#13 王都?
そんなこんなで無事に街を出て、王都への街道を進んでいく。荷馬車の速度なら歩きよりもだいぶ早く着けるだろうな。馬2匹の馬力だから結構早い。
しかし街道とは名ばかりに道が舗装されているわけでもなく、荷馬車のサスペンションも粗悪とあれば座り心地は最悪なので、こっそりと5mmばかり浮かんだりしている。ズルとかは言わせない、超能力者の特権だ。
「───そういや~キャッスル!お前"ソキュー語"を喋れるなんて驚きだぜ。人間族だと特に発音が難しいらしいのにペラペラなんだもんな。」
「ソキュー語?」
「鼠人族でしか話さない言葉だったよな。俺は公用語の"パラサイ語"だけで手一杯だ。まあもう十年も喋ってれば慣れたけど。」
「そ、そうか……」
なるほど、商人に丸い耳と長い尻尾があるのは分かっていたが鼠だったのか。というか違和感なく喋ってたけどいつもとは違う言葉を使ってたらしい。
どうやら俺がこの世界に来るときに与えられた翻訳機能は、思った以上に万能のようだ。だがどういう基準で言語が切り替わるのか。
カシンはあの感じだと公用語のパラサイ語?以外にも喋られるらしいが、どうやら俺はその言語で話しかけてはいない。
だが商人の方にはソキュー語という母国語のようなもので話しかけたようだ。王都に店があるのならパラサイ語は喋られるはずだが、俺はソキュー語で話しかけた。
ここから推測されるのは、話しかけた場合はその人物の話しやすい言語、話しかけられた場合はその言語で対応する、ってところか。
…いや、断定するのはまだ早いか。物事には検証が必要だ。
「カシン、ちょっと自分の所の言葉で喋ってもらえるか?」
「あ?まあいいが……【私はカシン・レオネッサです。】」
「【ありがとう、カシン・レオネッサ。】」
「ほぇ~バミュー語も分かるのか?」
「まあな。…そうらしい。」
どうやら今のところは仮説通りなのか?まあ多少推測から離れようと、便利な事に変わりはないしな。
さて、王都までは退屈だし寝てようかな、気付いたらカシンも寝てるし。…乗り心地最悪のこんな場所でよく寝れるもんだ。
俺は浮遊能力で浮かべて良かった。しかも寝ている間も"自動制御能力"のおかげで無意識下でも超能力を制御することが出来る。
この能力があれば寝返り感覚でうっかり超能力を使ってしまうこともないし、逆に今みたいに維持させることも出来る。もしくは条件を指定しておけば発動させることも出来るしな。
これなら荷馬車の上でも安眠保証だ。はい、おやすみ───
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目を覚ましたところでちょうど荷馬車が止まった。辺りの景色は相変わらず平原で、陽が暮れてきた以外に変化はない。
大体2時間ほど経ったらしくどうやら馬を休ませるためのようだ。腹が減ったことに気付きバッグから飯を取って軽く済ませた所で、カシンが目を覚ました。
「ああ~よく寝た!……なんだ、もう着いたのか?」
「いや、馬を休ませてる所だ。まだ着くわけないだろう。」
「…そういやそうだな、このスピードなら明々後日の朝頃だろう。」
そんなもんか。その間寝てるばかりじゃ体も鈍るし、どこかのタイミングで体を動かさないとな。
30分ほど休憩を取ったところで、再び移動を開始する。
もう暗くなってきたし、起きたばかりだけど寝るか。明日は起きたら軽く荷馬車と並走でもしよう。
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翌朝、陽が昇る頃に目を覚ます。辺りを見渡すと9時の方向に山が見えるが、だいぶ移動したらしいな。千里眼で確認した時は結構遠かったんだが……睡眠時間を削って進んだのか。
本来鼠は人間よりも睡眠時間が長いはずだが、鼠人は別物のようだ。…これだけ働き者なら1代で蔵が建ちそうだな。
ふとカシンを見ると、この野郎まだ寝てやがる。寝る子は育つと言うが、この図体のデカさは睡眠の賜物か。
いや、羨ましくはないぞ?これでも180cmはギリギリあるし、高身長男子を名乗れる筈だ。もうちょっとあった方がいいな~とか思うだけ。
まあ20歳位までは伸びるらしいし、生活習慣に気を付けていけばもう2、3cmは伸びる…だろう…と信じたい。
そのためにも栄養バランスを整え、適度な運動をしなければな!
──そんな訳?でとりあえず朝食を摂って、馬の休憩が終わってからの2時間ほど、荷馬車を追走することにした。まるでマラソンだが、道路状況はボロボロで足首にいい具合に負担が掛かって運動量は増大だ。
これくらい運動すれば充分だろう。鼠人は不思議な顔をしていたが、まあ気にしないことにする。どうせもう顔を合わせることもないしな。
と、言うことで……追走、食事、睡眠を繰り返し2日を過ごしてしまい今は出発から3日後の昼前である。特にゲームのような盗賊の襲撃もなく、それはそれは平和だった。
カシンはと言うと───たまに飯を食べるために起きるくらいの、完全にダメ親父みたいな生活リズムだ。熱い男なのだから体を動かさないとしょうがない奴かと思っていたが……そうでもなかった。
まあ生物としては省エネで正しい…のかも知れない。
とまあ問題なく進めたので、王都まではあと少しだ。村が王都の先なので、俺たちを王都に置いていってくれるらしい。
────王都を視てみるとなんとまあデカい事だ、総じてデカい!地球基準で言えば世界で3番目に小さいナウル共和国とほぼ同サイズ位か、目測だけど。……逆に分かりづらいっ!
王都を覆う外壁は20mを越え、最奥には城壁に囲まれたアホみたいにデカい宮殿。ギルドもここが本部?なのか4階建てで、他の設備も大きい。まあ利用者が多ければ大きくもなるだろう。
そんな風に一人王都の様子に驚いていると荷馬車が止まった、どうやら着いたようだ。
「カシン!起きろ、着いたぞ。」
「────ん?……ああ、着いたか。あ~よく寝た。」
「そりゃあそんだけ寝ればな……ほら、降りるぞ。」
カシンを起こし鼠人にお礼を済ませると、王都に入る。門番はいたが入国料なども発生せず身分証…ギルドカードの提示だけで、カシンもギルドカードを持っていたので問題なく通ることが出来た。
てかギルドカード銀色やんか……
王都に入ると目の前はゴミ…人混みだ。石畳でしっかりと舗装された道路は道幅も広く、馬車が通っても人の通行に問題がない。
立ち並ぶ家屋も大きくて立派なものが多く、活気に満ちているな。流石王都と言ったところだ。
「さてキャッスル、王都に来たのはいいがこれからどうするんだ?とりあえずギルドか?俺は情報屋を兼業してる知り合いの店に行くんだが……」
「不動産……家を借りたいんだけど店を知らないか?」
「最近は来てないから覚えてないな、俺の方に付き合ってくれればいい店を聞けると思うが。というか大金貨が100枚もあるんだから買うことを考えろよ。」
「え、大金貨100枚で家が買えるのか?」
「100枚どころか、50枚あれば結構選べると思うぜ。拘っても80枚もあればまず買えるだろうよ。」
なんだ、思ったより安く感じるな。これは家を建てる費用が少ないのか、それとも土地の値段が安いのか…。
まあ元の世界でだって日本で手狭な一軒家が買える金額で、海外だとプール付きの豪邸が買えちゃうなんてのもあったからな。
日本の場合は国土面積と人口の比率的に地価が高くなりがちだったが、王都の面積規模を考えるとこの安さもある意味納得だ。
何処の世界でも大きいは正義なのか……。
「──じゃあカシンに付いていってその情報屋の知り合いを紹介してもらおうかな!」
「おうよ、付いてきな!いい奴だからきっとキャッスルも気に入ると思うぜ。」




