#22 ラパスへ?
前話が短かったので、
今回は6000字くらいです。
やっぱりソファーだと少し体が痛い…起きてすぐに思ったのはそんな感想だ。まあ昨日なんか床に寝てたことを考えると、まだマシな方だけどな。
───────キリキリっ!
さて、軽く頭痛がするということは無事に超能力が増えたんだろう。この頭痛は新しい超能力の情報が入ったことで脳に負荷が掛かって起こる現象だ。
自己把握能力によって軽く頭の中を探ると、能力の存在に気付く。
「なるほど……ほいっ!」
手の平を上に向け力を込める。すると、野球ボール程の氷球が生成される。
今回増えた能力は"製氷"、思い通りの形の氷を作り出す事が出来る能力か。瞬間冷凍とは違ってこちらは使い勝手が良さそうだな、相変わらず原理とかさっぱりだけど。
しかし氷って聞くとあの金髪を思い出すな……あの氷の女王。もう会う機会もないだろうが。というかむしろ会いたくないけど。
だって2人ともボッコボコにしちゃったし、印象最悪だよな。呪われちゃっても不思議じゃなさそう。いや魔法があるんなら呪いもありそうだな、なにそれ怖い。
─────ん?待てよ?氷を作って溶かせば…水が出来るよな!これで風呂代問題解決じゃんか、やったね。遠回りしてる感は否めないけどまあいいだろう。
ガチャッ
「ご主人様、おはようございます。」
「おはよう、よく眠れた?」
「はい。久しぶりのふかふかのベッドだったので、グッスリ眠れました。」
「それは良かった。朝ごはん食べたら冒険者ギルドに行くから、食べ終わったら準備しておいて。少ししたら出るからね。」
「分かりました。」
飯食ったらパッとベッド組み立てるかな。どうせサイコキネシスがあれば数分で終わるし。マジ超能力に感謝。
王都の冒険者ギルドに来たのは初めてだったが、地図で場所を確認してから1日ぶりの千里眼ナビで迷うことなく到着する。
流石王都と言うだけあって、大きさはラパスの2、3倍位だろうか。しかも4階建てだし。
エレベーターがないと4階建てって少しキツそうだな…。いや皆鍛えてるから平気か?
どうでもいいことを考えながら中に入ると、こちらも流石というか人が多い。というか混んでる。というかなんか慌ただしい。何かあったのだろうか。
とりあえず明らかに人口密度の高そうな掲示板の所を千里眼で見てみて、その理由が分かった。
どうやらラパスの魔閃の森でトラブルがあったらしい。原因は不明だけどBランク上位の魔物の大量発生があったとかで、放っておくとラパスへの侵行も懸念されてるようだ。
ギルドの見立てだと1週間程で侵行が始まるから、その前に駆逐作戦を決行するっていうので依頼書がこちらにも来たみたいだな。
俺としてはラパスはこの世界での故郷みたいなもんだし……もう素顔でなら行っても大丈夫だよね。なにより冒険者としての仕事を頑張るって決めたばかりだ。
決行日は……うわ明後日か。作戦は2日間らしいが、今からだと行っても終わってる。───ってああそうか、飛んでいけばいいのか。
空を飛ぶ事が魔法の範疇なのかはまだ未確認だけど、マオ相手ならもう身内みたいなもんだし大丈夫だろう。最悪"命令"を使ってでも口止めすればいい。
大会で分かったけど、魔力には当然上限があり枯渇すれば失神までする。だが俺の超能力にはそれがない。あえて言うなら精神エネルギーでも使ってるのか多少心労があるだけだ。
俺が使っているのが魔法でないと知られ、更に魔力切れという打ち止めがないとバレたら面倒な事になるだろう。
今のところ知ってるのはカシンくらいだが、アイツは真面目な奴だし魔法の知識はないみたいだからな。そういえばマオも魔法は使えないんだっけか?それなら安心だ。
さて、受付はラパスでやってるみたいだから早速向かうか。と、その前に報酬の確認な。えーっと……参加者全員で山分けか、まあこういう状況だし仕方ないんだろう。
「─────ってアッラー。」
おっと、思わずイスラム教の唯一神の名前を言ってしまった。マオもキョトンとしちゃって……いやさっきから突っ立ってていきなりアッラーなんて言うからですよねスミマセン。
しかし参加資格を確認したらまさかのシルバー級以上とは。なんて、Bランクの魔物とか言ってんだからよく考えたら当たり前だよな。
まあきっと参加者も多いだろうし、依頼を請けずに俺が行っても問題なさそうだが……タダ働きはな。
──────いやいや、これは俺のラパスへの恩返しも含んでるんだから金は関係ないっての。大会でたっぷり儲けさせて貰ったろうが。
はぁ~。
さて、飛ぶんならすぐ着くしラパスには明後日に行くとして…今日は王都で依頼を受けておくかな、マオの腕前も確認しときたいし。そうと決まればと、ブロンズ級の常駐型依頼を何件か請けるため受付に行く。
王都の受付嬢は顔採用でもあるのか綺麗所が揃っている。長め茶髪のゆるふわ美人、長い青髪のしっとり美人、ボーイッシュな赤髪の活発そうな美少女など様々だ。
お兄さんこの娘指名で。
とまあ冗談はさておき、早く済ませますか。ゆるふわの美人さ~ん!
「すみません、Cランクの依頼を請けたいんですが。」
「はい、では会員証をお預かり致します。こちらCランクの依頼書綴りになります。」
さっき掲示板見て目星は付けてたからな、さらっと選んでいく。
「それじゃこれでお願いします。」
「かしこまりました。では会員証に処理を……あら?失礼ですが前々回の売却の際にグロースベアのコアを売却されましたよね。」
「前々回?…………えーっと大きい熊の事ですか?金貨10枚だった。」
「そうです。グロースベアはB1ランクの魔物ですので、それを倒せる実力を鑑みて協議の結果、ユウト様のシルバー級昇級が決定致しまして。」
へぇ~報酬が高いとは思ったけどB1だったのか……昇級とか大事な話ならそんときに言っとけよな。テストとかもあるんだろ確か。
「ブロンズ級でB1の魔物を倒すというのは異例の事だったので、対応が遅れてしまい申し訳ありません。」
そういって頭を下げるゆるふわ美人。うん、それ俺のせいですやん。
「あ……いや、俺が依頼を請けずに倒しちゃったからですから、気にしないでください。」
「そう言っていただけるとこちらもありがたいです。それで昇級テストなんですが本来であれば次級のレベル3の依頼、ブロンズ級の場合だとB3の依頼を1つ達成していただくんですが、ユウト様はB1の依頼を既に達成されているので、今回に限り昇級テストは免除ということで。」
それはラッキー……次もやっちゃおうかしらん。
「ただ今回は特例ですので、今後は適正ランク以上の魔物に単独で挑むのは控えてくださいね。」
凄みの効いた笑顔で釘を刺されちゃいました、てへっ!………気持ち悪。
「はい、気を付けます……。」
「それで……今回の特例を認める代わりにギルド側からちょっとしたお願いがありまして。ラパスの駆逐作戦はご存じですか?」
「あんなに騒いでますから当然知ってますけど……それを請けろって事ですか?」
「話が早くて助かります、なにぶん人手不足でして。」
「俺も請けたかったんですけど、今からじゃ間に合いませんよね?」
「確かに"普通"なら間に合いませんが、王都には白竜ホルダーのテイマーが多いので送迎の依頼をギルド側から出したんです。白竜でなら1日半もあれば着くでしょうから。」
なるほど空を飛ぶわけか。確かに馬車よりは余程速そうだな。
「ではそれに乗ればいいんですね。出発はいつ頃ですか?」
「王都の正面の門に集合で9刻半には出発です。掲示板にも書いていますが、駆逐作戦参加者のみなので乗る時に会員証とこちらの"切符"の提示をお願いします。時間通りに出発するので遅れないようにしてくださいね。」
そう言って銀色になった会員証と【白竜送迎切符】と書かれた白い木の板を渡された。さて、これでもうここに用はなくなったな。
時間は現在8刻ちょい過ぎ。正面に行くにはいくらなんでも早いから、時間を潰す手を考えなきゃな。まあ移動中の食料とか調達とか適当に買い物してたらすぐ時間になるだろう。
「それじゃあ移動中の食料を買いに行こうか。ごめんね、マオの手料理は次からお願いするから。」
「あ、いえ……それより、シルバー級昇級おめでとうございます。ご主人様はブロンズ級何年目だったのですか?」
「…………ちなみに、普通は何年くらいでブロンズ級からシルバー級に上がるもんなの?」
「?そうですね……冒険者の登録制限ギリギリの15歳から、まるっきりの初心者で始めると順調でも4年から5年。私のように住んでいる場所の近くに魔物がいて、多少戦闘の経験がある人だと大体3年くらいですかね。ちなみに私は登録から1年程のブロンズ級でした、奴隷になった時に会員証は剥奪されましたが。」
「なるほどな。ああ、俺は登録からえーっと、いち、にい、さん……9日目か。」
「9日目!?」
「やっぱりおかしいか……あまり周りには言わないようにな。」
なら言うなよ、なんて思うけども。俺としても出来るだけ隠し事はしたくない。相手を信じないと俺も信頼を得られないだろうからな。
「は、はい。凄いですねご主人様。」
「うん、ありがとね。」
──────さて、気を取り直して買い物に行きますかな。
といっても、買う物は決まっている訳だしすぐに終わってしまった。意外と出店も多いし。
だから当然ながら時間は余りますよね、はい。
さて他に何か必要な物はなかったかと、食料をバッグにしまいながら考えてみる。でも装備品の類いは買い揃えたし、家で使う物にも買い漏れはないはずだ。…大人しく喫茶店にでも入って時間潰すかな。
そう思ってバッグを背負いなおして……そうだ、新しいバッグを買うって少し前に決めたじゃんか!
キースに貰ったメモの中に確か道具屋の場所も書いてたっけか。流石キース、抜かりなしだな。配慮が行き届いてる。
てなわけでメモと地図を見ながら目当ての道具屋へと向かう。途中他の道具屋もあったけど、キースが勧める店の方がきっと良い店なんだろう。俺は信じてるぜ、キース。
到着した道具屋は、2階建ての綺麗な建物だ。
なんか店の前の看板に【王都イチ!品質最良店】とか書いてらっしゃるし、敷居が高そう。この世界に来てすぐだったら入店を躊躇うレベル。だがしかし、ここにいるのは以前の俺ではない。
たっかい洋服店やカジノまで経験したスーパー俺だ。もしくは俺改。決して無印ではないのだ。
だからここにも当たり前のように入店する。
店員が何をお探しですか?と話しかけてきても、焦らず嚙む事なく魔法のバッグを買いに来ましたと伝える。
そして案内されるままに魔法のバッグが陳列している場所まで通され、ではどちらのバッグをお買い求めになりますか?と聞かれれば今使っている物より大きめの物だとスマートに言い放つ。
俺のスマートな注文に応えるようにではこちらのバッグなど如何でしょうか?と言われたので、俺は"それ"を流れるように購入し大金貨10枚を払う。
……あれ?高くね?しまった、まんまと嵌められていつの間にか買っていた。やはり俺にはまだ早かったか…この凄腕店員め!どっかの通販番組の社長もビックリのテクニックだったな。
千キロまで入るお高いバッグを手に、そろそろ時間だからと正面の門へ向かう。まあ高い授業料だと思うか、容量の多い方が便利だろうしな。いえ言い訳ですねスミマセン。
とりあえず新しいバッグの方に中身を移し替え、古い方をマオに渡す。まあ新しいバッグがあればそれで事足りるけど、使わないのは勿体無いしね。マオはマオで個人的に持ちたいものもあるだろうし、色々と。
門に着くと熱気球のゴンドラ?みたいなデカい籠が2つあり、その周りに10人ちょっとの人が集まっていた。これで全員かな?まあ元々ラパスにいて参加する人もいるだろうしこんなもんか。
「はーい、じゃあそろそろ時間なので出発しまーす。会員証と切符を提示してから乗り込んで下さい。」
籠の傍にいた白いローブの青年2人が、それぞれの籠の前で会員証と切符を確認しながら次々と籠に乗せていく。よし、それじゃあ俺たちも乗り込みますかな。
「会員証と切符です、確認お願いします。」
「はいはい、……それじゃあ乗ってください。」
「どうも。ほらマオ、乗り込むぞ。」
「ああいや、そっちの会員証と切符をまだ確認してないんすけど……」
「え?いやあの、俺のツレですけど。」
「はい。でもそっちはそっちで確認しないといけないんで。」
なんてこったパンナコッタ……いや混乱した。
マオはそもそも会員証持ってないからな。まあ有ってもブロンズ級だから意味ないけどさ。いや勿論、戦闘にガッツリ関わらせる気はない。
せいぜいが周りの雑魚と軽く戦わせたりして腕をちょいと確認する程度。そのあとは無理させずに守るけど。
さてどうするかな。って言っても、白竜タクシーを使わずに2人でラパスに行く方法なんて限られている。やれやれ、結局同じことだったか。
「じゃあいいです、俺も降りるんで。マオ帰るぞ。」
「でもこれに乗らないと駆逐作戦間に合わないっすよ?そっちの女の子は留守番でもさせて、お兄さんだけでも行かないんすか?」
「そうですよご主人様、ギルドからの要請でもあるんですから。」
「大丈夫です、自力でどうにか出来るんで。マオも心配するな。」
「まあそういうことなら俺も引き留めませんけど。これ以上は俺の仕事じゃないんで。じゃあ出発しまーす。────顕現せよ、【セフィド】」
その言葉と共にバッグから出した石っころを空に放り投げると、ボンッ!と音を立て白い竜が現れた。話に聞いていた通り体長5m程のなかなか強そうなドラゴンだ。
ドラゴンは俺を一瞥すると、籠を掴みその大きな翼を広げて空へと飛び立っていった。
アレって炎とか吐けるのかな……ドラゴンだし普通吐けるよね?てかあんなビジュアルで最弱種とか青竜とかどうなるんだろうな。いや多分負けないだろうけども。
「───どうするんですか?ご主人様。」
「ああうん、早速向かおうか。一応本当ならもう王都にはいないことになってるんだし、いつまでもいる訳にはいかないからな。」
まあラパスに行ったら今の奴等と顔を合わせる事になるが大丈夫だよな。こちらの顔を確認した奴は少ないし、一日半もあれば別の方法で行ったと思ってくれるだろう。
「はい。それで……どうやって向かうんですか?馬車では間に合いませんし、まさかご主人様はテイマーだったのですか?」
「いやテイマーじゃないよ。ちょっと俺の手を握ってもらえる?」
「?こうですか?」
「うん、おっけー。それじゃあ今から起こることは秘密にしておいてね。」
「?どういうこ、「しゅっぱーつ!」きゃーーーーーーっ!」
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