独眼龍って誰ですか?
三田一族、殺生公方と呼ばないで、に次ぐ、戦國物のプロット作品です。現在の所連載する予定はありません。
天文四年(1535)五月七日
■陸奥國磐前郡大館城
この日、岩城重隆の側室が男児を産んだ事で、今まで女児しか居なかった岩城家に待望の世継ぎが誕生した。
「御屋形様、元気な男の子にございます」
「おお、でかしたぞ」
大喜びの重隆が赤子を抱き寄せ頬ずりすると、髭が痛いのか赤子か泣き始めた。
「ビャーーーーー」
「おお、どうしたと言うのだ」
慌てて産婆が重隆を注意する。
「御屋形様、赤子の皮は薄いのですから、その髭で頬ずりなされては、堪りませぬぞ」
「おお、すまんかった。すまんかった」
重隆は赤子に謝ると、産婆へ子を渡した。
「頼むぞ、当家の大事な跡取りぞ」
「お任せ下されませ」
その後、この赤子は長次郎と名付けられる事に成る。この子の誕生が岩城家は元よりみちのく全体を巻き込む要因と成ろうとはこの時点では誰一人として想像することすら出来なかった。
天文五年(1536)四月五日
■陸奥國磐前郡大館城
この日、前年の嫡男誕生で婿取りせずに済んだ重隆長女久保姫が同盟の一環として、陸奥國白河郡白河小峰城主、結城直広の元へ嫁ぐことと成った。
白無垢姿の久保姫が重隆に挨拶する。
「父上、長い間お世話になりました」
「何の、お前に婿を迎えて岩城の家を継がせようと考えていたのだが、長次郎の為に嫁に出す事に成って済まぬ」
重隆が久保姫へ頭を下げる。
「父上、何を仰いますか、私に岩城のお家は重うて重うて、重荷でございました故、長次郎のお陰で肩の荷が下りてホッとしております」
「姫……」
久保姫は精一杯、親を励まそうと努力しているのが判り、重隆はいじらしく感じて涙をながす。
「父上が泣いてどうしますか、此処は笑って娘の門出を祝うが仕事でございますぞ」
そう言いながら、父の涙を懐紙でそっと拭き取る。
「そうじゃな、そうじゃ、久保姫は三國一の花嫁になったのじゃ、儂が喜ばんで何とするか!」
「そうでございますよ」
そんな別れの後、久保姫は家臣一同に見送られ旅立つ事に成った。
その見送りの中に、自分を追い出すことになった弟が乳母に抱かれているのを見て、輿に乗るのを止め弟の所へ行と乳母から弟を奪う。
その行動に皆が久保姫が何かしでかすのではと驚愕するが、久保姫は弟の顔をジッと見てから、目を合わせて話しはじめる。
「長次郎、私は白河へ行くのよ、だから父上と皆の事は任せたわ。早く立派な岩城武士に成りなさいね」
そう言い聞かせながら、にこやかな笑顔で弟をあやすと、話がわかるのか、弟がその幼い手で久保姫の手を握り、にこやかに笑い出した。
「そうですか、長次郎は才があるようですね。姉は遙か彼方から貴方の行く末を祈っていますからね」
そう言うと、弟を乳母に渡して、今度こそ輿に乗り旅立っていった。
しかし、この数日後、白河へ行く途中、久保姫一行は賊に襲われ、久保姫は何処と無く攫われてしまったのである。
岩城家、結城家ともに大騒ぎとなり、八方手を尽くしたが一年経っても姫の行方は知れず。皆が諦めかけた頃、思いもよらぬ場所から久保姫の消息が知れたのであった。
なんと、東國一の美女と名高い久保姫の美貌を知って惚れ込んでいた陸奥國伊達郡桑折西山城主伊達稙宗嫡男、伊達晴宗が自ら軍勢を率いて輿入れの行列を襲撃して久保姫を連れ去り、強引に正室にしていたのであった。
早速、岩城、結城両家から強烈な抗議が行われるが、既に久保姫は晴宗にメロメロにされており、既に晴宗の嫡男彦太郎を出産していたのである。
この事も、伊達家は元よりよりみちのく全体を巻き込む要因と成ろうとはこの時点では誰一人として想像することすら出来なかった。
実際に晴宗は嫁強奪をしたという話もあるんですよね。