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歩み

連載小説「神様の小遣い稼ぎ」の第二回目の投稿です。

相変わらず稚拙な文章ではありますが、なんとか続きを書きあげました。


至らない点は、指摘していただけるとありがたいです。

 夢か幻かわからぬような出会い。

 自分自身でも、本当にあったのか疑ってしまう出来事なのだが、何故あの時金を渋ったのかという思いに駆られた。あの時全てを渡していたら、治せていたのかもしれない。

 こんな事を誰かに話したら、正気か疑われてしまうだろう。

 しかし、後悔している自分がいるのだ。

 心の奥底では、現実に起こった出来事だと確信しているからこそ、沸々と湧いてくる感情なのではないかと考えた。

 そう思うと、いてもたってもいられなかった。そして、(わら)にもすがる思いで、レース場に向かった。

 

 「神」と名乗る男と出会った場所に、当然あの男はいない。それでもひょっこり現れるのではないか、そんな淡い期待が胸にあった。

 一週間、レース場と病院を往復する日々だった。

 普通の精神状態では無い。と言われればそうかもしれない。

「神」なる存在を信じ、再び会う事を願っている。まるで、人がどうしようもない状況に追い込まれた時、目に見えぬ「神」にすがるように。

 

 結局、あの男と会う事は無かった。そして、依然として母が目を覚ます様子は無かった。

 桜の無いものねだりは終わりを告げた。

 確証のないものを求めるより、現実を見据える事が最善だ。と考えを改めた。

 

 寝たきりの人間は、まず最初の一週間で筋肉の二割が衰え、そして脳が委縮を始めるらしい。

 それらを少しでも遅らせるのが、リハビリである。

 リハビリには、専属の医者がいるものの、寝たきりの患者は母一人だけではない。

 その為、手が回らない部分もある。それを補うのは家族の力しかないと言われた。

 

 幸いな事に、母の姉に当たる人物。叔母の祥子さんに協力してもらえる事になった。

 病室で会った時は、何も口にできない様子であった。

 それでも、現実を正面から受け止めると、大切な家族なのだからと、頼むでもなく、自ら力になりたいと申し出を受けた。ありがたい事だった。

 話し合った結果、二人体制で母の面倒を見る事になった。今現在、桜は時間が有り余っている。

 しかしこれからを考えるとそうもいかない。だからこそ、渡りに船、という状況であった。

 携帯のメールアドレスを交換し、仕事が決まった際には、よろしくお願いしますという旨を伝えた。

 

 それから桜は、リハビリのやり方を教わり、日々その通り実践した。体を動かし、声を掛け刺激を与える。それがどこまで効果があり、いつまで続くのか、言い知れない不安に襲われる事もあった。

 だが、ある一つの考えに辿り着いた。母が眠りに着くと同時に、桜が夢から覚まされた事は必然であったのだと。いわば、母が身を呈して、息子を深い眠りから覚ましたのではないか。時間が経つにつれて、強くそう思うようになっていた。

 次は、桜が母の目を覚ますのだ。そう堅く誓った。



 母が眠り続けて一カ月近く経った。行動を起こすには遅いと言われても仕方が無いが、それだけの時間が桜には必要だった。

 自堕落な生活を続けた割に、意外と貯蓄がある。

 まずは、目にかかるほど伸びた髪を短く切った。そしてその足でスーツを購入し、ついでに履歴書も購入した。  真っ当に仕事をしたからと言って、何かが変わるわけではない。

 しかし、今の桜には、自身のやるべき事はそれしかないと思った。

 当然、二年間も遊び呆けた人間が、簡単に職を手に入れることなどできやしない。

 若さだけが取り柄で、それ以外に誇るものが無い。

 忸怩(じくじ)たる思いはあるが、だからと言って二の足を踏んでいるわけにもいかない。

 

 インターネット求人サイト、求人雑誌、職業安定所と、様々な所に手をだした。

 やはり簡単に行くものではなく、自分の能力や経歴に対して待遇を高望しているのかもしれない。

 母の為もあり、働きづめにならないよう、安定した休みを求めているのがいけないのか。

 ましてや、空白の二年間、適当に取り繕った志望動機、何一つとして勝てる要素が無いこの戦い。だからと言って諦めるわけにもいかないのが現状だ。

 

 面接をするものは口を揃えて言う。

「二年間何をしてきたの」「うちには向いてないね」「よく応募してきたね」「まあ、次頑張ってよ」

 わざわざ書類選考という形を取っているのに、なぜその時点で落とさないのだろうか。

 自分の無能さよりも、非効率的な面接官を怨みたくなった。

 しかし、根本的には自分が悪く、今までのツケが回ってきただけだと言い聞かせた。

 それでも、一カ月二カ月と失敗を繰り返して行くうちに、挫けそうにもなった。

 そんな時は病室に向かい、母の顔を眺め、自分を(ふる)い立たせる。それだけが桜の活力になっていた。

 


 風鈴の音が心地よい季節が訪れた。あれから二カ月、時の流れとは早いものだと、物思いに(ふけ)りながら帰路についた。

 桜はしっかりと、職に就くことができたのだ。そして今はその仕事帰りだ。

 あの日の事をぼんやりと思いだす。六月十四日、母が倒れて丁度三カ月目の出来事で、就職活動に嫌気がさしていた、そんな折りに、小さな会社で面接を受ける事になった。

 駄目で元々、その頃になると受ける前から諦めてるいる節があった。

 面接が始まると、優しそうな面持ちの、社長を名乗る男が待ち構えていた。雰囲気そのままに、緊張をやわらげてくれているのか、軽い雑談から入った。

 

 それから少しのやり取りを経て、いつもの質問が飛びこんできた。空白の二年間についてだ。

「恥ずかしながら、何をしていいのかわからないまま、ずるずると来ました」

 と正直に答えた。そこにはいつもと違う反応が返ってきた。

「私にもそんな時期がありましたよ。若者は迷う事も大切ですからね」

 その言葉を聞いた時、ただの労働者ではなく、人として相手をしてもらっていると感じた。この人の下でなら働いても良いかもしれないとも思った。

 当たり前の事なのに、そう思ってしまう事自体が毒されているのかも知れないとも考えた。


 余計なこと考えている内に、次の質問が来た。

「家族構成はどうなっていますか?」

「母と二人です」

「二人ですか、ならより一層、お母さんを大切にしてあげなければいけませんね」

 以前の桜なら、面接の場という事もあり、大きなお世話だと眉をひそめていたかもしれない。しかし今はその通りだと思っている。

「はい、そう思ってます」

 偽ることのない自分の言葉で言えた。

「まあ、でもお母さんもまだまだお元気でしょうから、心配いりませんね」

 屈託の無い笑顔で放たれたその言葉は、桜に大きく響いた。

 その為、咄嗟(とっさ)に返事をすることは難しく、思わず視線が泳いでしまった。それを察してか、母について尋ねられた。

 

 短い時間ながら、一切嫌味の無い人物だと感じた。この人になら、事実を告げても良い気がした。そして、ありのままを伝えた。

 決して困らせるつもりではなかったが、痛ましい顔をした男が口を開いた。

「気分を悪くされたでしょう……。迂闊(うかつ)でした、申し訳ない」

「いえ、いいんです。むしろ気を使わせてすいません」

 しばしの間、沈黙が続いた。しかし、それからはスムーズに事が運んだ。

「では、これで面接を終わります。今日はお越しいただきありがとうございました。約一週間後に選考結果を連絡させていただきます」

「こちらこそありがとうございました。失礼します」


 頭を下げ、(きびす)を返そうとした瞬間優しい声が聞こえた。

「お母さん、早く良くなるといいですね」

 思わぬ言葉にハッとした。それでもなんとか返事をすることができた。

「はい、ありがとうございます」

 少しだけ気持ちが軽くなった気がした。

 面接が終わり次第、帰ろうと思っていたが、母に会いたくなった。

 

 

 桜は、母の眠る病室に座っている。母の寝顔を見ると、決して白雪姫では無いなと思った。なぜなら、毒を吐く人間なのだから、毒が効くわけ無い。

 そんなくだらない事を考えながら、先ほどあった面接の話をした。

「人のよさそうなおっちゃんがさ、良くなるといいねだってさ」

「まあ、見込み薄かもしれないけど、そこで雇ってもらえるといいかな」

 意識が無くともしっかり聞こえているケースもあるらしい。もしかしたら、この会話もちゃんと聞こえているのかもしれない。

 そこで、弱音なんて吐いた日には、起きた時になんて言われるかわかったものではない。だから、ここではいつも以上に強気な姿勢で臨む。ただ、そんな事は簡単に見抜かれているかも知れない、そう考えると苦笑いしかできない。

 

 それから三日後に採用の連絡が届いた。自分でも何故採用されたのかわからないが、人の良さそうな社長が、桜の境遇に同情しただけかもしれない。

 その連絡を貰ってすぐ、母のいる病室へと向かった。

「こないだ受けたとこ、さっき連絡きてさ、雇ってくれるって」

 自分でも感じる。ここ最近では、いつになく浮き立つ気分でいる。鏡を見れば確認できるだろう、自らの顔が(ほころ)んでいるのを。

「俺も頑張って職を決めたんだから、母さんも頼むよ」

 

 


 あれから数カ月、年の瀬が近付いていた。

 いつも通り仕事を終えて帰路に着くところだが、心無しか街を行く人々は心躍(こころおど)らせているように感じた。

 辺りを見まわすと、合点がいった。路上でサンタクロースの格好をした人達が、ケーキを販売している。

 そして、ぽつぽつとイルミネーションが灯っている。例年通りなら気にすることも無く、我関せずと立ち去るのだが、なんだか、妙に心が揺さぶられた。

 

 そう、今日はクリスマスなのだ。今まで桜の行動パターンは、仕事に行くか、病院に行くか程度しかなかったため、イベントとは程遠い位置にいた。そう考えると、少し寂しい気持ちになった。

 けれど、たまには楽しんでもいいのかも知れない。まだ十九時を回ったところで時間にも余裕がある。母にケーキの一つぐらい買って行っても(ばち)はあたるまい。

 母と一緒にクリスマスを祝ったのはいつが最後だったかな、と思考を巡らせながら歩いた。

 街中には、ちらほらとサンタの格好をした人がいる。その中から一人を選ぶ事になる。ある意味では、購入することがサンタへのプレゼントになるのではないか、そう思うとサンタの世界も世知辛いなと、苦笑した。

 

 そういえば、久しくケーキを食べた記憶が無い。特にこだわりがあるわけでない為、適当に買って済ませるかと、目にとまったサンタに声をかけた。

「すいません、一番小さいサイズのケーキはいくらですか」 

「いらっしゃいませ」

 その声を聞いたとき、違和感を覚えた。どこにでもありそうな声だが、どこかで聞いたことがある声だ。

 男の顔をまじまじ見ると、あの男であった。思わず目を見開いた。まさかこんなところで再び会う事になろうとは。


「あんたあの時の……」

「やあ、桜君。奇遇だねこんなところで会うなんて。サンタの格好も似合ってるだろ」

 この男は何を悠長なことを言っているのだ。そんな事言っている場合ではない。

「そんな事はどうでもいい、こんなところで何をやってるんだ」

「見てわからないかね、バイトだよ。金が無いからね。まあ趣味と実益を兼ねているわけだ」

 神を名乗るくせに金、金と仕方の無いやつだ。相変わらず威厳も糞もあったものではない。


「そんな金が必要ならいくらでも払う、母を治してくれ」

「母を治すってなんのことだい」

 桜は、あの日から今日までの顛末(てんまつ)を簡潔に話した。

「だから、今説明した通り金を払うから母を治す力をくれ」

「なんで私がそんな事をしなければならないのかね? 第一あの時君は納得してお金を払ったわけだ。君はお金を、私は力を、それで契約は成立しているわけだ」


 おわかりいただけたか、とでも言いたげな顔をしている。

「だから、あの時の不足分を払うと言っているだろ」

 桜は語気を荒げた。


「そんな都合のいいことは作り話の中ぐらいでしか起こり得ないよ。時価相場を知っているかい?」

 男は自らの格好に一度目をやってから、桜を見た。

「私は見ての通りお金が無い」

 にやけ顔の男は両手を広げ大げさなジェスチャーをした。


「いくら必要なんだ」

「そうだねえ、ざっと二百万ぐらいかな」

「そんな金あるわけないだろ、ふざけるな」

 人の足元を見やがって、このろくでなしめ……。

「じゃあ、仕方無いが、商品は売れないね。まあ最初から契約の変更はできないんだけど、最初からそれを言っちゃうと味気ないだろ? それに、人間一人に対して一回までしか契約は結べないの」

 人の神経を逆なでするのが上手い。非常に腹立たしい。


「神なんて名乗ってるくせに融通の利かない奴だ。どうせまた、妻を怒らせたなんてのたうちまわるんだろ? ろくでなしが」

「お、正解。なんも景品はでないけどね」

 男は指で丸を作り。笑顔の横に持って行った。

 

 このふざけた人物を目の前にすると、どうも調子を狂わされる。

「桜君、君は根本的に勘違いしているようだね。神だから全知全能というわけではないし、無条件に幸せをまき散らす存在でも無い。君の周りには幸せな人間しかいないのかい? そんなおとぎ話聞いたことないだろう。それに人間共の願いを叶えてやる義理も義務ない。何もしないでも、願いが叶った人間が神を信じ、叶わなかった人間が神の存在を否定する。そんなものだよ」

 付け足したように言う。

「それに、神への供え物なのに、賽銭なんかも人間が着服するからな。神は良い所無しだ」

 男はおどけた顔で、舌を出した。


「神なんてろくなもんじゃない、それが今わかったよ」

「妻にもよく言われる」

 と言いながら白い歯を見せた。

 

 ケーキなんて買おうと思ったのが失敗だったのかも知れない。

 目の前に現れた希望の光は、イルミネーションの灯りにも劣る、最低な光源から伸びていたものだった。

「それで、ケーキはいらないの?」

「やかましい」

 思わず怒鳴ってしまった。言ってることは間違っていないのに腹立たしい。

 こんな存在を神とあがめ、(まつ)っているとは人間は愚かなものだ。

 期待した自分が馬鹿だったと、踵を返そうとした。


「まあ、待ちなさい桜君。ご立腹な様子だが、私を怨むのはお門違(かどちが)いというものだよ。君が選択したものだからね。その時は瑣末(さまつ)な選択であったかもしれないが、それが後々重要な意味を持ってくる。それが人生というものだよ。使い古された言葉を借りれば、人生とは後悔の連続だ、ってところかな」

 続けて言う。

「親切心から最後にもう一つ。私と出会った事は一つの幸運だ。いくらお金を詰んでも得られない力を得る事ができたのだからね。怒るだけじゃなくて、その力の有用さを理解し、感謝しなさい。そして自分の力で、その足で歩んで行きなさい」

 自分の足か……、と桜は考えを巡らせた。


 確かに、他力本願が過ぎたかもしれない。あの男と出会って損をした事などないはずだ。ただ協力を得られなかっただけで、相手に協力する義理も義務も無い。自分の思い通りにいかないからと、相手を悪く思う事は、駄々をこねる子供と同じだ。

 自分の小ささを確認させられ、嫌になる。

「そうだな、感情的になって悪かった」

「そう気にするな、反省できるだけそこらの人間よりましさ」

「それで、ケーキはいくらなんだい」

「三百万」

 桜は、別のサンタを探した。



「メリークリスマス。サンタクロースはいなかったけど、神様には出会えたよ。願いはかなえてもらえなかったけど、ありがたいお言葉は頂けたかも」

 眠ったままの母に声を掛けた。まるで返事が返ってくる様子は無い。それでも構わず続ける。

「こんな事言うと、また馬鹿にされちゃうかもしれないけど、本当の事なんだよなあ。凄い能力を金で売る、ろくでなしの神様だけどね。まあ、ろくでなしに腹を立てる俺もろくでなしだけどさ」

 と苦笑いした。


「話は変わるけどさ、あと少しで仕事収めだよ」

 桜は、リサイクルショップ兼便利屋で働いている。社員は数人と規模は小さいものの、地域密着型な姿勢と、社長の人柄によってリピーターも増えている。そのおかげか、年末も仕事で忙しい。

 しかし、あくまでリサイクル業がメインになるので、便利屋業は片手間に過ぎない。

「便利屋なんて聞くとなんでもできそうだけど、大したことできないんだよね」


 更に、心の中で呟く。

 母の一人も目覚めさせる事ができないんだ。


「まあ、でも埃をかぶってた免許証も日の目を見ることができたみたいで、少しはできる事も増えてきたよ」

 桜は少し誇らしそうに言った。

「それと、相変わらず社長は良い人で、母さんの見舞いをさせてくれってしつこいんだよ。その度に悪いからって断るのが大変でさ」

 それからひとしきり喋り終えると、別れの挨拶をし、家路に着いた。 

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