皐月晴れ、燈也は迷う…4
まるで優雅な午後の日差しのような微笑みを浮かべているこの少女。名前は更待皐月。
中学一年の入学当初に隣の席になって以来、五年連続で俺と同じクラスになり続けるという、なんとも奇遇としか言いようもない偶然の塊みたいなやつだ。
「しかしな、皐月。俺が隠れてツールを使ってるのを見つける度に鞄チョップってのはどうよ」
いや、週に二、三度くらいの頻度でされてるからもう慣れたが。
「いやいやつっきー。校則を破ってるのを見て、風紀委員の副委員長であるあたしが黙ってるわけないじゃない」
そういえばそうだな。
しかし、軍事演習とか言ってドンパチやってるよりはツール開いてる方が平和だと思うんだが。
「まあね。否定はしないけどさ、風紀委員って結構大変なんだよー。こんなご時世だし、廃都から銃拾って違法に持ってる人とか多いんだから」
まあそうだろうな。せいぜい頑張ってくれよ。
「あー、つっきーいけないんだー。女の子が頑張ってるのに「手伝ってやろうか?」の一言くらい言えないのー?」
言えるか。というか休ませろ。
俺は今かなりの面倒事を抱えてるんだよ。
「むー。ねえ、つっきーが無愛想だよー」
そう言いながら、皐月はいましがた教室に入ってきた男子の方を向いた。
ちなみにこいつの言う『つっきー』とは、俺のことである。
若槻燈也だからつっきー。安易なニックネームである。
「よお、燈也。昨日は休んでたみたいだけれど、大丈夫だったのか?」
「ああ。ちょっと面倒事がな……」
席に鞄を置いて話しかけてくるこいつは、赤宮洸。同級生である。
「こうー、聞いてよ、つっきーがまた面倒事に起こしたんだってー」
おい、起こしたのは俺じゃないぞ。間違った表現じゃないけどな。
「おいおいまたかよ燈也。お前のその世話癖もいい加減にしとかないと、アパートを追い出されるぞ」
「本当だ。全くだ。気をつけたいんだけどな、生憎こればかりは変えられそうにないんだ」
「まあ、だろうと思ったけどよ。んで今度は何を匿ってんだ? ネコか?」
「いや、それがな……」
「あー、それあたしも気になる」
……いや待て。安易に十六夜のことを他人に話していいのか?
いくら友人とは言え、俺が“軍”の規則を破ってることは確かだからな。
しかも、風紀副委員長の前だぞ。死ぬわ。社会的に。
「……いや、とくに言うことでもないよ」
「ええー!? 教えてよ、つっきー」
「そこまで言っといてお預けはきついぜ、燈也」
しかしな、俺にもプライベートなことがあってだな。
「んー、まあ、つっきーがそこまで言うなら仕方ないや。ね、こう」
「そうだな、まあ仕方ねえか」
何だその遠慮してやりますよみたいな態度は。
まあとにかく、しばらく他人に十六夜のことは話さない方がいいな……。