#10 トーナメント?
食堂へ行くと昼時なだけに人で溢れかえっていた。まあ観客、負けた他の出場者までいれば当たり前だ。だけどこれじゃトーナメントに間に合わなそうだな、トーナメントの組み合わせは直前に知らされるからあまり余裕もないんだが。
「決勝進出の選手の方~こちらから優先的にご注文承ります!」
ふと見ればカウンターの脇に立つ男性が声を張り上げていた。ありがたいことだ、こういう気遣いって嬉しいよね。
早速注文をして、これまた決勝進出選手の専用のテーブルに案内される。テーブルには既に他の選手がほぼ座っており、一足先に食事を取っていた。
来るのが遅かったこともあり空いている席に座るわけだが…嫌な配置だ。4人×4人の長テーブルで、空いている席は2つ。1つは右隣にポーラ、向かいにカシン。もう1つは左隣にカシン、そして向かいにポーラ。
…エロイエロイ、ラマサバクタニ。
流石に隣は嫌なので、向かいにポーラのいる席に座る。どうか声を掛けられませんように。
「あなた…よくアイリを倒せましたね。でもいい気にならないことよ、上には上がいるものだから。」
うん、そんな甘くなかったー。
「…えーっと、はい、そうですね。気を付けます…。」
「ふん、なぁにその気の抜けた返事は…。まあいいわ、もしトーナメントで当たったら力の差を見せてあげるから楽しみにしてなさい。」
そう言い捨てると食事の終わっていたポーラは席を勢いよく立ち上がり、離れたところにいたアイリと共に去っていった。
「──あんちゃんも面倒な子に目付けられたな。言葉の端々にいやな匂いを感じたぜ。」
苦笑いしながらポーラ達を見送っていると、隣から声を掛けられた。
「ああカシンさんでしたっけ、匂いってのは?」
「ああ、俺らみたいな獣人が普通の人間より身体能力が高かったり嗅覚、聴覚が優れているのは分かりきってると思うが、狼族は特に嗅覚が並外れててな。感情も匂いで感じ取れるんだが、さっきのあの子からは自己顕示欲とお前さんへの嫌悪感が凄かったぜ。」
キモッ!……いや、凄いな。
「へぇ~そうなんですか。まあ、あの子が面倒なのは分かりきってましたから、上手いことやりますよ。」
「そうか、まあ頑張れな。…それよりあんちゃんの試合見たけどなかなかやるな。それに最後の方で魔法も使ってたってことは意外と家柄もいいのか?」
「家柄?なんでですか?」
「そりゃお前、魔法を戦闘に使えるような魔力量なんて貴族の血が入ってなきゃ……ああいや、悪いことを聞いたな。家柄が良けりゃこんな大会出てないか。」
なんだがカシンが同情とも憐れみとも取れる目を向けてきた。…あれか?貴族の血は入ってるけど没落したとか、妾の子だとでも勝手に想像したんだろうか。
まあ勘違いしてくれるんなら乗っといてやるか。
「まあご想像にお任せしますよ。それよりカシンさんも凄く強いですよね。」
「おう、そうだろう!なんたって故郷の村じゃ俺に敵う奴はいなかったからな。だから俺よりも強い奴に会いたくて武者修行の旅を始めてよ、ちょうどこの街の大会の事を聞いたから参加したんだ。」
「へぇ~俺も最近この街に来てちょうど大会の話を聞いたから参加したんですよ。そうだ、俺この大会が終わったらこの街を出ようと思ってるんですけど、何処か良いところありますかね?」
「ん、そうだな~。ああ、ここから北東に歩いて4、5日の所に"王都ライディオン"ってのがあるんだが知ってるか?」
「……いえ、知らないです。」
「ここジョズレイン王国を治める"ヘンリー・エルミック・ジョズレイン王"のいるバカでかい街でな。設備もしっかりしてるし、この街の魔閃の森にも劣らない魔物の住み処"ハミル山脈"も少し歩くとあるから金もガンガン稼げるだろうよ。」
「しっかしライディオンを知らないとは、随分と田舎から来たんだな。」
そもそも王様の名前すら知らなかったけどな。いや、今覚えたけど。
「そうですね…それに、自分の事で手一杯であまり外に目を向ける暇もなかったもので。」
「……まあ、それなら仕方ないわな。ああそうだ、俺もちょうど大会が終わったら街を出てライディオンに向かおうと思ってたんだ。良かったら一緒に行かねえか?長旅も1人だと寂しいからよ。」
──はてどうするか?ぶっちゃけ1人の方が早く着けるし、足手まといでしかない。
でもカシンと行動を共にした方が情報も得やすいし、色々と便利そうだ。それに…そろそろ1人も飽きてきた。
「分かりました、道中ご一緒しましょう。俺も1人は寂しいですからね。」
「そうか良かった!…それじゃ、俺は一足先に行くからよ。もしトーナメントで当たっても手加減しねえからそのつもりでな。」
「ええ、それでは。」
なんとも熱い男だ。まあ嫌いではないけど……そんなに好きでもないかな!まあ道中は暇しなくて良いかも知れんが。
話に集中していたせいで箸が止まっていたので、少しだけ急いで食べる。食べてすぐ戦闘とか地獄だからな、脇腹痛くなったら堪らない。
食事を終え、さっきまで試合を見ていた通路の窓からリングを見下ろす。トーナメントはリングの上で観客に見えるようにクジを引いて決めるらしい。
審判がクジを引き、組み合わせが決まっていく度に観客は一喜一憂する。とりあえず最初の組み合わせではカシンともポーラ達とも当たらないようだ。
俺の相手は…よく分かんないや。一応試合は見たはずなんだけど、あんまりインパクトがなかったのか名前を見ても顔が出てこない。
まあはっきりいってカシンとポーラ以外は目立っていなかったからな。俺の相手には悪いがアウトオブ眼中だ。
──そんなアウトオブ眼中との試合は1試合目である。であるがポーラやアイリの様に魔法を使えるわけでもなく、カシンの様に体術に優れているわけでもない。結果、初撃を避けてからの首への手刀1発であっさりと終わってしまった。
…間違ってもトーナメントのクオリティではない、というかなんで予選を勝ち残ったか甚だ疑問である。
観客も呆気に取られ、実況すらフリーズする始末。その数秒後に観客は大盛り上がりをしてくれたが、実況は驚きながらも少し不満そうだ。
予想するに白熱する試合を実況して熱くなりたかったんだろう。大丈夫、この後の試合ならきっと白熱する試合があるって。…まあポーラもカシンも相手はアウトオブ眼中な面々だったけどな。
───その後の3試合も酷い有り様だった。予想通りではあったけど、カシンもポーラも瞬殺で終わり、残りの1試合は泥を泥で洗う泥試合。
しかも俺の後にポーラ、カシンと続いてからの泥試合だったから精神的にキツかった。観客もヤジ飛ばしてたしな。もっと頑張れよ、と。
さて泥試合が終わり、これはこれで精神的にキツいポーラとの試合である。
実況に従ってリングに下りると、鼻息荒くしたポーラが待ち構えていた。ゴングも鳴っていないのに既に敵意剥き出しの目に少し俺の加虐心が刺激されたが、抑えつけて試合が始まるのを待つ。
──もうあの強気な感じも慣れてくると逆に虐めたくなってくるな。
次回、VSポーラ




