#27 危ないぞう?
半年以上もお待たせして
すみませんm(._.)m
転職だったりなんだりで
色々と忙しかったもので。
今後は、最低でも月1ペースで
書いていく所存なので、
応援、罵倒よろしくお願い致します。
おいおい、あの動物もこっちじゃ魔物なのか?
幸いサイズは元の世界と大して変わらないが、それでも体長はグロースベアの二倍はデカいし、体高もグロースベアが立ち上がった時と同じくらいだから三メートル近くある。
それなのに動きは俊敏だ。どうせなら俊敏さも元の世界と同じなら楽だったんだけどな。
流石にアレの相手はハルラインもポーラ達も分が悪いのか防戦一方のようだ。マオは距離を取ってくれているから大丈夫そうだが、急いだ方がいいだろう。
木々の間を縫うように走り、現場へと急行する。
「――――――――――――よし、着いた!」
途中魔物と衝突した気がするけど……気にしないでおこう。今は目の前の"コイツ"に集中しないとな。
地面に付きそうな長い鼻、顔と同じくらい大きい三角形の耳、前方にカーブした一メートルは優にあろう白い牙。地球では陸上最大の生物として、またその牙も相まって他を寄せ付けない程の圧倒的強さを動物。
元の世界の名前でいうところの……"アフリカゾウ"だ。
皮膚は黒く金属の光沢を持ち、真珠のように艶のある白い牙は鈍く光っている。その巨体で鼻を振り回し、体当たりでその牙を突き立てる姿はなかなかに圧巻だ。
ハルラインは剣で、ポーラは魔法で対抗しているが……金属の皮膚は硬くどちらも大したダメージは与えられないでいる。他の冒険者に至っては剣も矢も通らず、鼻で薙ぎ払われた奴等なんか五メートルは飛んでる。
マオは……いたいた。ゾウから少し離れた所で周りの雑魚を寄せ付けないように頑張ってる。特に怪我もないようで安心したな。
さて、これ以上怪我人が増える前にとっとと仕留めるか。生憎とゾウと戦った事はないんだが、まあ大丈夫だろう。
どうやって仕留めてやろうか。残念な事にポーラもアイリも健在だし、目立つ超能力は使えない。特に発火能力なんてもっての他だ。
サイコキネシスか?いや、流石に触れずに倒すのは不自然だ。かといって、素手や剣を使って倒すのは無理がある。クマより格段に硬そうだしな。
……となると、氷付けにでもしてくれようか。
周囲の冒険者を薙ぎ払っているゾウに近付いていくと、ちょうどハルラインが炎を纏った大剣で斬りかかるところだ。なんだがさっきまでキレが無い。
――――――なるほど、視ると俺の居ぬ間に攻撃を食らっていたらしく肋骨にヒビが入ってるな。
「はああぁぁぁっ!「ザシュン!」……くっ、やはり硬いな。流石A2ランクの魔物だけある。」
「ハルラインさん、大丈夫ですか?」
「ユート君!?今まで何処に……いや、それよりも君に頼みがある。私が抑えている間に、怪我人や他の皆を連れて街へ待避してくれ。そして街に着いたらすぐにギルドに報告を。"メタルシアン"が出たとなるとゴールド級の冒険者が必要だ。」
「私はせめて一太刀、弱点の足になんとか入れてみせる。そうすればヤツの機動力は削れるだろう。これでもシルバー級に何年もいるんだ。この程度の修羅場、慣れたものさ。」
「なるほど、足が弱点ですか。じゃあハルラインさんも引いててください、アレは俺が片付けるので。あっ!それとあそこの猫人族の子、俺のツレなので頼みました。」
「なっ!?馬鹿か君は!メタルシアンはシルバー級に成り立ての冒険者が敵うような相手ではないぞ。それにその鋼鉄の剣でも刃は立たんぞ!」
「でしょうね……まあ大丈夫ですよ、魔法も使えますし。それに俺って結構強いですから。」
「しかし……いや、そこまで言うのなら信じてみよう。君が自分の力量も分からない愚者には思えないしな。だが念には念を入れておかねばな。よし!私の剣を貸そう。」
心配なのか大剣を押し付けてきた。大剣というだけあって少し重いが、この程度じゃ影響ないな。俺ならぶっとい鉄骨でも普通に扱えるし。
「これは"炎雷大剣"、火と雷の属性が付与された私の魔剣だ。属性適正が無くとも充填された魔結晶で炎剣にも雷剣にもなる。勿論、属性適正があれば自力ですることも可能だがね。」
「分かりました、ではありがたく借りますよ。」
「ああ、だが無理はするな。倒さなくてもいい、ヤツは足の一本でもどうにか出来れば自身の重さで身動きが取れなくなる。」
「あなたの様に無理はしませんよ。それより、ハルラインさんは周りの雑魚をお願いします。これ以上怪我人が増えても困りますから。」
「……分かった、すまないが頼む。」
そう言うと頭を下げ、代わりに渡した鋼鉄の剣で他の雑魚を叩きに行った。まああんな状態でも、そこらの雑魚にはやられんだろう。
さて、俺はこのゾウを仕留めるかな。クマさんと同じようにしてやろうと思ったが、折角便利な剣を借りたんだ。コレを上手いこと使うとするか。
「え~っと、【バーニング】。うおっ!?」
ハルさんに言われた通りに呪文を唱えると、刀身が炎に包まれる。これがさっきまでの状態か。だが、この火力じゃまだ足りないな。
これに、【発火能力】によって炎を上乗せする。大会の時の炎の鎧の様に纏わせるイメージだが、あれより更に熱く。熱く。熱く。
ゴオオォォォォォ!
よし、完成だ。よく見ないと分かりづらいが、炎の温度を調節してオレンジっぽくなるまで温度を上げた。これなら……
「ファオォォォォォォォォン!」
おっと、危険を察知して向かってきたか。だがそれは悪手だ。
ゾウはその鼻を鞭の様に縦横無尽に振り回しながら、真っ直ぐ俺に突進してくる。やれやれ、やぶれかぶれじゃないか。
危険を察知したと言うよりは、ビビってテンパった感じだな。
「まずはその邪魔な鼻を、落とすっ!」
バキンッ!
「ブフォォォォォォォォン!?」
すれ違いざま、伸びきった僅かな隙を突き根元から鼻を切り落とす。痛みに苦しむゾウだが、直ぐに体勢を整え再び向かってきた。今度はその牙で俺を串刺しにするつもりか。だが。
「これで終わりだ。」
炎を刀身から更に伸ばし、十メートル程まで拡張する。そしてそのまま、突進してくるゾウに振り下ろす。
ジュンッ!
おっと。長さを伸ばすときに温度も上がってたらしく、炎の色が少し黄色っぽくなってるな。見てみると真っ二つになったゾウの断面は、斬られたと言うよりも溶けたようになっていた。
「状況終了、ってか。」
周りの雑魚も落ち着いてきたな。あ、ハルラインが来たわ。
「ユート君凄いな!まさかメタルシアンを一撃とは。それに炎雷大剣のあんな火力は初めて見たよ、剣の腕だけでなく魔法の才もあるのか。」
「ありがとうございます、まあこの剣のおかげですよ。」
「謙虚なんだな君は。だが本当にありがとう、君がいなければ全滅もあり得たかも知れない。君はここにいる全員の命の恩人だ。」
「はぁ……まあそこまで言うほどじゃないと思いますけどね、結構重傷っぽい人もチラホラいるみたいですし。あ……この中に怪我を治せる魔法が使える人っていましたか?」
「いや、残念ながらいないな。光属性の適性は闇属性と同じく珍しいタイプで重宝されるし、わざわざこんな依頼を請ける事もないんだろう。」
あ、やっぱり怪我治せる魔法ってあるんだな、良かった。ラパスの大会の時の救護班が皆包帯とか薬しか使ってなかったから不安だったんだよね。
でもこれなら安心して使える。
「じゃあ俺が全員の怪我治しますよ。」
「何っ本当か!?随分と多才だな君は。だが大丈夫か?重傷者に加え軽傷者も多数いるし、さっきの炎雷大剣に魔力をだいぶ使ったと思うんだが。」
「ん~まあ大丈夫だと思いますよ。それに俺がもっと早く対処してれば怪我人ももう少し抑えられてたと思いますし、責任感じてたんで。」
「そうか……まあ君がそういうなら是非治してやってくれ。」
「じゃあ早速……はい、治しましたよ。」
「ん?――――――おおっ!本当だ脇腹の痛みが消えたぞ。詠唱無しのこの一瞬で治すなんて流石だな。」
「いえいえ。さて、怪我人も多いんでどんどん治していきますかね。」
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「―――――――――これで最後だな、ふぅ~疲れた。」
数十人を治すのは面倒だった……まあ一番面倒臭そうと思っていたポーラとの絡みが
「あ、ありがとうございます……あんな強力な火魔法だけでなく光魔法まで使えるんですね。」
なんて只の褒め言葉だけで終わるとはな。
だが俺は気付いている。その時のポーラの顔が真っ赤に染まっているのをな。やはり人間、本当に怒っているときは言葉に出さないもんだ。
声も怒りで震えていたし、目も殆ど合わせようとしなかったからな。
相当お怒りなんだろう……こちらの顔でも会いづらくなってしまったな。一方アイリの方だが
「こんな所に…また一人火魔法の使い手……しかも格上…………ふふふっ。」
こちらはこちらで怖い事になっていた。
どうやら前回と今回で火の魔法を使う者としての自信がズタボロになってるらしいが……目のハイライトが仕事を放棄していたな。
――――――ちくり
おっと、流石に怪我人が多かったから少しキタか。あ、そういえばまだ説明していなかったな。今回俺が怪我人達を治したのは、勿論光魔法と呼ばれるものではない。
【病食】
これが今回全員の怪我を治した超能力だ。
他者の病気や怪我を引き受ける事が出来る能力で、触れるだけで一瞬にして病気や怪我を俺の体に移す事が出来る。というか、病気や怪我を負う前の状態に戻るといった方が正しいか。
だが便利な能力な分、当然デメリットも存在する。病気にしろ怪我にしろ、その状態になってから俺が治すまでの"痛み"が一瞬で全て俺に伝わるのだ。
勿論、強すぎる痛みなら自分の体にも影響を及ぼす。
一見自己犠牲に溢れた能力に見えるが、まあ伊達に超能力者じゃなく。【身体超強化】なんかで肉体の耐久度とかも桁違いだから実際の体への影響は限りなく低い。デメリットも形無しだ。
まあ大人数だったり怪我や病気のレベルによっては多少影響あるけど、今回なら蚊に刺された痛みより少し弱いくらいだ。流石に地球にいた時に二〇億人位を治した時は二日寝込んでしまったが、そんな事そうそう起こるもんじゃないしな。
――――――マジ許すまじあのクソエイリアンが。
閑話休題
怪我が治った順に倒された魔物のコア、そして素材となる部分を剥ぎ取っていたが、そろそろ終わりそうだな。俺は治療で疲れてるだろうって免除され眺めてるだけだったけど。
ちなみに、あのゾウはここじゃあ無理だから冒険者ギルドに持ってくらしい。グロースベアと同じだな。
まあ冒険者ギルドに持っていった所であんな硬さのゾウを加工出来るのか疑問なんだが、ハルラインに聞いたら心配ないらしい。そりゃ向こうもプロだしな。
とここでようやく作業が終わり撤収するようだ。少し早いが、昨日同様の魔物を駆逐し、更にあのゾウまで倒したからもう充分だろうと言うハルラインの決定だ。
確かに狩りすぎるのも生態系を壊しそうで良くはないしな。今回の大量発生の原因はまだ分かっていないらしいが、これ以上増えてはいないようだし。
「マオもお疲れな。B級レベルの魔物は兎も角、C級の魔物は結構倒したみたいじゃないか。それに怪我もしなくて良かった。」
「はい、ありがとうございます!ご主人様もメタルシアンをあんな簡単に倒すなんて凄いですね。もう実力だけならゴールド級なのではないですか?」
「あはは、まあ……そうかもね。でもマオだってこれから頑張れば、シルバー級レベルの実力にまでなると思うよ。」
「本当ですか?そう言っていただけると嬉しいです。」
だが魔物によってはあのゾウみたいに武器の性能の如何で倒せないのもいるからな。そのうちもっと良い武器を使ってもらうとしよう。
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街までの道のりは昨日や行きと比べ格段に楽なものですぐに冒険者ギルドに到着した。ギルドにコアと素材を提出し代わりに二日分の報酬、一人当たり金貨四十枚を受け取る。
今日の分は概算だが、まあ細かい事はいいだろう。ボランティア的な面もあったことだしな。
「あの……本当に私が貰っていいのですか?」
「ん?いや、そりゃあマオが働いて稼いだお金なんだから当然でしょ。」
今回、正式に依頼を受けていないため報酬の入らないマオにも報酬の一部、金貨十枚を渡しておいた。こういう機会でもないとお金って渡しづらいしな。
「まあ自分のお小遣いとして大事に使ってね。装備品とか食料は俺が出すとして、自分で必要になるものもあるだろうし。」
「は、はい!ありがとうございます。」
さて、昨日より早いと言ってももう三時過ぎだからな。ギルドで迷宮の事を聞いたら、とりあえず家に帰るとするか。




