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魔法?いや、超能力なんです。(小休憩中)  作者: ぢそべ某
第3章!
39/45

#39 エルピス?

エ○ビスではありません、エルピスです。

終盤にちょろっと出てきますよ。

 










 美味しい美味しい晩御飯を食べ、少し休憩してから四人(・・)でマンサルドへ向かう。しかし晩御飯の牛スジ煮込みっぽい料理は美味かった。筋張って硬そうに見えたが、長時間煮込まれて口の中でホロホロととろける食感は素晴らしい。


 何時ぞや買った肉料理の料理本が役に立っているようだ。



 しかし……まさかマオまで付いて来るとは思わなかった。辺りの景色を珍しそうに眺めているが、割と危険だからあまり離れないでね?まあ暗くないから何かあってもすぐ気付けるけどさ、ここって昼間しかないのが救いだ。



「それでシリュウ、金竜ってのは何処にいるんだ?」


 転移されたのは前回同様、洞窟の前だ。他の魔物はここがシリュウの寝床だと理解しているのか近寄らず静かなもので、周囲を視まわしても全然魔物がいない。金竜って言うんだから金ピカなんだろうか?



「奴等は多分この近くの洞窟か山岳にでもいる筈です、成熟した竜は基本寝てますからね。」


 寝てるのか、道理で前回俺が騒いだ時に来ないわけだ。その割にシリュウは来ていたが……やはり王龍としての責任感とか色々あったんだろうか。



「では奴等を起こすために、一度龍の姿に戻らせて頂いても宜しいでしょうか?」


「うん、どうぞどうぞ。」



 呪文を唱え龍の姿に戻ったシリュウは上空に駆け上がると大きく息を吸い、そのまま雲を貫くような咆哮を上げる。いや、実際に雲が消え去ったな。


 空気が震えた、どんな寝坊助でも飛び起きる様な凄い迫力だ。近くの森からは沢山の鳥がバサバサと飛び立ち、洞窟もグラグラと揺れて天井から岩が落ちてきた。



 幾つか近くに落ちてきたのでコーランを使って木っ端微塵にしておく。射程を調節すれば、岩を粉砕しつつ洞窟を傷付ける事も無い。




 少しして遠くの空がキラキラと光るのが見える。


 数は二十……三体か、陽を浴びて鈍い金色と鮮やかな虹色の竜の姿が近付いてきた。金竜は予想通りの金ぴかだが、虹竜は想像以上に綺麗だ。安直に七色の縞々姿を想像していた俺をぶん殴りたい。



 実際は曇った色ガラスが何枚も重なったような……俺の語彙力では表現出来ないような幻想的な鱗を纏っている。



 でもこんな鱗ならシリュウのような東洋タイプの龍の方が格好良かったと思う。だが残念ながら龍ではなく竜だ、つまりは西洋系のデカい翼のある巨大トカゲみたいなフォルムである。



 白竜の色違いと言えば簡単だが、サイズは五~六十メートルと段違いの大きさだ。シリュウよりは小さいが充分デカいと言えよう。流石"天災"と評されるだけある。金竜は一回りばかり小さいが充分だろう。



 前に読んだ魔物図鑑ではもっと大きい魔物もいたんだが、強さで言えばこちらの方が上だなんて竜ってやっぱり凄いね。



 何匹かこちらに気付いて口元を光らせていた(多分ブレス的な攻撃)が、シリュウに何か言われてすぐに止めた。生憎距離があって聞き取れないし必要もないが、雰囲気的に怒られたっぽいな。


 その後幾つかの言葉を交わすと、金竜だけがここを離れていく。



 剥がれた鱗を住み処に回収にでも行ったのだろう。虹竜にはもう用は無い筈だが帰らない様である……あれ?虹竜が光り出して、その光がシリュウの元へ吸い寄せられている。何してんだろな?



 その光景は金竜が戻ってくるまで続き、戻ってきた金竜が鱗を渡した後は恭しく頭を下げて全ての竜が去って行った。それを見送ったシリュウは戻ってくると、俺たちの目の前で人の姿に変化した。手には、一メートル弱の金色の鱗を二十枚近く持っている。



 二十三体の内、金竜は十体だったから一体当たり二枚の計算だ。そう考えると意外と少ないが、彼等は普段寝ていて鱗が剥がれる様な要因が無いかららしい。



 シリュウの場合も、俺との戦闘で剥がれた分を魔法で回収してきた物が大部分らしい。


 洞窟にあったものは数百年前の物で多少の劣化があり、相応しく無かったから寄越さなかったようだ。



 ………いやほんと、申し訳ないです。




 さて、これで俺の目的は果たしたのでここからは三人の付き添いだ。リリアンが薬草の採取、シリュウは薬草の説明、そしてマオはそれを手伝いながら周りを散策する。リリアンにはシリュウが付いてくれるから、俺はマオと共にいよう。



 洞窟周辺の森を散策しながら、今回はもう少し周りに目を配る。攻撃的な動植物に目を取られて気付かなかったが、意外と食べられそうな野菜や植物も多い。シリュウに確認すると、実際に食べられるようだ。



 ただサイズ感が少し大きい。バスケットボール位のスイカ柄の実が木に生っていたり、ちょっとした崖下の地面から十数倍デカいサイズのタケノコが剣山のように密集して生えている。タケノコは天然のトラップだな、尖がった先端に青い牛のような魔物が串刺しになっている。



 まあそんな物でも食べると美味いらしいので、何本か切り取っておこう。流石にタケノコを生で食う訳にもいかないので、他の果物をもいで空腹を満たす。スイカ柄は見た目の割にメロンのように甘々だったので、これも少し持ち帰ろう。


 他には人の頭大もあるイチゴを生やした木が背中にあるデカい亀もいたが、温厚な性格らしいのでイチゴだけ貰っておいた。味は適度な酸味があって甘さが際立つ正にイチゴだ。



 そんな一時間を過ごしていたらリリアンから引き揚げ要請が来た。リリアンのホクホク顔を見るに、大満足のようだ。俺も久し振りに甘々を味わえて大満足だ。こっちのスイーツは甘さが控えめで足りないからな。


 砂糖が高くてふんだんには使えないからだろうか?今度大量に買って、砂糖を大量に使ったクッキーでも作ってみよう。オーブンなら【発火能力】と【サイコキネシス】で再現可能だしな。






 △▼△▼△▼△▼△▼






 元の世界に戻りリリアンを見送ってから、切り分けた果物を冷蔵庫に仕舞おうと思って……サイズ的に入らない事に気付いた。どうしようか迷った挙句【瞬間冷凍】でカチコチにしておいた。【物質変化】は掛けていないが、ここまで凍ったら解凍まで時間がいるだろう。


 ひとつオレンジっぽい味がした青い果物があったので、それは風呂を沸かす時に湯船に浮かべておいた。柑橘系の匂いが浴室に充満して良い感じだ。美容とか健康に良い効能がある事に期待しよう。



 いつも通り最後に風呂に入ってから自室に戻って改めて気付いたが、鱗にだいぶ部屋を侵食されているな。オークションで稼いだら、もっと大容量のバッグを鱗用に買っておこう。簡単に手に入ったから分かり辛いが、結構な貴重品らしいからな。



「――――――あ、食料切れてる。」


 バッグから食料を取り出そうと思ったらもう無くなってたか。果物じゃ空腹を埋めるには力不足だが、かといって冷蔵庫の食料を食うのは悪い気がする。ここは今朝同様、アソコにでも行こう……うん、ちゃんと営業中だ。






「―――いらっしゃい!……おっと、朝にも来た大食いの坊ちゃんじゃない。また来てくれたんだね。」


「はい、ここの味が気に入りまして。とりあえずビーフラグー五杯、五つともパンで。」


「はいよ、ちょっと待ってておくれ。」



 もう気付いているだろうが、今朝も来たビーフシチューもどきを出すカジノや娼館エリアにある店だ。現在時刻は九時過ぎだが、朝からずっと営業しているんだろうか?一応、店員が二人増えているが店主であるメロンさんは変わらずいる。



 奥の店員さんは見た目が三十代位のおっさんとおばさんだが、店主と同じように額に角が生えているだけの種族のようだ。まあ角はどうでもいいんだけど。さて、いったい誰がこの美味いビーフシチューを作っているのか?


 それが問題だ。流石にレシピを聞くのはどうかと思うので、今度マオたちを連れて来て再現を頼んでみよう。



 考えている内に出来上がったビーフラグーを次々と口に運びながら、ふと思い出した事を店主に聞いてみる。


「そういえば今日の昼頃、ここいらでおっさんが騒いでましたね。やっぱりああいうのは多いんですか?」


「ん~まあ昼間から飲んでる人とかガラの悪い人が騒いでるのは結構日常茶飯事なんですけど、どうも今朝の人は違うらしいんですよ。」


 違う?



「常連さんに情報通な方がいて騎士様から聞いたらしいんですけど、なんでも騒いでた人って最近流行ってる【エルピス】の常習者だったんですって。」


「エルピス?」



「知らないですか?今王国全土で問題になっている危ない薬ですよ。凄く気持ち良くなるとか、お腹が減らず寝なくても平気になるとか、集中力が上がって仕事が捗るとか色々甘い誘いで種族年齢問わず色々な人に広まっているんです。」



「でも依存性が高くて、効果が切れた後は幻覚を見て我を失ったり色々酷いらしいですね。今回の人も薬が切れたとか言いながら騒いでいたみたいですし。」



 要は覚せい剤か……この世界にもあるのかよ、まったく。どうせ裏社会で収入源になってるんだろうな。進んで如何こうは不毛だからしないが、俺の生活圏に侵入してきた場合には対処しなければ。



 一応、キースにでも頼んである程度の情報は把握しておこう。俺の知り合いにそんな甘い誘いに乗りそうな奴はいないが、常習者に出くわす位なら可能性はあるかも知れないからな。



 もう少しの詳細を聞きつつビーフラグーを腹に収め、三十杯を超えた所で店を後にする。繁華街だけあって人の喧騒が辺りを包んでいるが、昼間見たような不自然な騒ぎ方をしている奴はいないようだ。


 流行っているといっても、そこまで表に出る事でもないらしい。



 さて明日には……正確には明日の陽が昇ってから超能力が使えなくなる事だし、帰ったら金竜の鱗を徹夜で加工するとしよう。今回オリヴァーに渡す予定の物は未加工で良いとして、量があることだし売却する分以外にも何枚か竜鱗粉にして保存しておこう。



 残りは今後の為に未加工で保存しつつ……折角だから構想していたアレでも何枚か使って作ろうか。金竜の鱗だと少し派手だが、シリュウの鱗よりは常識の範囲内だろう。【製氷】の活用方法が見出せてなによりだ。




 ―――――――――さあ、時間は有限だ。早いとこ帰って作業に取り掛かろう。


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