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さよならの記憶、はじまりの日(☆)

season1内の「さよならトランペット」、「如月・弥生」内の「サヨナラホームラン」、「夏時間、君と」内の「私を野球場へ連れて行って」「ふつうの恋人」の二人の話です。


 真緒(まお)、二十五日の午前中に仕事休んでもらう事って出来るか?


 そう聞かれた二十五日とは、いよいよ父に和馬(かずま)君と会ってもらう約束を何とか取り付けた日の二日後に当たる。

「うん、まだひと月先だし一日休みじゃないし、大丈夫。半休申請するよ」

「じゃ、悪いけどその予定でいてくれ」

「分かった。でもなんで?」

 いくらそう聞いても、和馬君は笑ってごまかすだけだった。怪しいなあ。そんな、聞いておいて曖昧に濁すようなことしない人なんだけどな。『クセ玉は投げるけど、性格は基本まっすぐ』とは、高校で同じ野球部だった嵯峨(さが)君の評だ。私もそう思うよ。

 らしくない態度に引っかかりつつも、うちに御挨拶しに来てくれるのはやっぱり嬉しくて、そわそわしてた。――父がごひいきなチームとはライバルに当たる球団の、エースピッチャーである和馬君を目の敵にしなければもっと早くに会えてたんだけどね!

 ちなみに、私から和馬君のおうちへの御挨拶は、父がああだこうだと逃げ回っている間に済ませた。シーズンオフに入ってすぐに訪れた野原家では、デッカイ一族(お父さんもお母さんも、お兄さんも皆おっきかった!)に優しくもてなされて、結婚の了承もいただけたというのに、もう。


 そして迎えた二十三日、珍しくガチガチに緊張している和馬君という、世にも珍しい物を見ることとなった。

 父に電話口で断られること片手分、私から直接お願いして逃げられたのも同じくらいで、最後は痺れを切らした母が『いい年してみっともない! 一家の主なら娘の結婚相手くらいいつでも来いって云ったらどうなの!』とキレたことで父が己の行動を顧みたのか(もしくは母を怒らせておくと後々面倒だという計算が働いたのか、その両方の合わせ技か)ようやくアポが取れた今回、少しの落ち度もないようにと和馬君は周到に準備を整えて来てくれた。

 髪はきちんと散髪され、スーツもシャツもネクタイも、ちょっと独特な和馬君の好みではなく、私と行きつけのお洋服屋さんの担当さんの意見を重視して。

 何回も何回も、挨拶も、『お嬢さんを僕にください』も耳にタコができる程練習で聞いた。なのに、その練習で云われるたびにドキドキしてたのは、私だけの秘密。


 デッカイ一族と対照的に、うちは父も母も小柄だ。だからまるでうちのリビングに座る和馬君は、小人の国に来たガリバーさんみたい。

 どうぞ、と和馬君の大きな手が差し出したダックワーズの詰め合わせ――もちろん父の大好物――を「どうもご丁寧に」と、好物だからか父が案外あっさりと受け取る。

 球団のある方の気候はどうですか、とか、肩の調子はどうですか、とか、他愛のない、でもちゃんと和馬君のこと意識してたんだなあってわかる会話を、ぽつりぽつりと投げ掛ける父。それを、やっぱりあっちはだいぶ寒いですね、とか、お陰様で順調です、とか、和馬君も返すけど、それに父が「そうか」と相槌を打つとそこで会話はおしまい。二人とも、うわべの会話を楽しめる人たちじゃないから、まるで相手までボールの届かないキャッチボールだ。それでも、二人ともちゃんと投げた球を拾ってまた投げてた。相手の頭を狙ったり、わざと遠くに投げたりはしないで。

 それを和馬君も分かったのだろう。ぎこちないながらも交わした会話がひと段落つくと、ぬるくなった紅茶で喉を湿し、そして静かにカップを置いて和馬君は姿勢を正した。それだけで、空気が、変わる。

「お嬢さんを、僕にください」

 話を聞いてもらえると分かるや否やの先制攻撃に、しんとしてしまうリビング。和馬君、切り出す時にはせめて私に合図をして欲しいよ、と膝においたその手を恨みがましく横目で見てしまう。

 和馬君は、私の恨めし光線なんて意に介さず、静かに両親と向き合っている。

「野球選手の妻として、苦労を掛けます。自分と結婚すると云う事は、栄養管理も家事も、子供が出来ればその世話も、殆ど一人でやらせると云う事です。でも、」

 和馬君は、膝の上の拳にぐっと力を込め、試合中のように真剣な眼差しで父を見た。

「必ず、幸せにします」

 その言葉だけでもう、結婚にまつわる喜びの先払いをまとめてもらったような気がした。


 空気を読まない鳩時計が、緊張感を孕んだリビングで元気よく二時を告げた。

 それをきっかけに、ずっと紅茶を睨んでいた父が、ようやく和馬君を見る。さあ、何を云われるんだろう。

 ふざけるな、苦労するって云われてわざわざ娘を嫁に出すか! ――とか?

 天才ピッチャーの君と、凡人の娘じゃ釣り合わない。傷つくのがおちだ。――とか?


 何を云われても傷つかないように、先にひどいことをたくさん想定して、そのことで密かに傷ついた。いつの間にか俯いていたら、和馬君の手に、私の右手が包まれて、はっとする。


 そうだ。

 云われてもないことで傷ついてる場合じゃない。今この場で一番不安なのは、小っちゃい族のねぐらに単身やって来た、デッカイ族のこの人なのだから。

 大丈夫、と口には出さずに包まれた手をキュキュッと軽く動かして、気持ちを送る。和馬君からも一度返された。

「君の気持ちは分かった。お前はどうなんだ?」

 私に向けられたいつにない父の厳しい目に怯みそうになる心。繋いだ手に勇気をもらって、それを必死に奮い立たせた。

「私に出来るだけのことをします」

 球場でプロポーズされてから、母に教わるだけでなく料理教室にも通っている。アスリート向けの栄養管理の講座を受講し、ささやかな資格も得た。


 チームが変わるかいつか引退するかするまでは、今和馬君が住んでいる街で生きていく。生まれてからずっとこの街にいたけど、生活を一から構築することになる。

 友人らと離れるのはさびしい。でも新幹線を使えば思ったよりも時間がかからずに行き来出来るって分かった。

 新しい生活が不安じゃないと云えば嘘になる。それでも、私はもうこの人の手を離さない。そう決めるのに迷いはなかった。

 出来るなら、ちゃんと父にも認められてから、この家を出ていきたい。

「お父さん、お願い」

 私の言葉に、父は長くため息を吐いた。

「お前はのんびりなくせに頑固で、こうと決めたら絶対に引かないからな。――和馬君、こんな強情な娘だが、よろしく頼むよ」

「はい!」

「お前も、頑張りなさい」

「――はい」

 やっと、一歩進める返事をもらえた。和馬君といっしょに張り詰めていた気持ちが解けて少しずつ喜びを実感している最中、父が何故かもじもじしながら、背後から取り出して和馬君に差し出したのは、色紙と、ボールと、サインペン。

「じゃあ話も済んだ事だし、まずはこれにサインをしてくれるか?」

 今まで会いもしなかったのに厚かましいお願いをかます父に憤る私を片手で遮り、和馬君が「もちろんです、お義父さん」と快く応じると、「私も、写真いいかしら」と母までツーショット写真をせがんだ。――小っちゃい一族がミーハーだと呆れられてないといいけど。



 そんなこんなで二十三日は無事に目的を果たした。

 明くる二十四日は、恋人らしく過ごした。さすがに東京の街中で和馬君が歩くと大変なことになるのでホテルの一室でインドアな感じだけど、互いに用意したプレゼントを交換したり、昼間から贅沢にシャンパンで乾杯したりと、恋人として初めて過ごすクリスマスイブを堪能した。和馬君からはカシミアのストール、私からは和馬君が大好きな、でも手に入りにくいと評判の焼酎を渡し合う。『せーの』で開けて中身が見えた時、嬉しそうな顔をしてくれたのがすごく嬉しい。

 夜にはレストランで食事をしたけど、私はこの日ホテルには泊まらずに帰ると決めていた。さすがに結婚の挨拶をした直後にお泊りはしにくかったから。

 これが飲み終ったらバイバイか、と、明日も会えるというのに少しさみしく思いながら、食後の紅茶をゆっくりと飲み下す。それから、「で、明日は結局朝からどこへ行くの?」と改めて聞いてみると、「学校」と思いもよらぬ言葉が返ってきた。

「学校?」

「そう。朝、家まで車で迎えに行くから、トランペットも持ってきて」

「……トランペット」

「駄目か?」

「ううん、大丈夫」

 そう答えたものの、胸の中にはずんと重いものが沈んだようになった。

 でも平気。――もう四年、経ったんだから。


 家までお迎えに来てくれると云うことは、『荷物になるから』とトランペットを持って行かない理由も、忘れたふりすることも出来ないってことね。

 別に、トランペットをさぼってて吹きたくない訳じゃない。社会人になってから参加している市民吹奏楽団の練習には余程仕事が忙しくなければ出ているし、自主練だってしてる。

 でも私の演奏が聞きたければ、夜中にマシントレーニングしてても大丈夫な、防音ばっちりの和馬君のお部屋で吹いてあげるのに。



 雨だったら『トランペット濡らしたくないから』と断れたかもしれないけれど、お天気は快晴。

 和馬君の車は、待ち合わせの時間ぴったりにやってきた。

「おはよう」

「おはよう、和馬君」

 すっかり乗り慣れたその車の助手席に滑り込む。もちろん、忘れたふり出来なかったトランペットも一緒に膝の上だ。

 高校へは駅までバス、そこから歩きで通ってて、大体三〇分くらいかかってた。でも、和馬君の車でまっすぐ向かえば半分の時間で着いてしまう。

 あらかじめ訪問することを告げてあったのだろう。職員と来客者用の玄関に、私たちが三年の時の担任だった先生が待ち構えてた。

「野原、鳥谷、久しぶりだな」

「お久しぶりです。今日は無理云ってすいません」

「いいよ、でも後で野球部には顔出してやれよ? あいつら喜ぶから。あとこれ、部活棟の屋上の鍵な。終わったら返しに来いよ」

「あ、はい」

 先生は部活棟の屋上の鍵を私に手渡してそれだけ云うと、職員室へと帰っていく。それをぼーっと見送っていると、和馬君のおっきな手に右手を包まれ、「行こう」と促された。


 あの日と同じように、部活棟の階段をのぼり、屋上に出た。

 空気の冷たい具合やお天気まで、四年前をなぞるようにそっくりだ。


 和馬君は私の横に並んで立ち、柵を掴むと「寒いな」と呟いた。

「ここよりずっと寒いとこにいるくせに」

「それでも、こっちくるとこっちモードになるんだよ」

「デッカイ人の云うことはよくわかんないなあ」

「小っちゃい族のお姫様は意外と感性がざっくりだよな」

「なにそれーっ!」

 二人でいつものようにやり合う。うーん、それにしても、寒い。手と口が寒さで固まってしまわぬうちにと、ケースからトランペットを出しながら「ねえ、何吹く?」と聞いてみれば、リクエストされたのは予想通り、和馬君のテーマソング。

「了解、ちょっと待っててね」

 口周りの筋肉をほぐし、指をグー、パーに交互に開き、音を出すための準備体操を一通りした。

 そしてトランペットを構え、リクエストされた曲の最初の音のボタンを押さえ、アンブシュア(口のかたち)を整えて息を吸った、その時。


 あの日の記憶が、押し寄せてきた。


 一晩経って、さよならと向き合えたこと。

 二年と少しのきもちをこめて吹いたこと。

 上げられた左手でのサムズアップ。振り返らなかった背中。


 気が付いたら、音の代わりに涙が出ていた。

「あれ、やだな、……」

 ごまかそうとしても駄目だった。高三の時は泣かなかったのに、なんで今更泣くかな。

 そう自分に呆れてみてもやっぱり涙は止まらない。


 だってほんとはやっぱり泣きたかった、あの時。四年が経って、一八才の私の精一杯の意地も小さな日常の出来事も私の中から薄れていって、残ったのはただ悲しかった記憶。

 あれからずっと一二月二五日は、私にとってさよならの日だ。それでもいつも、他の場所で、遊びやら仕事やらで見ないふりをしていられたからその日をやり過ごすことが出来ていた。なので、ここでわざわざあの日をなぞるようにしていたら、泣くのは当たり前のことかもしれない。

 和馬君もそれを分かってる筈なのに。

 何で今日なの。どうしてここなの。


 詰ることも出来ないまま、次々に生まれてくる涙を掌で散らしていたら、和馬君に抱き込まれた。

 一昨日うちに来た時にも着ていたそのコートがぬれても、私を泣かせたのはこの人なんだからと遠慮せずに涙をその生地へ吸わせてやった。

「ここで真緒の演奏が聞きたいなんてわがまま云ってごめん、無神経だったな俺」

 ほんとだよ、の意を込めて、ぽかりとその腕を叩く。

「見てみたかったんだ、あの日の真緒が見た景色を、どうしても今日」

 私は見たくなかった。今年も知らんふりして過ごしたかったのに。

「ごめん」

 この後仕事なのにこんなに人のこと泣かせて。ばかばか。


 泣いてて喋れないのをいいことに、心の中で盛大に言いがかりをつけてた。


 四年も、閉じ込めてて見ることのなかった私の中の二五日の朝。だからこそ、こんな風にしてもらわなかったらこの先もずっと逃げたままだったかもしれない。

 すごく悲しかったしさびしかったよ。――でも、それだけじゃなかった筈だ。

 悲しくてさびしかった人が、もう一人いた筈。


 その腕にギュッとされているうちに、だんだんと気持ちが落ち着いてきた。

 もう大丈夫だよ、と離れかかった時、逆にもっと抱き締められた。

 私よりうんと大きな人が、うんと背を丸めて、私の耳に小さく告げる。

「あの日、鳥谷を置いてって、ごめん」

「うん」

「何も云わないで離れていって、ごめん」

 たぶんこれは、野原君側の後悔の気持ちだ。

 初めてだね、二人でちゃんとあの二五日に向き合うのは。


 何も告げずにここを発った理由は付き合い始める時にも聞いたけれど、あれから和馬君は忙しくしていたし、お付き合いは楽しくて幸せで、改めて話す機会もなくてずっと放っておいてた。この先も見ないふりをしたままで寄り添って歩くことも出来ただろう。でもきっと靴の中の小石みたいに痛みは消えることなく残ってしまうだろう。

 あの日の二人を、そんな風にしたくない、もう私も。

「和馬君」 

 その名を呼んで顔を上げる。不安な顔してる和馬君と、目が合う。普段は堂々としてるデッカイ人にそんな風にされると、私がこの人を守ってあげる、なんて小っちゃい族のお姫様は思ってしまうよ。

 和馬君がくれたこの機会に、私からも返したい。今だから分かることとか云えることが、あるもん。

 冷たい頬に、手を触れてみた。

 よしよしって頭を撫でたら、ようやく笑ってくれた。

「一人でプロの世界に飛び込んでく野原君に何も出来なくてごめんね。知らない場所で、一人でがんばったね」

「――ありがとう」

 きっとあなたも不安だった。

 マウンドでは鬼神のようでも、野原君だってまだ一八才だったんだから。

 あの時こうしてあげることは出来なかった。二人とも、あれが精いっぱいだったから。

 だけど、タイムマシーンで過去に戻ることは叶わなくっても、二人ならこうして、あの日を今日に重ねることは出来るよ。一人と一人で抱えてたさみしさを、二人のものにだって。

 だからもう、閉じ込めたりしなくても大丈夫。


 結局、吹けなかったトランペットはしまい込んで、「帰ろうか」と声を掛けた。

 あの日はもう取り戻したし、寒い屋上にこれ以上いる理由もない。なのに。

「いや」

 和馬君はそう一言云うと、片手をコートのポケットに入れて黙り込んでしまった。

 うつむいて、マウンドでやるみたいに、足元を靴でいじって。や、そこ土じゃなくコンクリだから靴痛むよ、やめなよデッカイ人。そう思ってたらまるで聞こえたみたいにその動きを止めた。と思ったら、今度はおもむろに片足の膝をつく。

「ちょ、ちょっとやめなって! ろくに掃除なんかしてないんだから、汚れちゃうよ!」

 私が慌てて立ち上がらせようとしても、デッカくて筋肉の和馬君はびくともしない。

「真緒」

「……何?」

 ポケットに突っこんでいた手は何かを、――小箱を、その掌に乗せてた。

 こうまでされておいて、分からない人なんてきっといない。

 こちらに向けて開けられた小箱。中に収められていた環は、恋人のしるしとして贈られたものとどこか似ていて、でもうんと輝いていた。まるで、小っちゃいお姫様用の王冠のようなそれを差し出して、デッカイ族の男が私に向かって告げる。

「俺と、結婚してください」

「……もう、前にも云ってもらったよ?」

 夏に聞かされたその言葉はインパクトがあり過ぎて、忘れたり出来る筈もないのに。

「でもあれは、大勢の人の前でだったし、球場でプロポーズすればいくら真緒が迷ってても断りにくいって分かっててした事だから」

「……まあね」

 和馬君の読みは鋭い。

 確かに、面と向かって一対一で申し込まれていたら、考える前に尻込みしてひたすら逃げてたと思う。

 だからああしてもらってよかった。背中を、押してもらった。嵯峨君に。反町君に、志保ちゃんに。見知らぬ人にも。

「真緒の気持ちはもう分かってる。でも、きちんと申込みしたかった。俺たちが始めるなら、ここからだろ?」

「――もうー!」

 やっぱり、半休じゃなく全休にすればよかった。

 またこんなに泣かされて、これじゃ午後の出勤までに目の赤みと腫れぼったさはきっと取れない。やっぱりあの彼とは駄目になったの? なんて噂されても知らないんだからね。


 和馬君は今日、私にあの日と再び向き合わせてくれた。涙の理由さえも悲しみから嬉しさに上書きしてくれた。

 大勢の前でのサプライズじゃなく、一対一で、ちゃんとプロポーズをやり直してくれた。

 感謝の気持ちと好きだけじゃとっても足りない。だから。

 デッカくてお洋服のセンスが面白くて『野球バカ』のこの人を生涯愛すると、一八才の私たちに誓うよ。

 指環を乗せて差し出されたその大きな手を、両手で包んで「はい」とお返事したら、和馬君はとっても嬉しそうにしてくれた。


 二人で部活棟から出ると、ちょうど校内をランニングをしていた野球部員と行きあい、あっという間に和馬君は彼らの一群に取り囲まれた。グラウンドまで連れて行かれてしまうその後ろ姿を苦笑しながら眺めていたら、振り向き、「ごめん真緒、屋上の鍵よろしく!」とサムズアップされた左手。

「了解!」とこちらも両手のサムズアップでお返事して、私は職員室へと一人歩き出した。


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