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第三話のことば

・(トップ)メタ【TCG用語?】

 たとえばあなたが、じゃんけん大会に出るとしよう。あなたは幸運にも、参加者が繰り出す手の情報を事前に得ることができた(ありえないって? いいじゃないか、例えだよ)。

 それによると、初手にグーが出てくる確率は六割。パーとチョキは共に二割らしい。

 この情報が100%正しいとしたら、あなたはどうするだろうか?

 ーー答えを訊くまでもないだろう。パーを出すに決まっている。それだけで、少なくとも勝率60%が保証されているのだから。


 このような「大会参加者の分布(予想)」、及び「それを受けての対策」を一般にメタ(メタゲーム)と呼ぶ。

 非常に曖昧な語であり、どうしても辞書的な説明は難しい。この二つの定義のどちらを表しているかは文脈で判断する必要をもつ、便利なのか不便なのかよくわからん言葉である。


 もともとは“meta-”という、英語の接頭辞である。訳は「超越した××」。

 「既定の枠を飛び越えた」みたいな意味で(ここも曖昧だ)、しばしばTCG以外の分野でも使われる。

 そのため、単なるTCG用語と言い切ることはとてもできない。


 読書好きなら、「メタフィクション」とか「メタミステリ」といった言葉を聞いたこともあるだろう。これらは「フィクションであること」「ミステリであること」を積極的に容認したプロットでできていたり、登場人物がそのことを知っていたりする作品だったりを指す。


 他のゲームでも、目にする機会は多い。代表的なのはポケットナンチャラーのオンライン対戦だろう。

 物理攻撃のドラゴンが強い→やけどで攻撃力を下げよう→某きのみをもたせたり、ほのおタイプで牽制したりしよう。みたいな感じで、分布に合わせての対策なんかが行われる。

 こうした動きは、「個々の対戦」を超越して、「プレイヤー全体の傾向」に目を据えているために、本来のゲームの範囲を越えている=メタゲーム、というわけである。


 では本文中の語に立ち戻ろう。

 トップメタとは「そのとき、そのときごとの、最も使用者の多いデッキタイプ(群)」である。

 最初の例をムリヤリ踏まえるなら、グーがトップメタということになる。

 そしてジェローナは、グーにあたるデッキの軸になっているということだ。


 もっとも、じゃんけんでは選択肢が三つしかないために、この例えは苦しい部分がある。

 というのは、TCGにおいては、トップメタは一つとは限らないのだ。

 むしろ一つ二つしか無いようでは不健全ともいえる。その状況が長く続くようなら最悪だ。


 健全なTCGは、ある時にはAというデッキが最も強く、数週間後にはAに有利なBが最も強く、さらに数週間後にはBより強いCが、というように移り変わるべきである。

 ここではあえて曖昧に「数週間後」としたが、これが短い分には何も問題はない。実際、ネットワークでの情報交換が盛んなタイトルだと、数日でトップが入れ変わることもザラにある。

 逆にこれが長いと(数ヶ月に渡ってAというデッキが最強のままだと)、A以外のデッキには価値がない、ということにもなりかねない。それはデッキの多様性を殺すこととほぼ同義である。そしてデッキが多様でないということは、研究の余地が少なく、懐の広さに乏しい、不健全なゲームだということになる。

 そういうわけで、上記では(群)の文字を加えてある。先ほどの例を踏襲すれば、「ここ最近で一時的にでも最強となった、ABCいずれのデッキもトップメタと呼ばれうる」わけだ。

 

 作者としては、SNoWも健全なゲームであると信じている。なので、ジェローナが必ずしも絶対最強というわけではなく、ABCいずれかに属しているカードどいうことだと考えている。



・デッキの完成度【TCG用語】

 勝負に勝つ方法には、「勝利条件を達成すること」と「敗北要素を排除すること」がある。それぞれ「自分の勝利パターンへの持って行きやすさ」と「相手メタに合わせた対策」と言い換えてもいいのかな。

 してデッキの完成度とは、そのいずれか、あるいは両方をどれだけ満たしやすいか、を記すものであるーー割と暴論なんだけど、細かいところに目をつむればそう言っていいと思う。


 前者はたとえば、どれだけ早く相手のライフを削れるか、とか。どれだけ確実に自分のコンボを成立させるか、とか。

 後者は相手のコンボをどれだけ上手く妨害できるかとか。強固な守りを固めるか、とか。

 そういった、なんらかの目的の満たしやすさって感じ。 



・プレイスキル【TCG用語?】

 そのまんま。手札やデッキを、どれだけ上手く使えるかの技術。

 将棋やチェスの駒は誰もが同じものを使うけど、それらを使う巧さには差があるでしょ。それと同じことがTCGにも起きるのだ。



・相性

 「アーキタイプ」参照。



・ソーシャルゲーム

 勝利という結果を得ることが追求された結果、本来のゲームとは違うものと化した何か。


 これは私見なんだけど、世のゲームは二つに大別できると思っている。「条件を達成するもの」と「最大効率を編み出すもの」だ。


 前者は一人でプレイするものに多い。ほとんどのRPGがそうだし、ソロ用のアクションだとか、シューティングだとかもそうだ。

 ボスを倒すとか、依頼をこなすとかっていう条件のクリアを目標にするもの全般を指す。

 ボスの行動パターンを分析して、時にはそれに合わせた技術やアイテムを入手することで、それらを達成することができる。


 そうしいいたゲームも、私は好きだ。なぜなら、ボスに挑んで、負けて、対策を練ってーーという苦節の果てに、勝利を手にすることが快感だからだ。自分が練った戦術は間違っていなかったんだと思えるのは、とても嬉しいことだと思う。


 ソーシャルゲームは一義的にこれと同じだけど、他方では違う。

 条件を達成するという点では一致しているけれど、そこに至るまでの苦節がない。戦略を練るだとか、そういう行為がーー課金、または時間の浪費といったものに代替してしまっている。


 これはもう、ゲームではない。

 少なくとも作者はそう思うし、似たような意見をときおりブログなんかで見る。

 そして尭史もまた、そんなことを思って毒づいたのだろう。


 ちなみにもう一つの「最大効率を編み出す方」は、ほとんどの対人ゲームが該当する。

 TCGも含めるし、ボードゲームとか、テーブルゲームとかはだいたいそう(さすがに双六やらは除くけど)。


 これらはRPGのボスと違って、何度も同じ条件で対戦できるとは限らないーー相手も、ややもすれば自分も、常に同じ戦い方を取れる保証がないーーゆえに、確率や行動の対価を勘案して、二つの最大公約数的な戦い方を取るのが最良とされる。


 結果として、効率を求めるってことなんだけど。

 詳しいことは、いずれまた。


・ルーン文字【SNoW用語】

 SNoWの背景ストーリー、その根幹にして深淵に存在するという創世導師ウォーロックが用いるとされる文字。ジェローナが元いた世界の文字ではないが、彼女は読める。

 三回戦の直前あたりでまた触れる予定なので、ここではそれ以上のことは伏せる。



・オーナー【SNoW用語】

 持ち主。

 バトル中における「コントローラー」と区別して使われる。

 「オーナー」は特に、物的・法的な意味での持ち主。



・マッチング【TCG用語】

 ここでは相性と同義といっていい。



・スクロールカップ【SNoW用語】

 SNoWの日本本社が、黎明期から毎年開催している大規模大会。


 国内に籍を置くプレイヤーのみが参加可能な大会で、実質的な優勝賞金は世界大会のそれに匹敵する。

 金額のわりに運営形式はいたってシンプルな、64のプレイヤーによるトーナメント戦である。

 ふつうこれくらいの規模だったら、ドラフト戦が考慮されたりフォーマットが途中で変わったりスイスドローだったり、と複雑な形式になると思うんだけど。TCG知らない人でも辛うじて読めるように、そういうのはやめた。

 甲子園的なトーナメント戦の方が敵との因縁とかつけやすいし、変なとこに文字数割きたくもないし。


 さて。さきほど「実質的な優勝賞金」という書き方をしたけど、実はスクロールカップの優勝者は、ポンと賞金を受け取れるわけではない。

 実際には、賞金は三百万。それに加えて、「ものすごーく割のいいアルバイトをする権利」というのがもらえる。その給料が三百万。二つ合わせて六百万なのである。

 このバイトは、スクロールカップの各試合に対する優勝者目線の解説とか、今後一年間、月に最低一本の分析記事を執筆するとか。そういったものである。

 日本一になるようなプレイヤーにとっては雑作もないことであり、断る理由はない。時給に換算したら十万くらいにもなる。

 一般プレイヤーにとっては垂涎ものの記事が一年間確実に読めるので嬉しい。

 企業にとっては、優勝者の記事を乗せた専門誌はそこそこ売れるし、カードの売り上げも間接的に上げてくれるので、やはり助かる。

 みんな嬉しいシステムなのだ。


 なお準優勝者は賞金百万+二百万のバイトの権利。

 ベスト4は賞金20万くらいだろう。8で五万とか?


 大会のルールに目を向けよう。スクロールカップのルールは、エキスパート構築のマッチ戦である。

 エキスパート構築というのは、要するに「禁止されてないカードはなんでも使える」という理解でいい。

 判る人であれば、エターナルフォーマットだといえばピンとくるだろう。ヴィンテ、いやなんでもない。


 とんでもなくカードプールが広いので、カードの知識もデッキの知識も多分に必要となる。古いレアカードを使おうとすればお金もかなりかかる。一般プレイヤーにとっては、観戦するだけで眼福みたいなテーブルになる。

 即死級のコンボも簡単に生まれるし、それを阻止するカードも飛び交う。うかうかしてるとアグロに瞬殺されるし、Fmが延びてとんでもないプログレが出てきたりする。

 SNoWの対戦形式の中で最もスリリングなものが、エキスパート構築というわけだ。


 そんな戦場に、尭史とジェローナは異能片手に飛び込んでいく。

 果たして二人は妹の治療費を獲得できるのかどうか。

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