#38 工作?
その後休憩を挟みつつの三時間程の鍛錬を終え自宅に戻ると、シリュウとお喋りしている水色の髪の人物が見えた………え~俺ってば家を教えた覚えないんですけど。ストーカーなの?
「――――――あ!おかえりユート君、おじゃましてるよ。」
「……いや、それはいいんだけどどうして家が分かったんだ?」
「……愛の力かな!」
「よし、いますぐ叩き出すか。」
「わあわあわあ!ちょっと待ってって冗談!冗談だから。実は新しい【魔法薬】を開発してね、嗅覚を上げる効果が出来たから家に残るユート君の残り香を辿ってここまで来たんだ。」
犬かよ、薬程度でどんなポテンシャルまで嗅覚引き上げられてんだか。魔法薬って凄いな。
「ちなみに、その魔法薬はマンサルドで見つけた薬草を元に作ったんだよ。いや~まだまだ面白そうな薬草がいっぱいあって凄いね。」
「へえ~あの時の薬草でか―――おっと紹介が遅れたな、このアホっぽいのはリリアンだ。シリュウを仲間にするに当たってとても役に立ってくれた。でリリアン、この可愛い可愛い猫人族の子が前に話したパーティーメンバーのマオだ。」
「は、初めましてリリアン様。ご主人様の奴隷のマオと申します。」
可愛いの言葉で赤面するマオ可愛い。
「うん!初めましてマオちゃん、リリアンって気軽に呼んでくれていいよ。私もマオちゃんって呼ぶからさ。」
アホっぽいの所スル―していいのか?
「ではリリアンさん、と。リリアンさんはご主人様と同じように魔法士なんですね。」
「――――――え!?ユート君魔法士なの?シリュウちゃんと戦う時も拳一つだったしてっきり【武闘家】の一種かと……まあその割には身なりが良いとは思ったけどさ。」
OH……そこら辺の口止めは忘れてたな、まあ適当に誤魔化そう。
「魔法士って言っても大した魔法も使えない道具に頼り切りのにわか魔法士だけどね。」
「ふぅん、そうなんだ。まあユート君なら魔法なんて使えなくても平気でしょ。あれだけマンサルドで無双してたんだから。」
お?先に色々見た後だから魔法については追及されずに済んだな。
「あ、マンサルドといえば、シリュウに頼んだらいつでも行けるみたいだぞ?」
「うん、聞いた聞いた。今後も調査出来ると思うと嬉しいねぇ。―――でそうそう、今日ここに来た本題を忘れる所だったよ。」
……なんとなく嫌な予感がするから聞きたくないなあ。
「実は商人ギルド主催で今度オークションが開かれるんだけどさ、一緒に行かないかな?」
あら?嫌な予感が珍しく外れたな。
「それなら俺もちょうど行こうと思ってたとこだ。ちなみに言うと出品もするぞ。」
「出品?何出すの?」
「シリュウの鱗と牙。」
「ホントに!?文献じゃあ両方とも破格的な性能だしそのままは不味いんじゃないかな……粉末にして【竜鱗粉】とか【竜牙粉】にでもして出品するにしてもちょっとだけの出品がいいと思うよ?」
「性能って?」
「確か鱗には物理攻撃と魔法攻撃の大幅耐性なんかが標準で付いてる筈だし、牙には敵の防御力を無効化したり魔法を物理的に破壊出来る効果もあるって話だよ。」
マジでか。
「竜鱗粉とか竜牙粉ならせいぜい国宝級の魔法薬とか魔具の素材程度だと思うからさ。そのまんま持ってったりなんかしたら大騒ぎだよ。鑑定師なんか驚き過ぎて心臓止まるかもよ?」
「そうか……危うくそのまま出すとこだったわ。ありがとなリリアン。」
「えへへ~いいっていいって。その代わり、今度マンサルド行くのにシリュウちゃん借りるから付き合ってよね。」
「はいはい、仰せのままに。」
しかし防具にするには良い性能らしいが、そんな性能の鱗をどうやって加工するのか。
「ちなみに竜鱗と竜牙で防具を作ろうと思ってたんだけど、それは可能かな?」
「え!?う~んどうかな……それこそ人間国宝級の鍛冶師が何人もいて何年も使えばギリギリ可能かと思うけど。」
人間国宝ってワードあるのね、いやまあそれはおいといて。
「ん~キツイな。そんな人を使える人脈なんて無いし……自分で作った方が手っ取り早いか。」
オリヴァーには悪いが流石にそんな素材の加工はキツイだろう。さて、どうやって断ろうか。料金にも竜鱗って言ってるから難しいな。
「はい!?いやいや、だから凄腕の鍛冶師が何人もいれば可能な物なんだよ?ユート君って鍛冶師だったの?」
「鍛冶師ってわけじゃないけど加工は可能かな、多分。問題はデザインだけど、それは知り合いに意見でも聞くから大丈夫だ。」
「はあ~多才だねユート君は。」
超能力を駆使すれば不可能な事はほぼ無いからな。しかし……上手い言い訳を用意しつつ、詫びの品でも贈れば大丈夫だろうか?そこそこ価値のあるもので、シリュウの鱗や牙ほど非常識な価値が無い物……なんだろ?
「――――――シリュウ、マンサルドには他にも竜っているのか?」
「はい、我の眷属の虹竜と金竜が数十体ほどおります。」
「そうか……リリアン、虹竜とか金竜の鱗だったらそこまで騒ぎにはならないかな?」
「う~ん一応どっちも天災と評されるレベルの魔物だけど……金竜の鱗なら前に一度だけ見たことあるから、まだ平気だと思うよ。」
「よし、そうか。じゃあシリュウ、悪いけどあとでもう一度マンサルドに行かせてもらえるか?その金竜?の鱗と牙を貰いに。シリュウの眷属だし、頼んだら分けてもらえるよな?」
「ええ、可能であります。奴等はこちらの竜と違って知能も高いので、我が頼めばすぐに応じるでしょう。」
なら良かった。これでオリヴァーへの対処はバッチリだろう。さて、あとは今後の加工用に竜鱗粉と竜牙粉でも作っておくか。明日は超能力が使えなくなるから巻きで。しかし、随分と早いペースで来たものだ。
前々から考えていたが、やはり使用頻度が多くなるとそれだけ早まるようだな。こっちに来てからは結構頻繁に使ってしまっているからそれも仕方ないのかも知れないが、肝心な時に使えなくて困る事が無いよう今後は抑えていこう。
強い武器も手に入れた事だしきっと大丈夫だろう。
「――――――それじゃ、適当に寛いでてくれ。」
「うん、ありがとね。さ、マオちゃんにシリュウちゃん、女子だけで楽しくお喋りしよー!」
リリアンもマンサルドに行きたいと言い出したので、このまま滞在してもらう事にした。どうせ暇だろうし、二人とお喋りしたいようだったからな。そもそもシリュウとお喋りしてたしね。
行くのは晩御飯を食べた後だから、女子トークに花でも咲かせて精々ゆっくりとしてもらおう。
さて、俺は自室で一人寂しく作業だ。竜鱗粉と竜牙粉の作成をちゃちゃっと済ませるか。袋に入った竜鱗と竜牙をそれぞれ一つ取り出すと、【サイコキネシス】で作った透明のテーブルにそれぞれ載せる。
そして両方に手を添えると、とある超能力を発動する。それは【物質変化】。触れた物質の性質を変化させ固定する超能力だ。
金属を液体や粘土状にする事も可能で、加工にはもってこいだろう。
そして今回はこの超能力によって竜鱗と竜牙を一瞬にして粉状に変化させる。楽な仕事だな。実際にコレを削って粉状にしたら大変なんだろうが。
さて、これで宙に浮きあがる紫色と白色の大量の粉が出来上がった。鱗は繊維層、骨質層、そして魚の鱗で言う象牙質やらエナメル質っぽい硬質の重層に分かれてはいるが、濃淡に違いがあるので分けて保管した方が良さそうだ。
あとは適当な瓶にでも詰めればいいんだけど、生憎そんな気の利いた物は無い。
だが無い物は作ればいいのだ。【製氷】によって高さ十センチ程度の三角フラスコの形の小瓶を大量に作り出す。おっと、蓋もか。同じく【製氷】でコルクのような短く太い棒を大量作成する。容量でいえば百ミリリットル位だろう、目安だけど。
小さい物の作成は意外と大変だ、底が歪んだり大きさがバラバラだったり神経を使う。なんとか納得出来る物が百個出来た所で【物質変化】によって三角フラスコの固体状態を固定すれば、溶けない氷の完成である。
ガラス細工みたいなもんだろう、強度は金属並に上げてはいるがな。コルクの方には、ゴムのような弾性を持たせればコルクとして代用出来る。あとは【サイコキネシス】で零さないように小瓶に詰め込めば、竜鱗粉と竜牙粉の完成だ。
ちなみにこの小瓶自体や小瓶に掛けた【物質変化】の超能力は、明日の様に超能力が使えなくなったとしても効果は永続される。流石に掛けっぱなしの【サイコキネシス】は効果が無くなるけどな。
しっかし竜鱗の大きさは百五十センチを超え厚さも四、五センチ位で、竜牙ですら長さ一メートル弱だったため当然粉となる量が多い。
目算では竜鱗粉の小瓶は千個弱、竜牙粉の小瓶ですら二百個を超える瓶が必要になる……流石に数が多くなるから、もう四百個作ってから大容量の瓶を作成して残りを詰める。
合計で小瓶五百個と大瓶三十個だ。竜鱗粉は三つの層別に各百個ずつ詰め、竜牙粉は二百個の小瓶に全て詰める。余った竜鱗粉も層別に各十個の大瓶に詰める。
見た目の割に軽い竜鱗と竜牙なので、中身より瓶の方が重いのが考えものだ。場所も取るしな。魔法のバッグに仕舞ってもいいが、これ以上重くなられると肩紐が切れる。
仕方無く部屋の片隅に積み上げておこう。そのうち、使う機会が来るだろう。
すぐに思いつく所でいえば、竜牙粉をマオの風切の刀身にでも塗布するという手がある。ダイアモンドドリルみたいに切れ味が向上してくれる筈だ。あとは竜鱗粉を俺のコーランに塗布して本体の防御力を上げ壊れないようにしたりな。
まあそこら辺んの所は一応専門家の意見を聞いてから行動するけど。おっと、あともう一つ作成する物があったな。だかこれはここで作ると扉から出せないからキッチンの奥、実際に置く所で作らないと。
キッチンの奥の方は女子トーク真っ最中のあの三人からは見えない筈だから、邪魔にならないよう【透明化】で姿を隠してこっそりと向かう。これから作るのは【冷蔵庫】だ。
【製氷】で作られた氷は【物質変化】で溶けないようにしても氷としての特性、つまり冷たさは変わらない。つまりこの二つの超能力を使って箱を作れば、もうそれは冷蔵庫だろう。
蝶番でもあれば観音開きとか色々工夫が出来るんだが、無いのでタンスの様に引き出しタイプにしか出来ないのが悔しい。流石に蝶番ほど構造的に細かい物は【製氷】でポンと作る事が難しいのだ。
普通に氷の板でも作ってから削って組み合わせる手もあるが、そこまでする事もないだろう。
さてまずは本体の作成だ。
高さは一メートル位、幅と奥行きは八十センチ位でいいだろう。ちょうど真ん中位の高さに中板を配置するのも忘れない。この位なら【製氷】で一気に作れるな。
そして次は引き出しだ。
まずは下の段。高さは五十センチで幅と奥行きは同じく八十センチを目安に作るが、細かいサイズの調節はやはり難しい。多少小さいのは兎も角、大きくて入らないのは困るな。
【発火能力】で失敗作を蒸発させながら何個か作った所で、ぴったりとハマる物が出来上がる。
「―――――――――しまった。」
取っ手が無い、これじゃあ引き出しが引けないじゃないか。
直ぐ様コの字型の取っ手を作り出し、【発火能力】で覆い熱くなった指で引き出しに穴を開けて取っ手を填め込み、そしてすぐさま【瞬間冷凍】で凍らせる。
ふう、ついつい冷蔵庫のイメージに引っ張られて取っ手を忘れてしまったな。冷蔵庫って大体窪みだし。窪みが作れるようにもう少し板の厚みでも増しておくんだった。
気を取り直して上の段だ。
こっちは今作った物をちょうど縦半分に割った様な物を二つ作る。一度作った後とはいえやはり難しく、失敗作を出しつつなんとか仕上げる。うん、しっかりハマった。
あとは持ってきておいた魔法のバッグから食料を取り出し、実際に仕舞って引き出しを出したり引いたり……うん、問題無いな。
「は~疲れた。でもこれでマオも喜んでくれるだろう。」
「はい、凄いですね。冷たい箱があれば食料ももっと長持ちするでしょうし。」
「うんうん、喜んでくれ……ってうひゃ!?何時からそこに?あれ?俺の姿見えてないよね?」
「今来たばかりですよ。匂いで来たのは分かってたのでいつお声掛けしようか迷っていたんですが、そろそろ晩御飯の支度をしようと思いまして。」
なるほど匂いか。気配位なら消せるから普通の人間にはバレない自信があるが、鼻の利く種族には形無しだな。今度からは【サイコキネシス】で体を覆うようにしよう。
まあ反省は後にして晩御飯を頂くとしよう。腹が減っては戦が出来ないからな。――――――まあさっきから色々食べながら作業してたんだけどね。
次回、マンサルド………行き過ぎやろ。




