舞台の隅っこで
部活の企画のB5サイズ1枚のお話を書くというもので書きました。お久しぶりです。大学の方が忙しく、ちょこちょこ書いておりますがpixivにだけ投稿してこちらに投稿し忘れるというパターンが度々あるので気を付けたいと思います。
そこは僕の居場所。オセロで言ったら取ろうとすべき場所だし、部屋なら埃が溜まりやすくて嫌な場所だ。いてもいなくても変わらない自分だけの指定席。そこが僕の住む世界だった。
自分が主人公じゃないことに気が付いたのは小学生の頃だった。何をやっても上手くいかない。それなのに周りの人間はとても輝いていた。まるでそれが自分の生まれてきた意味なんだと主張するかのような数々の行動は、僕を舞台から降ろすのには十分だった。脇役どころかみんなと同じ場所にさえいられない。そうして僕はいつの間にか自分の感情さえも心の隅に隠してしまったのだ。
「これやっておいてくれない?」
「分かった。任せて」
笑顔のフリをして他人の道具になるのも慣れた。何でもいいよと答える僕に調子にのったのか、周りの人たちは一人ではできない量の仕事や無茶なことをお願いしてくるようになった。
高校生になって学んだのは使えそうな人間は使われるということ。中学まではいるのかいないのか分からないように過ごすことが出来たけれど、高校ではそうはいかなかった。隅にいるのは中心にいることと同じ。みんなの欲を満たすために僕は存在していた。
「これで全部かな」
倉庫の整理は二時間ほどで終わった。大人数でやればすぐに終わる程度のものなのに、わざわざ一人にやらせるなんて頭が悪いのか。それとも、他人を傷つけることに楽しさを感じ始めてしまったのか。どちらだとしても僕には関係ない。僕はただ、誰かのために行動していればいいのだから。
陽が完全に落ちて倉庫内は明かりがないため、辺りは真っ暗だ。手探りでドアを探してドアノブに手をかけると全く動かない。どれだけ力を込めても押しても引いてもビクともしない。外からは数人の笑い声が聞こえてくる。これで今の状況が分からないやつはいないだろう。道具は玩具になったのだ。
どうせ、すぐに飽きられて捨てられるのは分かっていた。それなら……。
倉庫内にあったポリタンクを蹴り飛ばして中身を辺りにぶちまける。液体がどんどん流れていくのを見て、僕はわくわくしていた。やっと舞台の上にあがれるのだから。
理科の授業で返し忘れていたマッチ箱からマッチ棒を一本取り出して火をつける。今にも消えてしまいそうですぐに揺らいでしまう小さな火は、まるで僕の今の命を表しているように見えた。
僕はそれを液体の上に放り投げた。火はすぐに燃えあがり、木製の倉庫は少しずつ崩れていく。もしかしたら壁に穴が開いて逃げられたかもしれないが、僕にそんな勇気はなかった。
「ははは……」
乾いた笑いしか出てこなかった。でも、これで満足だった。この火はスポットライト、登場人物は僕だけ、倉庫という舞台の中心で最期を迎えるのに何の不満があるというのだろう。ようやく隅っこを抜け出すことができるのだ。その代わりに炭っ子になるのだけれど、なんてそんなジョークを考える余裕があるのだから何も後悔してないのだと思う。
僕は静かに目を閉じた。この後、どうなるのかは知らないまま意識はゆっくりと……。