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セカンド・ブラック  作者: 陽炎煙羅
一章 
6/14

皐月晴れ、燈也は迷う…1

序章は終りです。

 竜。ドラゴン。

 呼び名はなんだろうと構わない。爬虫類の様な身体に、蝙蝠のような翼。鋭い鉤爪に牙。

 神話では破壊と悪の象徴で、その役回りは当然悪者。最終的には英雄に退治される憎まれ役だ。


 まさかその竜が現実に存在するとは、誰が予想したであろうか。


 竜が襲撃してきた当時は人類にとっても波乱の世だった。

 竜などという伝説上の生き物など実在するはずがないと主張する人々は、それらがどこかの国の生物兵器か何かだと訴えた。

 まあ、当然だと思う。誰だって、非現実的なものを見てしまうと決まって何かしらの理由をつけて逃げたがるものなのだ。


 しかし、竜が地球上の人類を無差別に襲っていることを確認した人々は、戦争も休戦も忘れて、結束した。これが良い事なのか、悪い事だったのかは、今や誰にも判断できない。

 俺? 俺は、おそらく両方なのだと思う。


 まあなんにせよ、俺はその生き残りの人々の子孫なわけで。

 何かしらの形で竜と関わることになるとは思っていたし、覚悟もしていたのだが。

 まさか、こんなことになろうとはな……。


―――――――――――――――――――――。

 翌日。


 俺はとくに夢を見るでもなく、いつもどおりに目を覚ました。

 視界に入るのは、天高い青空。


「あー、そうだった」

 結局寝てしまったが、昨日は散々だったのだ。

 まず、雨天になる前に屋根の修理を業者に頼まなくては。

 それから、大家さんとアパートの人に事情を説明して、ええと……。


 そうソファーの上で思案していると、寝室へのドアが遠慮がちにがちゃりと開いた。

「……太陽が昇った」

 そう言いながら、黒髪の少女が顔を出す。

「そうだな、朝だ」

 見れば、少女は俺のTシャツとジーンズを着ていた。ぶかぶかだぞ。


「借りたの。……迷惑?」

「いや、別に。ところでさ、君の家って、どのあたりなんだ?」

 とりあえず早くこの子にも御暇おいとま願わないとな。

 そもそも俺は一人分の家賃しか払っていないわけだし。


「……家?」

 おいおい、まさか家まで通じないなんてことはないだろうな。

「住むところだよ」

 そう補足すると、少女はしばらく考えるような表情をし、

「……わからない」

 と言った。


 家が……わからない……?

 まさかとは思うが……屋根を突き破って落ちてきて、記憶喪失とか、そんな展開じゃないよな。

「家……知らない。わたしには、家は無いから」

 その言葉に俺は口ごもる。

 家が無い。

 つまり、竜の襲撃で親類を失った……孤児ということか。


 そうだった。やはり、表向きに昔と変わらない生活をしているだけに、忘れがちになってしまう。

 今の世は、そういうことが普通なのだ。

 いまや人類の数は半分しか存在していないのだ。つまり、その半数はそういった問題を抱えているのだ。


 うん。仕方ない。ここは話を変えよう。

「十六夜……ちゃん」

「違う。わたしは、いざよい」

「ああ、じゃあ、十六夜。何で屋根を突き破って落ちてきたりしたんだ?」

 いや、別にしょっちゅうあるわけじゃないよ。ファンタジーじゃないんだからな。

 こんなこと、おそらく俺が初だぞ。


「……覚えてない」

 やっぱりそうきましたか。

 俺は頭を抱える。


 不味いぞ。事態は俺が思っている以上に深刻だ。

 今俺はなんか一部記憶を欠如させている少女を囲っている形になる。

 よし、軽く犯罪だ。


 まあ、なんとかなるさ。うん。

 とりあえず、週も明けたし、学校へ行かねば。

「えーと、十六夜。俺は学校に行くから、まあ、出て行きたかったら自由にしていいけど」

「行かない。ここにいる」

 ……そうですか。


「じゃあ、行ってきます」

 そう言うと、俺は制服をはおり、鞄を持って玄関の戸を開ける。

「……あ」

 するとそこには、

「やあ、若槻燈也。早朝お急ぎの所すまないが、昨夜の件について一切合財の説明を要求させてもらうよ」

 と言いながら、修理請求書を俺の目の前に叩きつける、自称19歳の超絶美人が……否、俺の住んでいるアパートの大家さんが、苦笑いで立っていた。

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