#34 シリュウ?
ネーミングセンスの無さが恨めしい。
「―――――――――と言っても我が手を出したらそれで終わってしまうだろう、それではつまらん。そこでだ、先に攻撃を受けてやろう。」
「魔法だろうが何だろうがどれだけ時間をかけても構わん。精々渾身の一発を我に打ち込んでみよ。」
大した自信だよまったく。だがその自信をへし折ってやるのもまた一興か。
「へぇ~そうかそうか。じゃあこの拳で殴らせてもらおうかな。」
まあ一応、【サイコキネシス】を拳に纏わせておこう。鱗硬そうだし手が痛くなっても困る。
「ほお……拳か。ふっ、いいだろう好きにしろ。」
「じゃあ遠慮無く―――――――――フンッ!」
「ボゴォァ!」
上空で気を抜いていた王龍の眼前まで跳び上がり、横っ面に右フックを瞬間的に十発お見舞いする。勿論本気で殴ったら首がぶっ飛んでいくが、出来ればこれで終わらせたいので少し強めだ。長引くとうっかり殺しそうで怖い。
十発分を一発に濃縮されて殴られた王龍は情けない声を上げながら森の上空を吹っ飛………随分と飛んでいったな、森を抜けたぞ。
森を抜けた先には砂漠地帯が広がっており、砂埃を上げながら王龍が墜落する。流石に死んではいないと思うが……大丈夫か?
「―――――――――リリアンちょっと待っ……いや、やっぱり連れてくか。」
ここに放っておくのは心配だ。
「え?ちょ、ちょっと!」
ボケッとしていたリリアンを担ぎ上げ王龍が吹っ飛んでいった方へと走る。我ながら飛ばしたもんだ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「さて………大丈夫か王龍?」
「大丈夫かだと?ふっ、たった一発でかなりのダメージを負わせておいてよく言うわ。」
まだ地べたに横たわっている状態だもんな、しかし一発ではなく十発なんだが気付かなかったのか。少し纏め過ぎたようだ。
「一体何者だ?只の人間族ではあるまい。それに我の前に相手をしていた魔物共……アレ等を倒したのも只の魔法とは思えん。」
ゲッ、見られてたのかよ。
「………そんな事お前に話す必要はない。それで、仲間になってくれるのか?」
「………いいだろう………いや、勿論だ主殿。我を倒すその強さに惚れてしまった。これから我は主殿の為に持てる全ての力を使い、たとえ世界を滅ぼせと言われても従うことを約束しよう。」
「いや、それは自分でやった方が早いから頼まねえ………じゃなくて!そうか、仲間になってくれるのか。ありがとうな。」
「礼を言うのは我の方です。思えば礼を欠いた発言ばかりであった我と契約を結んで下さるとは。」
「いや、あの程度じゃ不快には感じないから気にするな。」
人間の方が余程えげつない事を言うんだから。
「主殿は心が広い。では早速、主従契約を結ぶと致しましょう。………ここに主殿の血を垂らして下さい。」
そう言って王龍は目の前に舌を突き出してきた。舌には魔法陣が浮かび上がっていて、そこに指を切って血を垂らすと一瞬強く発光して消えてしまった。
「これで主従契約は結ばれました。最後に、我に【名】を付けて頂きたい。王龍は最早過去の名、主殿のモノとなった我には不要でございます。」
「名前か………う~ん………紫色の竜…紫龍、【シリュウ】なんてのはどうだ?」
キラキラネームっぽいし安直過ぎる気がしないでも無いけど、カッコ良ければ全て良しということで。同じオトコノコ同士なら分かってくれる筈。
「シリュウ……なるほど意味は分かりませんが響きはいい。ではこれより、我の事はシリュウとお呼びください。」
「分かった、よろしくなシリュウ。」
「凄い……まさか王龍と契約を結ぶなんて………ところでそろそろ降ろしてくれる?」
おっと、忘れてた。
「悪い悪い。さて、これで俺の目的は果たせたからな、帰るタイミングはリリアンに任せるよ。」
「ん~いやボクも大丈夫かな、植物採取もかなり出来たし早く帰って調べたいや。」
「そうか、じゃあ帰るとしよう。シリュウはこっちの世界に来るのなら、その見た目をどうにかしなきゃな。小さくなれたりしないのか?」
「可能です。ただ、我の様な姿のドラゴンはそちらの世界では珍しいので、【人化】でも宜しいでしょうか?」
「人化?人の姿になれるって事か?」
「左様です。人といっても竜人族の姿ですが、ドラゴンの姿よりは目立たないでしょう。」
「そうか、じゃあそうしてくれ。」
畏まりました、の言葉と共にシリュウの横たわる地面に魔方陣が描かれ光を放ち出した。
そしてその光に呼応するかのようにシリュウの体も光り出し、その体の形状を変えていく。
蛇の様だった長い体躯は縮んでいき、徐々に人の形を成す。三十メートル以上あった紫色の体は色白の女の子の様な小さい体になり、角はあるものの翼は消え腕には控えめに鱗が残る。
「………これで宜しいでしょうか?」
髪は紫色で腰元まで伸びた艶やかなストレート。切れ長めの瞳も髪と同じく紫色で、紫色の鱗はよく見れば目の下や首周り、ヘソ周りなど所々で鈍く光を反射して光っている。
「………主殿?」
これが竜人族か、想像より格好いいな。翼はあるもんだと思っていたが、あっても場所を取りそうだし寝返りとかも打てなさそうだもんな。納得。
………だがうん。ツッコミ所がね、二個ばかりあるんですよ。まず全裸ね。でもこれは仕方ないよ、まさか人化ついでに服まで出来るわきゃないとは思っていたし。
問題は残りの一個よ。
「シリュウ………女だったんだな。」
「そうですが……主殿は我を男だと思っていたのですか?」
「いやだってさ、ドラゴンの状態で性別は分からないでしょ。声色も中性的だったし、言葉遣いから完全に男かと。」
「そうでしたか………生憎そちらの世界の言語はそこまで把握しておりませんし、こちらでは性別などあまり気にしないもので。単為生殖の出来る生物も多いですし。」
「そうか………まあ性別の話はいいや、とりあえず戻ろう。服もリリアンの家で借りていけばいいだろう。いいよな?」
「うん、いいよ。ただ少し大きいだろうから、早く服を買ってあげないとね。」
「そうだな、まあ背丈はマオと同じ位だし頼んで買ってきてもらうか。」
「マオ?誰それ?」
「俺のパーティーメンバーだ。今は家で留守番中………そうだ、帰りにお土産買って帰らなきゃ。」
スイーツを、そんで俺も食べる。
「ふーんパーティー組んでたんだ。もしかしてさっきのお兄さんも?」
「いや、カシンはただの友人だ。昨日なんかは一緒にハミル山脈に行ったが、正式にパーティーは組んでいない。」
「そうなの?狼人族の子って積極的にパーティーを組むイメージなんだけどな……。」
そうなのん?まあ狼って群れで生活するらしいしね、じゃあ群れないカシンは一匹狼ということか。なにそれかっこいい。
「まあ人それぞれって事だな。―――――――――それじゃあとっとと戻るか。巻物オープンッ!」
開くと同時に眩い光が辺りを包み視界を白く塗り潰す。そして軽い浮遊感を感じた後、目の前を見てみればそこはリリアンの部屋だった。
「戻ってきたな―――――――――あれ?なんか外暗くないか?」
「本当だ、あっちには二時間もいなかったのにね。」
「………主殿、リリアン殿。申し上げたい事が。」
「ん?どしたシリュウ。」
「はい………実はマンサルドなんですが、こちらとは時間の流れが違いまして。マンサルドでの滞在時間の約二倍の時間がこちらでは流れているのです。」
「―――――――――つまり、あっちにいたのが二時間ならこっちだと四時間経つって事か………やべぇ。」
マオが心配してるかも。というか晩御飯は腕を振るうって言ってたから、心配よりも怒りとか悲しみの比率が高そう。
「リリアン、シリュウの服は任せた。五分で戻るからその間に。」
Side-リリアン
「ちょ、ちょっと!………行っちゃった。―――――――――えーっと、シリュウ…さん?それじゃあ服を着ようか。」
「はい。それと、シリュウで結構です。主殿のご友人なのですから、我に敬語は無用です。先程の非礼も、お詫びいたします。」
「いや、ボクも全然気にしてないから大丈夫です…だよ?」
流石のボクも王龍相手にいきなりタメ語は厳しいよっ!さっきは本当にチビりそうだったし。
「そう言って頂けると助かります。しかし主殿はいったい何者なのか………リリアン殿はご存じですか?」
「ボクも分からない。間違いなく人間族の筈です…けど、あの強さは人間族の限界どころか生物の限界すら越えていそうで…だし。」
ボクなら瞬殺されちゃうんだろうな。
「同意です。我を殴った時、主殿は手を抜いていました。」
「あれで!?」
「はい。確かに物凄い力でしたが、我を殺さないようにと手を抜いてあの威力だったのだと思います。あの時の瞳はそのように見えました。」
じゃあ本気で殴ったら………考えない方がいいや。
「本当に何者なんだろう………でも聞いてもきっと教えてくれないだろうな。」
「そうですね。先程我が聞いたときもはぐらかされてしまいましたから。」
「はぁ~じゃあ気にするだけ無駄だね。」
あ、ようやくタメ語でイけそう。流石ボク。
「それじゃ、すぐにユート君も帰ってきちゃうから早速服を選ばなきゃね。折角可愛いんだしお洒落しないとっ!」
Side-out
「―――――――――戻ったっ!シリュウは着替えたか?」
「わ……ほんとに五分で帰って来た、いったい何してきたの?」
「買い物だ、カジノ隣のホテル内にあるショップでスイーツをな。」
「………カジノってここから結構離れてたよね?」
「ちんたら歩いたわけじゃないからな、急いだらすぐだよ。」
「それにしたって移動時間が………いや、ユート君だもんね。そうそう、シリュウちゃんのお着替えは終わったよ。どう?可愛くなったでしょ?」
"ちゃん"て、五分で随分と仲良くなったね君。貴女のコミュ力は五十三万ですか?まあそれはさておき。
「うん、元がいいってのもあるけど服で着飾ればまた違うな。」
ついさっきまで全裸だったシリュウだが、今は赤みの入った濃い黄色(からし色?)のワンピースに身を包んでいる。髪など元々の色味も濃い紫色だから良く映えているな、手足も長いし胸も控えめで高校生読モみたいだ。
同じ色の組み合わせでもここまでお互いに主張して打ち消し合わないのは難しいだろう。俺なら無理、って事でリリアンに頼んだのは大正解だったわけだ。
こうなるとマオのコーデも気になるところだな、勝敗は如何に………っていけね。
「マオを待たせてるんだった!それじゃあリリアン、諸々サンキューな。服はそのうち返しに来るから。」
「服はいいよ持ってって、それもう着ないからさ。まあボクに会いたかったらいつでも来て良いからねっ!」
「………うん、じゃあな。シリュウ急ぐぞ。」
「え、スル―なの?ねえねえユート君?」
せっかく服のセンスの良さに見直したってのに、これがあるんだもんなあ。まあ王都にいる限り顔を合わせる機会もあるから、これからも仲良くさせてもらおう………今のコレはスル―させてもらうがな。
シリュウを引き連れ急いで自宅へと戻る。なんだか普段より重い扉を開けて中に入ると、マオはテーブルに腰掛けていた………もしかしてずっとそこに座ってたのかな?
「た、ただいまマオ………帰りが遅れてすまん。」
「!?ご主人様、いままで何をしていたんですかっ!」
「い、いや~カジノで色々あってそれから時間食っちゃってさ。あ、それとお仲間が一人増えたから仲良くしてやってね。」
「我はシリュウと言います、これからよろしくお願いしますマオ殿。」
「よ、よろしくお願いします………ご主人様、この方は一体どのように仲間としたのですか?」
「………えーっとね、実はこの子ドラゴンなのよ。倒したら仲間になった。」
「?確かに竜人族の方のようですが………」
「いやいや、本物のドラゴンなんだよ。今は人化って魔法でこの姿に化けてるんだけど………まあ証明は今度にしよう。場所も取るし、それよりまず晩御飯を食べようか。待たせた俺が言うのもなんだけど腹が減っちゃった。」
「………わ、分かりました、すぐ温め直します。今夜はチャーシューを柔らかくなるまで煮込んでいたのできっと満足していただけるかと。」
「そうか、それは楽しみだな。おっと、温めるのは俺に任せてくれ。ほいっ!」
【発火能力】を微調整して瞬時に鍋のチャーシューと他の料理を温める。まあ電子レンジみたいなもんだな、わざわざ火にかけるよりこっちのが断然早い。
「よし、じゃあ食べよう。それと土産にスイーツを買って来たから食べていいよ、シリュウもね。」
好みが分からず色々買ってきたがきっと満足してくれるだろう。
アーモンド入りのパイ菓子やウエハースみたいな平べったいパン菓子、固めのクッキーなどがっつり甘い物がないのが残念だが、無い物は仕方ない。
そもそも砂糖が高価らしいからな。まあ時間があったら買って自作するのも手か、プリン位なら作れない事もない。
「ありがとうございます、ご主人様。」
「感謝します主殿。」
「それとマオ、食事が済んだらシャワーの使い方をシリュウに教えといて。着替えも今着ている分しかないから貸してあげてね、明日にでも買いに行くつもりだから。」
「分かりました。」
―――――――――さて、明日は忙しくなりそうだな。今日もカジノだけかと思ったら戦闘する羽目になったし、飯食って風呂を沸かしたら今夜は早めに寝るとしよう。
仲間が一人増えましたね。
だいぶ強いですが、勿論主人公には遠く劣ります。
まあ主人公以外には負けないですよ、きっと。




