#32 往復切符?
ふと見てみると、
ユニークが累計五千人を
越えていましたね。
いつの間にか読んでくれている人が
増えて、感謝感激。
これからも、よろしくお願いいたします。
今回登場の新キャラ、
今後もちょくちょく出ますよ。
―――――――――その後もカシンは勝ったり負けたりしつつ収支プラスを維持、そして俺は負けが嵩む一方であった。解せぬ、何故こうも差が出るのか。野生の勘って怖いな。
ここは気分転換が必要!ということでカシンと別れ、一人カジノの中を歩き面白そうなゲームを探す。ちょいちょいと立ち寄りトランプやダイスをやるものの、結果は同じく負ける一方。
あれ?ゲームでCPとやる時は結構勝ってたんだけど……対人だと驚くほど弱いな俺。
トランプといえば、サイズ、絵柄共に地球との差異は殆んど無かった。数字は『一から十三』だし絵柄は赤と黒色のハート、ダイヤ、クラブ、スペードの『四種』。ただスペードは地球の物より元のモチーフである剣に似て細長かった。
またトランプゲームもポーカー、ブラックジャック、バカラなどがルールもほぼ同じであって、ルールを覚える手間が省けた。差異といえば手札の交換回数とか、バカラなら合計点数の下一桁の数字が『九』ではなく『零』だったり。
その程度なら問題はない。問題はないんだけど、だからといって勝てる訳でもない。
「……ん?なんだあれ?」
トランプなどの大テーブルから離れたところに二人掛け程度の小さいテーブルが六卓だけ並び、それぞれに一人ずつ座っている。なにあれ面接でもするの?
「ありゃ許可を得て一般の奴等が賭場を開いてんだよ。人によっちゃあ金の代わりに珍しい物品で払う人もいてよ、面白いんだぜ。ゲームも自分で考えたようなヤツが多いし。」
「へぇ、そうか……いきなり背後から話しかけんのは驚くからやめてな。」
「わりぃわりぃ、でもユートなら気付いてただろ?」
まあそうだけど、だからって話し掛けられる準備が出来てる訳じゃないんだから驚くっての。
「それで、あの小さいテーブルのヤツは誰でも出来るのか?」
「ん?ああ、そうだぜ。オリジナルゲームもルールの簡単なヤツが多いし、賭け金も大体は良心的。面白そうなゲームだったり賞品が魅力的だったらやってみるといい。」
「なるほど……。」
小テーブルの横には看板が立て掛けられゲームのルールが書いてあるが、どれも簡単で時間の掛からないミニゲームみたいなもんだ。これなら何を選んでも変わらないか……賞品で決めるといっても価値は良く分からないしな。
「………どれにしようかな、自称美人の言う通りっ!」
よし、あの右から二番目のテーブルにするか。
三十歳手前位の気だるげな美人のお姉さんが……いや気だるげじゃ収まらねえな。酒らしき物を飲みながら椅子に寄りかかってだらけてやがる。
渾名を付けるなら【だらし姉】だな、お!センスが冴えわたってるぜ。
だらしなく服をはだけてなんとなくアホっぽいが、尖がり帽とテーブルの下に適当に置かれた杖から見て魔法士だろうか。柔らかな雰囲気で鮮やかな水色の長髪が綺麗な巨乳の美人さんだが、手に持った【酒】とデカデカと書かれたひょうたんが残念過ぎる。
「――――――すいません、今大丈夫ですか?」
「んなぁ?ああ、いらっしゃ~い。大丈夫だよ、さあ座って~座って~。」
「はあ、失礼します。」
大丈夫じゃなさそうだ、やっぱり自称美人なんかの言う通りにするのは失敗だったか?折角普段使っている神様の言う通りをやめて採用してやったのに。
「看板に書いてるとーり、ルールは簡単。テーブルの上にある三枚の絵札、これを裏返してボクが動かした後で……このドラゴンの描かれた絵札を当てたら賞品をあげるよ。」
「ちなみに賞品はなんですか?」
看板には【ヒ・ミ・ツ】って書いてるから分からないんだけど。
「ん~まあ珍しい魔具とだけ言っておこうかな、多分今じゃあ値が付けられない位の価値があると思うよ。オークションとかで売ったら一生を遊んで暮らせるかもね。さ、賭け金は一回金貨一枚で何回でも挑戦していいよ。あ!後ろのお兄さんもねっ。」
全然良心的な賭け金じゃねえな、金貨一枚かよ。まあ一生遊んで暮らせる程の価値があるのなら安いんだろうけど、なんか詐欺とかイカサマでよくある聞こえの良いエサみたいに感じるな。
………考えすぎか。
「じゃあとりあえず一回。」
「はい、まいど!じゃあ早速、三枚を裏返して~動かして混ぜて――――――はい!どれにする?」
あれ?今なんか手の動きが……なるほど、そういうことか。一応確認の為に視てみたが、やはり間違いはないようだ。そっちがその気ならこっちにも考えがある。
超能力者をカモに出来ると思ったら大間違いだ。
「ん~そうだな……今日は運がなくてドラゴンが引けそうにないから、ハズレの方の絵札を二枚引いてもいいですか?」
「はあ?おいおいユート、それじゃあこっちが不利じゃねえか。一体何考えてんだよ!」
考えた末のこの発言だっての、まあ見てろって。
「まあコイツの発言は置いといて……別に意味合い的には問題無いですよね?」
「………へぇ~うん、そうだね。好きにしていいよ。」
「よし、じゃあコレとコレ!」
捲られて表になった二枚の絵札は何も書かれていない白紙、ハズレ札だ。
「うおぉ~凄えなユート!さっきまでそこそこ負けてた奴とは思えねえぜ!」
ほっとけや。それに、コレはさっきまでのゲームとは色合いが違う。
「へぇ……よく分かったね。」
「ええ、運が良かったです。いや~何故かドラゴンが出ない気がして。」
「………ふふふ、もう誤魔化さなくても大丈夫だよ。最初からバレても平気って言うか、気付いてくれる人を探してたんだからね。」
「なるほど、そうだったか。」
まあ二枚引かせてくれって言った時の表情が焦ってなかったからおかしいとは思ったが、そんな思惑があったのはな。そこまでは気付かなんだ。
「ん?なあなあ、どういうことだ?」
「はぁ……やっぱりマジで気付いてなかったか。」
「いやいや、今まで何十人もカモ……気付かなかったから仕方ないよ。」
今コイツ完全にカモって言ったぞ、自覚あったんじゃねえか。
「じゃあカシンの為に解説するけど。まずはじめに手の内にハズレ札を一枚持ってたんだよ。それで裏返す時に当たりのドラゴンの札に重ねてからひっくり返して、その時に当たり札を手の内に回収。」
「そうなると場にはハズレ札だけになるから、あとは何食わぬ顔して混ぜたわけだ。」
「そ、そんなのイカサマじゃねえか!」
「そうだな、だけど俺はあえて乗っかってそれを逆に利用したわけだ。イカサマしてるから三枚ともハズレ札で俺の手だと確実に当たる!なんて言えないと踏んだ上でな。」
「はあ~なるほど。なんつーか、どっちも悪い奴だな。」
「「失礼な!」」
「………と、とりあえず、賞品くれよ賞品。」
「そ、そうだったね~といっても今ここには無いから、付いてきてくれるかな?」
持ってきとけや、だらしねぇ。
「………まあしゃーないか、分かったよ。カシンはどうする?」
「あ~このままここにいるかな。もう少ししたら切り上げて帰るから、ユートもそのまま帰るといい。」
「そうか、分かった。じゃあ行こうか、え~と……」
「“リリアン”、“リリアン・レイモンド”だよ。レイモンドは嫌いだからリリアンって呼んでね、よろしく!」
「そうか、俺はユウト、ユウト・ジョウガサキだ。まあ付き合いは今回だけだし呼ぶ機会なんてないだろうが、よろしくなリリアン。」
「え~こんな美人を目の前にしてその発言はないんじゃないかな?」
「………うるさいぞ。」
「ひどくない!?まだ出会って十分も経ってないんだけど?」
なんでだろう。あの自称美人に雰囲気が似てるってのもあるだろうが、罵倒しやすい空気を纏っているんだよな。つい口が滑る。
「そんな細かい事は置いといて、早く行こうか。」
「………まあ色々あるから、早く行くのには反対しないけどね。」
「よしよし。じゃあまたな、カシン。あとで報告してやるからよ。」
「おう、楽しみにしとくぜ。」
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―――――――――リリアンに付いてカジノを出て数十分。なんとなく俺の家に近付いている気がするが、それは顔に出す事なく歩いていく。この近辺て事は結構良い家に住んでんだろうか。
「………よしっ、着いたよ!すこ~し散らかってるけれど気にしないでね。」
「少し……ね。」
案内され着いた家は我が家よりも大きく、外観もお洒落だったんだが……室内が酷い。
よくもまあこんな広い家をこんなに汚く出来るものだ。脱ぎ散らかした服や下着、空の酒瓶、使い終わった食器等がそこらかしこに落ちている様は、ごみ屋敷と言う言葉がしっくりくる。
「さって、何処に置いたかな~?」
「え、まさかこの散らかった部屋の中から探すのか?」
「そうだよ?あ、手伝ってくれてもいいよ、ついでに掃除してくれたら尚良し。」
「そもそも普段から掃除しておけばこんな惨劇にはならねえだろうが……。」
「え~だってボクって多忙だからさ~掃除する暇がないんだよねえ。」
ぜって~嘘だろ。多忙なヤツは昼間から酔っぱらってカジノにいねえよ。
「あ、その目は信じてないねぇ~まあいいや!それより、このままじゃ見つかる物も見つからないしさ、探すの手伝ってよ。大きめの巻物だから。」
「はぁ……分かった、探すよ。」
こいつ魔法士だし超能力は使えない…か。ああ、しんどそうだ。
「――――――しっかし、汚すぎるだろ。」
探すついでに目についた物は一応片付けてはいるが、如何せん散らかり過ぎだ。まとめたゴミが山と化している。不必要な物が多過ぎるし、あと得体の知れない物も多い。
色とりどりの液体が入った瓶、腰くらいのサイズの土人形、フクロウの置物、小さい太鼓etc……。
そしてこの汚部屋の住人だが、何かを発見(発掘?)する度に手を止めて効率が悪い。
「あー!これココにあったのか~!」
……まただよ。
「次は何を見つけたんだ……ってなんだそれ?銃か?」
しかも何故かM1992、通称"コルト・ガバメント"でも彷彿とさせるフォルムだ。
アメリカ軍で第一次世界大戦の頃に制式拳銃として活躍した軍用自動拳銃に、まさかこんな所でお目にかかれるとは。パチもんとはいえ作った奴の顔が見てみたいな。
「そう!なんか気になって露店で買ったの。」
「【精神銃】って言って、体力とも魔力とも違う”精神力”を弾にして発射するらしくてね。メカニズムを調べたくて買ったんだけど、結局分からなくて放置してた。誰が作ったかも分からない代物で安かったから別にいいんだけど。」
「……使えるのかそれ?」
「う~ん一応は。魔力と違って欠乏症もないからいいんだけど、そもそも精神力なんて得体が知れなくて。試してみたけど、少しずつ威力が弱まって最初は岩に穴を開けられてたのに、最終的には小石を弾ける程度になったよ。」
「へえ~面白いな。」
特に威力が。得体の知れない力でそこまでの威力を発揮出来るなんて興味深い。俺なら【サイコメトリー】を使えば使い方もちゃんと分かりそうだし、多分精神力も並の人間よりはあると思う。
伊達に超能力者はやってないからな。自分で言うのもなんだが、こんな強大な力を持ちながら世界征服もせずに正気を保つ俺って相当なもんだと思うし。
「あ、それならあげようか?別にいらないからタダでもいいよ、片付けもしてもらっちゃったしね。」
「お!マジか!じゃあ貰っちゃおうかな。」
新しい武器ゲットだぜっ!まあマトモに使えるか安心は出来ないが、たとえ使えなくてもコレクションとして持っていたい。
オトコノコだしこういうミリタリーな物って大好きなんだよね。まあ俺のデコピンの方が拳銃なんかより確実に強いけど、それとこれとは話が違う。ロマンだ。
「うんうん、お姉さんに感謝しなさい!」
いらないもんくれた位で偉そうに……いやいや、貰う側だし文句は言わん。
「……はい、ありがとうございます。」
「よし、それじゃあ続きを………ってあった!タンスとタンスの隙間に挟まってるなんて、見つからない筈だよ。」
いや何処に落ちてんねん、せめてタンスの中にあれ。
「これぞ遺跡から見つかった魔具【マンサルドへの往復切符】さ。」
「マンサルド?」
「マンサルドっていうのは、今いるこの世界とは別の次元にある世界でね。今じゃテイマーは普通の魔物を【服従魔法】で従えるようになったけど、昔はマンサルドに住む魔物を召還して主従契約を結んでたんだよ。」
「マンサルドはこっちの世界より環境も劣悪で、それに適応するために魔物も強力なのが生息しているから味方にするなら断然こっちなんだけどね。如何せん昔の技術で今はその【召還魔法】の詳細も残っていないんだ。だからこれは凄く貴重なんだよっ!」
「主従契約は魔法使わないから、これがあれば魔法士じゃなくても味方に出来るし!」
「へえ~……本当に貰っていいのか?」
「え?うん。ボクにはもうテイミングした魔物がいるし、それも調べられる事は調べ尽くしたから。」
「………そうか、じゃあ遠慮なく。」
魔法を使わなくても契約出来るなら俺でも使えるか。しかし立派な巻物だな、蛙の上に乗っている忍者がよく腰に付けてる巻物位の大きさだ。中身は何書いてんのかな――――――
「ああ使い方だけど、巻物を開けば自動的に周りの人を転送するから注意して使ってね?」
「……え?」
「え?」
「……もっと先に言っとk」
―――――――――その時、世界から二人の人間が消えた。
駄目人間な新キャラでしたね。
なんかもう、色々駄目だ。
次回は……流れで分かると思いますが、
強めの魔物と主従契約を結びます。
激しめのバトル有り。




