Joy!!!!!!!
高校生×会社員
高校生との恋なんて、想像もつかなかった。年下は絶対お断り、じゃないけどせいぜい二つ三つ下くらいまでかと。
二人の年齢の壁はざっくりで一〇、ないくらい。でも、あのお年頃の年の差はいっこでもデカいって分かってる。八つも違うとか、未知との遭遇だらけだよお互いきっと。
……って、思ってた。
意外とそうでもなかった。ぷよぷよで勝負したり、僅差で勝ったり、脳トレで勝負したり、大敗したり。
そんなことでいちいち笑ったり驚いたりするものの、とりたてて壁のようなものを感じることは今のところ、ない。普通に楽しいし普通に恋人だ。ただ相手がスーツじゃなく学ランを着ていて、恋人同士の営みがキスまでなだけで。
恋が始まった頃は、もっと自分に大人の女の余裕があったりだとか、いつか自分が通った道を辿ってくる男の子を温かい目で見守ったり、『あなたはまだ本当の恋を知らないだけ』なんて云って憧れの女ポジションキープのまま綺麗に別れたりするものだ、とも思ってた。
間違っても、こんな風に二五歳の私がしょぼくれて一七歳のユキに宥められるなんて風じゃあ、なかった。
「済んじゃったことはくよくよしてもしょうがないじゃん。ほらもう顔上げて。すいませーん、お好み焼き一つくださーい」
「……ちょっと、慰めながら追加注文とかやめてよっ」
私が来る前に食べたのにまだ食べるって! なのに痩せてるのムカつく! 笑うなこのタレ目。
「すいません、生中ひとつ下さい!」
はーい、とお店のおばちゃんが、私たちに呆れたように笑って返事をくれた。
ユキの高校の近くにあるこのお好み焼き屋さんで、私たちはよくデートする。
私の会社からの帰り道の途中にあって、安くてボリューム満点でおいしくて、さらにユキは『高校生限定お好み焼き回数券』なる一食分お得な綴りを購入し、常に持っているからだ。
ユキはこの日、私を待ちながら焼きそばを食べ、お好み焼きを一枚食べ、コーラを飲み、そしてこれからまた一枚お好み焼きを食べるところだ。高校生男子の食欲、すごいわ。
「はいお好み焼きと生中おまたせ」
お店のおばちゃんが注文したものをどんと置いた。
ユキの所業に怒っていたら、仕事で落ち込んでたことをちょっと忘れられた。
目の前の彼は、鉄板の向こうで穏やかに笑いながら「ちょっと元気になった?」なんて聞いてくる。
わたしはぐびっとビールを飲んで、後ろの壁に寄り掛かった。
「……まぁね」
「ならよかったよ……っと」
ユキは慣れた手つきで鉄板に油を伸ばし、生地と具を混ぜて、鉄板に流す。じゅわーって云う音を聞いていたら、食欲が湧いてきた。
「ねえねえユキ」
「なんですか碧サン」
「それ焼けたら後で一口ちょうだい」
駄目って云われないのを分かってて聞いてみた。そしたら、流した生地の形を整えながらふふんて笑われたふふんて。
「一口でいいの?」
「……うう、じゃあ二口で」
「だーめ」
何か意地悪を云ってんぞ。しょせんは子供か。
絶対横取りしてやると大人気ゼロで心に誓うと、「お腹空いてんだよね? 半分こ、しよ」って云ってくれた。
……。もう。私ばっかり意地悪でバカみたいじゃん。
悔しいから憎まれ口を叩いた。
「最近の高校生ってみんなそんなに優しいの?」
「最近の大人の女の人よりはね」
負けた。これだから頭のいい子はキライよ。
「好きな女には優しくするでしょ、男なら」
完全に、負けた。
週に二日はここでお好み焼きを焼いて食べてると云うユキが振る舞ってくれたお好み焼きは、プロかと思う程おいしかった。さすがにいつでも店で働けるとお店のおじちゃんとおばちゃんに太鼓判押されてるだけある。
半分こって云ってたくせに、自分の取り分である半分の、そのまた半分も、くれた。
「それじゃあお腹がすいちゃうじゃない、ユキ」
「俺はもう充分食ったし。最初っから碧サンに食わそうと思って焼いたから」
「……あなたってなんて優しいの!」
「はいはい、照れ隠しに英語の例文風に云わなくってもいいよ?」
二人でいると自分の方が年下みたいな気になることがある。
もう何も云えなくなって俯いていたら、「うん、かわいいかわいい」と頭を撫でられた。
基本割り勘なので、と云うかユキの側の意地と云うかプライドと云うか譲れないポイントらしく「年上だからって自分の女に奢らせるとか意味分からん」と云われているので、私が奢らせてもらえることってほとんどない。例外はユキの誕生日くらい。それだって地元のお手頃価格のお店を指定されてだ。
だから今日も普通に割り勘気分で、自分の飲み食いした分は出すつもりだったのにトイレから帰って来ると「もう会計済んでるから」ってあっさりお店を出られた。
「じゃあこれ」って渡そうとしても、「こういう時ってにっこり笑って『ご馳走さま』って云うのが大人の女じゃない?」なんて云いやがる。
「云っとくけど今日だけだよ、今日はたまたま碧サンが弱ってたからゴチしただけだからね、今後もそうだって期待しないでね」
わざと慌てた風に云うけど、これは照れ隠しだね。ユキってなんていい男なんだろ。
そう思う気持ちのままに、ぎゅむっと学ランにしがみついた。汗と埃とユキの匂いの。
黒い生地にファンデが付くと目立つから、しがみついた手におでこをくっつけてた。
通りの人けと車が途切れたタイミングをユキは逃さず、タレ目で笑う。
「……キスしてよ、碧サン」
そうねだりながらも自分は学ランの上に羽織ったダッフルコートのポケットに両手を突っこんだままだ。
「うん」
ヒール履いてても届かないユキが、俯いて猫背になって顔を近付けてくる。それでも届かないから、ユキの肩に手を掛けて、背伸びをして口づけた。
ユキ自身に関しては聞いてもないのに足のサイズやら好きな犬種まで向こうから教えてきたけど、通う高校については分からないことがいっぱいだ。
一応自分も地元民なので、そこそこ頭のいい学校だってのは知ってた。男子校で、知り合いはいなくて内部事情はさっぱり知らないままだったからちょこっとネットで検索掛けたら、結構な進学校だったことが発覚した。
高校が単位制って、何それ。二学期制までは辛うじて理解したけど、そんなの自分の時には無かったよ。
スーパーサイエンスハイスクールって何?アメリカかどっかのドラマの名前?
お好み焼きデートの帰り道、いつも寄っていく駅近くの、人通りのまばらな跨線橋で色々聞きかじりを直接聞いてみても「別にソレ知ったからって俺本人のことじゃないし」って教えてくれない。
「ケチな子ね」
私がわざとそれを云っても、あからさまにムッとなんかしやしない。ただ、それを口にした後「子、いらない」といつもよりちょっと乱暴なキスが来たから、悔しいは悔しいらしい。
「どんな学校とか興味持たなくていいから、俺だけ見てよ」
学ランの襟についてる学年章の色は赤。それをじっと見ていたら「よそ見しないで」ってまたキスされた。
好きな人のことは知りたいと思うのに。ユキのことしか見てないのに。
学ランなんて少年の象徴、だと思ってた。とんでもなかった。
二つ外したボタンから見えるシャツ、とか。
腕まくりをすると出てくる意外にしっかりした腕、とか。
そこそこ完成された体つきで、『ボタン全締め』するキッチリした姿、とか。
これは男だと、逆に意識させられた。――私ばっかり夢中な気がしちゃう。
当り前だけどイブもクリスマス当日も連休明けのバリバリ平日しかも年末休み前なので、私の方は普通に仕事だ。
「ユキは?」
「俺もバイト―。人いないんだってさ」
「クリスマスだからねえ」
「クリスマスだからねえ」
まるでぐりとぐらみたいにおんなじように言葉を交わす。
「じゃあ、その前は?」
私は三連休だけど、ユキはバイトかなやっぱり。
「さびしんぼの兎みたいな彼女さんがいるから、祝日は休みにした」
「誰やねんその彼女さん」
「あなたでショ」
繋がれそうだなーって思って逃げてた指がとうとう捕まって、絡め取られた。外ですよ、外。いつもの跨線橋の上には、まばらにだけど人がいるってのに。
ユキは学ランにダッフルコートで、私は膝までのファー付きダウンにワンピースにタイツとブーツ。この組み合わせは周りからどう見えてるんだろうね。せめて姉弟でないことを祈る。繋いだ手を大きくぶらぶらして、ユキは云う。
「碧サンは大人のくせに子供でさぁ、子供のくせに女でさぁ、女のくせに女の子でさぁ、女の子のくせにジャイアンなの」
「何か最後のだけ納得いかないんだけど何」
「ダイスキってことだよ」
恋人繋ぎの手の甲にむちゅーってキスされた。
「違う! 何か今ごまかした!」
キーッてなってたら、手の甲から目線だけ上げてきた。ドキッとしたら、タレ目が笑ってますますタレた。
「二三日、遊ぼうね」
「――うん」
俯いて返事をしたら、「ほら、さびしんぼ」って笑う。だってね。
やっぱりクリスマスは好きな人に会いたいんだもん。
ちょっとでいいから。フルコースなんていらないし、ホテルのスイートもオーシャンビューも高級なジュエリーもいらない。
幸いユキのバイト先なら知ってる。駅のテナントの中の三階のカフェだ。
仕事からの帰り際、すこしだけ足を延ばして、ガラス張りのお店の外からそっと顔を覗くくらいしてもいいかな。いいよね。
二三日にクリスマス前倒しデートの人たちはたくさんいて、どこに行っても混んでた。
「混んでるから」って指を絡め取られる理由にされれば大人しくするしかなかった。
かわりに眉を顰めて下唇をガブガブ噛んで人前で恋人繋ぎされる恥ずかしさに堪えてたら「顔おもろいから止めて」って笑うし。おもろくしてるのはユキだろうが。
美味しいと評判のポップコーン屋さんに並んだ。長蛇の列もおしゃべりしながらだと楽しく並べた。やっと手に入れたそれを、公園に移動して二人で食べる。
「ウマイ、でも高い、でもウマイ」っていつもはスマートなユキが壊れた機械みたいにそればっかり云うのが笑えた。
クリスマスプレゼントはお互いが欲しいものを買い合った。私はユキにメッセンジャーバッグを、ユキは私に投影機付きオイルランプを。ありがとうってビルの陰でこっそりキスした。
地元に戻って、お好み焼き屋さんでモダン焼きを食べて、また人けの途切れた跨線橋でキスしてから別れた。
こうして、ユキはクリスマスデートで私を一日幸せにしてくれた。
足に羽が生えたみたいな気持ちのまま翌日そこへ行って、そして現実を見た。
バカだな私は。本当にバカだ。何で思い付かなかったんだろう。
ユキのバイト先はカフェで、カフェの店員さんは女の子が多くて、お店のお客さんの七〇パーセントは女性客だ。今日はクリスマスだからこの比率だったけど、普段なら九〇パー越えかもしんない。
バカだなぁ私は。
見なきゃよかったんだ、そうすれば気が付かないでいられた。
ユキだってそれで黙っててくれた部分もあるのに。
バカだなぁ。
ユキの周りには、ユキと同じくらいのぴちぴち(死語)のお嬢さんだらけだった。
ちょっと泣きそうになった。
別に卑下する気はないんだ、自分のこと。二五歳は一七歳から見たらババアかもしれないけどそんな風に思ったことはないし。
ただ、ぴったりだなあと思える年恰好の女の子といるユキを見てたら、卒業した学校を再び訪れた時のあの身の置き所のなさと云うか、場違い感と云うか、そんなものを感じてしまった。
年の差を初めて実感した。
ユキは、ちゃんと未成年の人だった。ちゃんとっておかしいけど。
いくら、同じ漫画で盛り上がって、同じゲームで勝負し合っても、私たちは「お似合いね」って云われないことは分かってた。
高校の話をね、ユキは嫌がるでしょう? 『俺本人のことじゃないし』って。あれ、高校の授業の話とか、お友達との話とかすると私が今みたいな疎外感感じちゃうって、賢いユキには分かっていたんだね。やさしく目隠ししてくれてた。私がしゅんとならないように。
昨日、贈られたばかりのオイルランプに火をともして、投影機が作り出す影絵がゆらゆら壁に映るのを、帰ってから一人で見て思ったこと。――普通のカップルなら。
普通のカップルなら、これ、一緒に見られるんだよね。
うちにおいでよって誘って、いちゃいちゃして、朝まで一緒にいて。
さびしんぼのくせに私は外でのスキンシップは苦手だから、普段あんまりおおっぴらには出来ない。人けのないところでか、人が途切れた瞬間を狙ってするくらいだ。
でもうちなら存分に出来るのに。
それを我慢すると云ったのはユキだ。
『碧サンと、ちゃんと付き合いたいから我慢する』って。
男の子にそう云わせておいて、私の方が我慢出来ないとか云えないよね。
でもほんとは、一緒に過ごせる時間が少ないのがさびしい。
うちに来たらリミッターが飛ぶからって、ユキはここに寄り付きもしない。同じ様な理由で、カラオケにも行かない。
バカだなぁ。
賢いユキに、何かを分けて欲しい位だよ。おもに忍耐力を。
信じる力を。負けない力を。
でもごめん、今ちょっともう気持ちが折れてしまいそうだ。
「碧サン」
帰ろうと思ったら、お店のドアを開けてユキが笑ってる。
コックさんみたいな格好に鮮やかな緑のスカーフを首に巻いて。――女の子はかわいいだろうけど、男の子は似合う似合わないがありそうだなあ。もちろんユキは似合ってる。
今日もやっぱりタレ目かわいい。かわいいっていうと怒るから云わないけど。――同い年の子から云われたら喜ぶのかもね。
もう何を見ても何を考えても、悲しい風にしか考えられない。
「来てくれたんだ、嬉しい。……どうしたのって云ってあげたいけどごめんね? 今、店チョー混んでるからすぐには聞いてあげらんないんだ」
いいよ、もう帰るからって云おうとしたら被せてこられた。
「うちの店でもいいし、よその店でもいいから一〇時一五分まで待ってて。はい、これ服質。これないと俺帰り寒くて泣くから、ちゃんと持っててね」
早口で言い渡してダッフルコートを人質みたいに寄越して、ユキはそのまま来店してきたお客様に笑いかけて案内をしながら店内に戻って行った。
――帰ろうと、思っていたのに。手の中のダッフルを見て途方に暮れる。
その辺に置いてくとか、お店の他の子に預けるとか考え付かなくて、云われたとおりに待った。
宣言通りにユキは一〇時一五分になると、私が暇をつぶしていたファストフードのガラスをコンと叩いて現れた。中に入る気はないらしいので、セーターの上にマフラーぐるぐる巻きの寒そうなユキを早く暖めたくて急いで店を出た。
「おまたせ」
「いいから早く着て! ほら、もう冷えてきてるじゃない」
「しょうがないよ、服を担保にしておかないと逃げられそうだったからこっちも必死よ」
その言葉に、ダッフルコートを着せ掛けていた手が止まった。
「――逃げないよ、何の話?」
ああ、バレバレだなこの態度じゃ。ユキの胸の当たりにあった手が、するすると下に落ちる。ぶらりと垂れ下がる前に、ユキの手に掬われて、そのまま握られた。
「俺から逃げよっかなって思った癖に」
声が、怒ってる。怒らせちゃった。バイトで疲れてるのに。折角昨日は仲良しだったのに。
どうして私は年上なのにうまく出来ないんだろう。
うまいこと見ないふりして恋するのも、さらりとお別れするのも。
「……ごめん、碧サンに怒ってるんじゃないから」
ため息に言葉を乗せるユキ。
繋いだ手をくん、と軽く引かれて歩き出す。いつもの私たちの跨線橋に行く。
「俺はね、俺が大人じゃないのが悔しいよ。例えば俺が碧サンより年上で、ちゃんと働いてて、いろいろ経験してて、碧サンが泣いても笑っても何でも受け止められるような男だったらいいのにって思うと悔しい。あなたがスーツの人の中にいると、そっちの方が馴染んでいることが悔しい」
――同じようなきもちを、ユキも感じていたの?
いつも余裕に見えるこの男の子が、いつも私のことをうまいこと怒らせたり笑わせたりする人が。
「でもね」ユキは一転、楽しげにタレ目を細める。
「俺、今の俺と今の碧サンだから楽しいことだっていっぱいあるよ。碧サンは多分、自分より大人の男とぷよぷよ勝負はしないし、どーしても食べたいポップコーンがあるから並ぼうとかワガママは云えない」
う。私の過去の恋愛どっかで見てたのか、ユキ。
素直になれなくて、カッコつけてて、相手の希望だけ聞きたくて、結局いつもうまく行かずに終わってた。
楽しくのびのびと素直に恋が出来てるのは、相手がきっとユキだから、なんだろうな。
「ねえ碧サン、俺たちの間には八つ年の差がある、それは埋められない」
「――うん」
「でもさあ、無理に埋めなくてもいんじゃん? しょうがないじゃん、碧さんがジャイアンみたいなのは変えようがないし俺が高校生なのも変えようがないし」
「ちょっと待ったァ! ジャイアン発言の撤回を要求する!」
「撤回はしないけどね」
「しないのかい!」
「――こんな風にね、」とユキは握っていた手を自分の胸に引き寄せ、さらにその大きな拳に私のおでこをくっつけさせる。いつも、ギュッてする時みたいに。
「学ランに化粧付けないようにってくっつくとか、今だけなんだよ? レアじゃない? だからさ、一緒に楽しんでくださいよ、期間限定の一七歳の俺を」
「――うん」
うん、そうしよう。ユキの発言に賛成する。
一緒に朝を迎えられなくてさびしいし、直に触れられなくてもどかしいし、キーッてなりそうだけど、いいよ、楽しむよ。
「俺はね、あなたといると楽しいんだよ。ドキドキするし、がーっと走って海辺で恥ずかしいこと叫んじゃうんじゃないかと思うくらい」
「恥ずかしいことって?」と聞いてみると、そっぽを向いて「……碧―! お前が好きだ―! ……とか」と声をだいぶ絞って叫ぶ真似をした。
そりゃ恥ずかしいわ。
でも、嬉しいわ。
「私も一緒に走ろうかな」
「や、碧サンはやめとき? 筋肉痛がぁとか足つったぁとか絶対ウルサイから。最初っから自転車のほうがいいって」
くっそぉ、読まれてる。ふんだ、と鼻を鳴らしてやる。
「じゃあ自転車乗ってくとして、海に沈む夕日に向かって叫ぼうっと」
「なんて?『課長のアホー! 社長の前でお帽子取れちまえー!』とか?」
そんなことを確かにユキの前で吐いたこともあるけどそんなん誰が云うかバカ。
私はユキの腕の中から離れ、すうっと息を吸って、かつて演劇部で鍛えた腹筋を使って跨線橋の上で線路の方を向いて叫んだ。
「ユキが好き―――――! 大好き―――――――!」
丁度その時橋の下には電車が何台も行き来してたし、この橋を渡る人はあんまりいないから存分に叫んでやった。
渡っていた何人かを何だ!? ってびっくりさせちゃったけど。すいません。
「……ってね」
にっこりと笑って振り向いたら、撃沈したユキが「まいりました」とへたり込んでいた。私が勝つことってほとんどないので、勝利の味を存分に噛み締めた。
「楽しむけどさぁ、ユキ早く一八になってよねー」
あと半年だっけ。長いような短いような。
「電波時計の秒針睨んでカウントダウンして、なった瞬間碧サンちのドア叩くっつうの」
フテたような物言いに、思わず噴き出した。
携帯の時計を見る。5、4、3、2、1、――ぜろ。
コンコンコンコンコン!
キツツキかってくらいにアップテンポなノックだった。勢いに任せてどんどんやらない当たりはさすがに頭のいい男だ。
そう云うとこが好きよ、と思いながらドアを開け、初めてユキを招き入れた。
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「クリスマスファイター!」内17話に碧さんちょこっと登場しています。
13/12/13 誤字・脱字等一部修正しました。
13/12/21 脱字等一部修正しました。