スケープゴート 8
正樹はどこから耳にしたのかはわからないけれど、すでにそのことを知っていた。
「石田が犯人でしょ。その確率高いよ」
僕はそれに何も答えなかった。石田が普通じゃないことは僕にもわかる。けれど、それとこれとは別だ。石田はこれまでに何かしたっていうわけじゃない。ただ疑惑が勝手に膨らみ続けているだけだと僕は思う。だが生徒達の見解も僕の見解も、いずれにしろ暫定的なものだ。でもじゃああのニヤリはどうなる。僕はあのとき確かに石田と理解し合ったのだ。そしてそのとき理解した石田という人間は、誰かをさらったりレイプしたりするような人間じゃなかった。
やはり僕には石田を信じるしかない。石田は悪役に仕立て上げられているだけだ。不可解な人間だから、集団に馴染めない人間だから、みんなが決定的な理由を欲しがっているだけなのだ。こういう人間なんだ、という納得する理由を欲しがっている。石田が人と交われないわけを、性格的欠落で埋めようとしている。もっとも傲慢で、独善的な手段で。つまり、いっさいがっさい罪を押しつけることで。
こんなうさん臭い話はなかった。あまりにいかさまじみてる。
10代ほど残酷で、暴力的な時代はない。人はしばしば、自らのエゴのために、自分の理解の及ばないものをこれと決定づけるに明確な理由を欲する。生徒にとっての石田の理由は、この事件で十分だった。集団はいつだって暴力的だ、と僕は思う。そこに倫理や道徳といったものはない。秩序は彼らの中にあり、ルールを定めているのもまた生徒側なのだ。本人達は気づいているが、気づかないふりを続けている。誰だって的が自分じゃなかったら平気だ。それは僕だって同じはずだった。
しかし僕は知ってしまったのだ。石田の人間性もリアリテイーも。
次の日、石田は学校を休んだ。そして次の日も、また次の日も。
そのことで、石田犯人説がより本格化することになってしまった。いや、彼らが本格味をつけることに成功したのだ。何しろまだ当の高見美穂は学校に姿を現していない。どうしてなんだよ石田、と僕は思った。こうなることぐらい誰にだってわかったはずだ。
石田の言ったとおりだった。あのわけのわからない言葉は予言だったのだ、と僕は思った。石田はこうなることを全てわかっていたのだ。ならどうして、とも僕は思った。解決する方法はいくらでもあったはずなのだ。
このことで意気込んだ女子や、それに促された血の気の多い男子は、石田の家に乗り込むとまで豪語していた。暴力とは正義をまとった瞬間、完全な悪へと姿を変える。彼らの結束をより現実に形づけるため、石田はその生け贄になろうとしている。
そして石田は、ついに完全なる学校のスケープゴートと化した。
だが同時に、僕は石田が罪を押し付けられたことに、後ろめたさを感じていた。その罪悪感の源はあのとき、石田が女子生徒達に責め上げられているそのときに僕が行動を起こさなかったことだった。あのとき僕が何か一言でも口を挟んでいれば、少しは事態が変わったかもしれなかった。そのことは少なからず、僕を「石田スケープゴート計画」に加担させたように思えて仕方なかった。
行くしかない、と僕は思った。とりあえず行くしかないのだ。何より先に、石田の家に。




