十六夜の空、始まりの風…4
今日は十六夜です。
十五夜に食べられなかっただんごを食べてます。
「お、俺の部屋がああああああああ!?」
よし、簡単に説明しよう。
1、何かが降ってきた。
2、屋根を突き破って俺の部屋に落ちた。
以上。
「じゃねえよ!」
一体何が起こったんだ。
上空での戦闘、その後の爆発だ、おそらく戦闘機の破片か何かなのだろうが……。
いやいや、問題はそこじゃない。
俺の脳味噌が急速回転を始める。これから起こる事象を予想する。
まず、屋根の修理代。大家さんへの謝罪。
アパートの近隣の方々への謝罪。
「……まずい」
理不尽だ。不条理にも程がある。
ちょっと昔なら、こういうことに関しては軍からの謝罪及び支援金が貰えたのだが、今ではそういうことは個々人がやりくりしなければならない。
形だけは昔……120年前の生活と大半は変わらないが、その裏側は全く違う。
「テーブルは買い直しだな……」
まあ、人外相手に戦争をしているご時世だ。こういうこともままある。
……ある。あるんだ。あると信じろ、俺!
「仕方ない。まず軍に報告して……それから、えーと……」
ようやく諦めて砂煙が晴れかけた室内を見回す。
部屋の中心に瓦礫。キッチンは無事か。
……ん? なんだ?
今瓦礫がちょっと動いたような……。
「……嫌な予感がする」
さっきははるか上空にあってよく見えなかったが、明らかに二つの影は時折光ったりしながら戦闘していた。
まあ、光っていたのは機関銃とかのマズルフラッシュなのだろうけれど。
確かに片方が爆ぜるのは見えた。だから落ちてきたのは破片だろうと思ったのだが。
もしやグロッキーなことになった操縦士じゃないだろうな、おい。
冗談ではすまないぞ。俺はあまり軍とは関わりたくないのだ。
仕方なく瓦礫を押しのける作業に入る。
まず一つ。これは屋根の破片か。
二つ目。哀れ、真っ二つになったテーブルを押しのけた下には……。
黒髪があった。
「……?」
何で髪の毛なんかが瓦礫の下にあるんだよ。
だが、もうひとつの瓦礫を押しのけたところで、俺の思考は硬直した。
「……嘘、だろ……?」
女の子、だった。
さらさらした黒髪がおそらくストレートヘアーなのだろう、周りに伸びている。俺がさっき見たのはこれか。
服は……着ている。セーフだ。なんだかぼろぼろだが。
見た目中学生くらいか。
いやいや、何を冷静に説明しているんだ、俺。
何で生きた人間が屋根を突き破って降ってきたのか、だろうが。
「……わからん」
さっぱりだ。
しばらく考え込む。この予想だにしない事態に頭がついて行かない。
「……ん……」
「おうわっ」
ぴくっと黒髪の少女が身震いをした。
生きている。屋根突き破ってんのに生きてるぞこいつ。
「あ……れ……」
と思ったら起き上がった。
寝ぼけ眼で辺りを見回す少女の目が、俺をとらえる。
「あ、えーと……」
「だれ……?」
こっちの台詞だ。
と言いたいところだが、相手の正体が分からない以上、慎重に行動した方がいい。そういう時代になってしまっているのだ。
「……若槻燈也」
「わかつき……とうや……」
少女が眠そうなその眼でしばらく俺を見、吹き抜けになってしまった天井を見上げた。
その視線の先には、煌々と光る、満月。
「い……い……」
「何……?」
少女が何かを呟いたらしい。
「いざよい……」
いざよい……。十六夜か? まだ五月だぞ。
もしかして、名前か? んな馬鹿な。