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セカンド・ブラック  作者: 陽炎煙羅
一章 
7/14

皐月晴れ、燈也は迷う…2

 五月の薫る朝の風。

 降り注ぐ陽の光。

 小鳥はさえずり、今日も()快痛快(大事な事だから二回)な軍事演習的学園生活が始まる!


 ……はずだったんだが。


「はあ……、君は本当にお節介な上に不運だな、若槻燈也」

「はい……、返す言葉もございませんです、大家さん」

 瓦礫の撤去された室内にいるのは三人。


 テーブルが無いのでソファーに突っ伏す俺。

 床であぐらをかいて腕組みをする大家さん。

 そして、

「鳥……飛んでる」

「そうだな。よかったな」

 ベランダで空を眺める黒髪の少女、十六夜である。



「うーむ、どうしたものか……」

 大家さんが難しい顔をして俯く。


 玄関前にいた大家さんに、悔しくも俺は昨夜のことをあっけなく話し……否、懺悔してしまった。

「いや、ね。若槻燈也。私も君のお節介な性格については散々迷惑を被ってきたものだが、しかし、今回はそれの極みだな」

「そうですね」

 俺は突っ伏したまま答える。


「猫、犬、ハムスターに兎。君はペット禁止のこのアパートに数々の動物を拾って持ちこんできた張本人であることは、私が一番知っているのだが……」

 大家さんはそこで十六夜の方を向く。

「禁止してないからって、女の子を拾うとは、世も末だな」

「拾ってないです、降ってきたんです。屋根から」

「そうか……。それこそ世も末だな」

 だめだ、信じてもらえていない……。

 よく考えたらそうだよな。普通、女の子は空から降ってこない。

 そういえば相当昔にあったな、そういうアニメ。空に浮かぶ城がどうとか……。


「とにかく、だよ。若槻。君はいつも通りのことをしている気の様だが、これは由々しき事態だ」

 そう言いながら、朝っぱらからラフな格好の大家さんが顔を上げた。


 大家さん。年齢19歳(自称)、女の人。背が高い。美人。

 元々このアパートの大家はこの人の親だったらしいが、その親が入院しているため、自分が大家をしているらしい。

 ちなみにこの人、名前も不詳である。部屋の表札にも『大家』としか書かれていない。


「確かに、120年前の竜の事件、今では1.11強襲事件だったか……の後では、親戚を失った多くの人が保護された。竜がそれきりめっきり姿を現さなくなったから、落ち着いて親類探しや引き取り手探しも出来たものだ。あのころは歴史で一番全人類が正義に燃えていたらしいしね」

 そこで大家さんは突っ伏している俺を引き上げる。

「だが、それでも救済されない人々はいたのだよ。よって、何とか生き延びてきた彼らの子供たちも、勿論孤児のままだ。……まあ、家族があるだけまだましか。でも、この子はどうやらその家さえも無いらしいじゃないか」

「そうですね。そう聞きました」

 ちなみに俺はこの人に頭が上がらない。なにせ、色々と肩代わりしてもらったりと、迷惑をかけっぱなしだからだ。

「……若槻燈也。君ももうすぐ大人と呼べる年齢だ。ちゃんと、考えているんだろうな」

「……何をですか?」

 そう言うと、大家さんはやれやれ、と首を振る。


「忘れたとは言わせないぞ。住民がペット禁止だというだけの理由で、私の部屋に君の拾ってきた小動物達がどれだけいるのか。勿論君は育てるのを手伝ってくれているし、それは認めてあげてもいいだろう。だがな、今回はどうだ? 人間だぞ。人一人育てるのにどれだけ金がかかるか君は知っているのか?」

 聞いたことはある。法外なまでの値段だった。

「つまり、今回に関しては私も手伝うことは出来ない。孤児を保護したら“軍”に保護するのが国民の義務だからな。その子が“軍”を拒んでいるのなら、助けてあげたいのは山々だが、私には手が出せないよ」

「そうですか……」

 俺はベランダから部屋に戻ってきた十六夜を見る。

 綺麗な子だ。戦争や、死などの穢れを一切感じさせない澄んだ瞳。


 ……仕方ないな。


「大家さん」

「何だい? 若槻」

 大家さんがこちらを横目で見る。選択をしろという意味だろう。

「……俺、この子が記憶を思い出すまで、面倒見ることにします」

「なんだと?」

 大家さんが片眉を上げる。怖え。

「確かに“軍”に引き渡……いえ、保護してもらうなら簡単です。でも、俺には十六夜が嫌がっていることを無理やりするようなことは出来ない。何より……」

 十六夜がきょとんとした表情でこちらを見ている。

「十六夜が言ったんですよ。私はここにいるって」

「……そうか」

 それを聞いて、大家さんは頭をかく。

「……まあ仕方ない。居候ということで、家賃は見逃してあげよう。君が邪なことを考える男でないことは私もよく知っているからな。それ以外は若槻自身がやりくりしなさい」

「ありがとうございます」

 家賃免除は大きいぞ。改めてこの人の器の大きさに感謝をせねば。


「……今日言いたいのはそれだけだ。じゃあ、また何かあったら言ってくれ。出来る範囲で力を貸すよ。お互い、色々と借りもあることだしね」

 そう言うと、大家さんは立ち上がり、玄関から出て行った。


「ふう……」

「……今のひと、誰?」

「大家さんだよ、大家さん」

「おおやさん……」

 本当に分かっているのか? こいつは。


「うん。覚えた」

「そうか」

 しかし、仕送りを増やして貰わないとな。親にどう説明しようか……。


 まあ今日は確実に遅刻だ。

 遅れて行って先生にボコボコにされるのは嫌だ。今日は休もう。

 その間、十六夜についてもう少し本人に訊いておかないとな……。

ちなみに通貨は変わっていない設定です。色々と面倒なので。

しかし、良く考えたらまだ導入の域を出ていないような気がする……。

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