな。」
「ハァ?意味分かんネ…あぐぁッ!」
分からなくていいよ、ついでに喋らなくてもいい。だから顎の骨だって握り潰してもいいよね?あとでちゃんと治してやるから安心しろ。
「――――――まあ今後は、他人に迷惑をかけないようにな……今後があればだが。」
俺は出来る限り普通の人間を殺さないように決めているが、強盗殺人がどの程度の罪になるか分からないからな。薬物乱用も合わさるからそこそこ重い罪になるだろう。
犯罪奴隷に堕とされるのが一般的なのかな?最悪死刑もあるだろうが。市中引き回しの上、打ち首獄門みたいな。エグいな。
まあどうでもいいか、自業自得だし。さて、そろそろコイツを駐屯地に連れていくか。暴れられると面倒だからサクッと意識を刈り取り、【病食】で怪我を治す。
証拠隠滅は終わり、っと。
ついでに所持品を探ってみると、怪しげな錠剤を見つけた。小汚く小さい麻袋に丸い錠剤が十個。厚みが五枚分の一円玉サイズだ。
これを【サイコメトリー】で調べて芋づる式に関係者を洗ってもいいんだけど、幸いキースからの情報で黒幕は把握済みだしな。
早速【千里眼】で………おっと、その前にこのゴミを駐屯所に。【透明化】してから空を飛んで駐屯所まで行き、着いた所でそのまま空中から落とす。
飛んでいる最中は掴んでいるから透明になっているが、手を離した瞬間に【透明化】は解除される。
傍からみれば空中からいきなり現れたように見えるが、まあいいだろう。周りは騒いでいるがお陰でゴミも目を覚ました。
あとは騎士連中の仕事だ。ノエルちゃんから犯人の様相は聞いているだろうし、目撃情報なんかもきっとあるからすぐ犯人だと分かるだろ。てか分かれ、仕事しろ。
私情混じりとは言え一市民の俺が色々やってんだから。
さて、次は本命。犯罪ギルド【熊猫会】の頭目、熊人族のドルルだ。早速【千里眼】で………見つからねえ。特徴は分かっているんだが、人が多すぎる。
さっきの奴は【サイコメトリー】で視たから良かったが、コイツは聞いた情報だけだしな―――――――――仕方ない。【サイコメトリー】による芋づる式を取るしかないか。
先程の錠剤に【サイコメトリー】を使い記憶を読み取っていく。やれやれ、時間がかかりそうだな。いったい何人目でドルルに行き着くか。
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―――――――――エルピスから始まる【サイコメトリー】を使っての連想ゲームは、なんとか二桁の人数に到達する前に終わりを迎えた。
………長かった。エルピスから読み取れた売人をぶちのめし、そいつから次の関係者にハシゴしていくこの三時間は。特に最初の方は下っ端過ぎて全然幹部っぽい奴に繋がらなかったからな。
なんとか途中で会議のような場面を視る事が出来たから良かったものの、危うく下っ端ループをするところだった。
だがそれもコイツで終わりだ。
熊人族のドルル。
王都の外れにある廃屋にいるのをついさっき【千里眼】で見つけ、今さっき着いた所だ。
聞いていた通りの大男だが、髪の色が白く、左頬と右目にある筈の傷が無かった。【サイコメトリー】で視てみたが、どうやら美容整形って訳じゃ無さそうだな。
他の奴の記憶を覗いてみると一月程かけてゆっくりと今の体に変化していったようだ。魔法か魔法薬の効果ってのが相場だろうが、よく分からん。
そこまで興味もないしな。俺なりのお灸を据えてあとは騎士に引き渡せばいいだろう。
興味があるのはドルルと共にいる男たちだ。
一人は商人……というか豪商と言えそうな身なりの良い老紳士。還暦を迎えていそうな年齢だがその体はガッシリとしており、跪いて尚、力強さを感じる。
もう一人は【サイコメトリー】でたまに見掛けていた【若頭】とか【若】とか【坊っちゃん】と呼ばれていた二十代後半の男だ。
こちらは隣のジジイと比べるまでもなく荒事が苦手そうなひょろっとした男だが、髪は赤く、そして何より熊人族なので恐らくドルルの息子か少なくとも親戚だろう。
息子っぽい方は兎も角、豪商らしき老紳士までいるとなるとなかなかキナ臭い。
ああいう輩は自分大好きで金と権力を渇望し、その為に色々な物を利用する。金と権力を駆使すれば大抵の事は出来てしまうからな。
自分が捕まらないように、捕まってもいいように準備をしている可能性なんかは充分に考えられる。【サイコメトリー】で視た時もまったく出てこなかったしな。
用心深く接触は最小限に抑え、本当に必要な時に必要な奴にしか姿を現していない証拠だ。
ん………これ黒幕はドルルじゃなくて老紳士っぽいな。お互いに利用しているのは確かだろうが、それも含めて老紳士の策だろう。
流石のキースでも真の黒幕には辿り着けなかったって事か。
「―――――――――お、老紳士が帰っていく。」
お話は終わったらしい。どうせ必要ないから内容は聞いていないが、録でもない事だろう。
さて、老紳士は顔も覚えて後回しで良いとして、まずは気を取り直してドルルからだな。俺のお灸は熱いぜ。




