十六夜の空、始まりの風…2
この物語は基本主人公の一人語りで進みます。
最初の異変は、まるで何かの都市伝説か、怪談のようだった。
地底空間から研究チームが帰ってきて二週間後、彼らが持ち帰ったものは石鎖に絡みつかれている石碑の写真と、地底にあった正体不明の神殿を録った映像だけだったと分かり、世界が落胆に包まれていたころ。
事件は起こった。
ユーラシア大陸を横断していた飛行機が突然行方不明になったのである。
当初は『ただ、行方不明になった』と片づけられたのだ。
しかし、同じようなことが何度も続いたら、黙ってはいられない。
ある時はアメリカの一つの町が壊滅したり。
ある時は再び飛行機が行方不明になったり。
異変は続いた。人々は不可思議な現象に苛まれ、次は自分の身にそれが降りかかるのではないかと疑心暗鬼になっていった。
そんな時、事態に進展があった。
アルプスの山中で行方不明になった飛行機の乗客、その内の一人の荷物が見つかったのだ。
木に引っ掛かっていたのは、バックパックとカメラだった。
名の知れたカメラマンのもので、解析された画像に映っていたのは、ありえない光景だった。
映っているのは、飛行機の座席から撮った、窓の外の雲の上。
飛行機に並列で飛行している物体を写している写真。
その物体こそが、今まで続いてきた人類の永劫なる繁栄を脅かす、“天敵”だった。
巨大で長い体躯。
左右に伸びる巨大な羽根。
爪。角。眼光。牙。
そう、度重なる怪事件の犯人は、竜だったのだ。
すぐに人々は論争を始めた。
ある人はこれは偽物だと言った。
ある人はこれは本物だと言った。
写真に映っていた竜。それが現実に存在するかどうか、カメラの発見から一週間後、人類はすぐに知ることとなった。
――2142年。二月二十二日。アメリカのロサンゼルスに、竜が現れた。
前触れなど存在しなかった。竜は本当に、都市の上空に突然現れたのだ。
都市がパニックになったのも必然と言えるだろう。
なにせ、世間では数々の怪事件――つまりは大量の人間の失踪事件――の犯人と認知されていたのだ。政府は写真が出回るのを阻止できず、人々は知ってしまっていたのだ。
竜は圧倒的だった。
人類のありとあらゆる兵器がその鱗の前には通用せず、ミサイルや機関銃では歯が立たない。
対して竜はその伝承の通り、火を吐いた。爪で人を引き裂き、強靱な腕と尾はビルをも容易に砕く。
続いて翌日、もう一体の竜が日本に出現した。
竜達は破壊と殺戮の限りを尽くした。
一つの都市がものの数日で壊滅し、一か月で人類は当時の半分にまでその数を減らされたとも言われる。
ある人は逃げ、ある人は隠れ、ある人は武器を手にとり戦った。
だが幸運なことに、恐怖の日々は一年で終わりを告げた。
唐突に、竜たちは姿を消したのである。
一週間経っても現状に変化がなかったことから、地獄の終わりを口にする人々が現れ始め、世界は再興に向かって一つになっていった。
そんなころ、米国が竜に対して核を使っていたことが明らかになり、半分になった人類は物議を醸すことになる。
それから120年後、すなわち今年。それも今から一週間前に、再び竜は出現した。
場所は、日本。
他国の都市と同じように、壊滅状態からの復興を進めていた東京にそいつは現れたのだ。
俺は直接見たわけではないが、久々に現れた竜は全身が黄色で瞳は翡翠色らしく、“軍”は黄色の竜ということで、YellowDragon――略してYDN――と呼称されることとなった。
ただ、“軍”も竜の再出現は予測していたらしく、それ相応の軍備を整え、先ほどテレビで言っていたように、撃退するくらいは出来るようになったらしい。
あからさまに敵が居る場合、人間はかなりの速度で進歩を遂げる。
噂だが、既に“軍”は対竜用の最新兵器を作り出しているらしい。あくまで噂だが。
以上、新聞より抜粋。
「はあ……」
しかし、俺も相当に不憫な奴だと思う。
こんな時代に生まれた時点で十分不運か。せめて200年前に生まれたかった。
さて、いつまでも昔話をしているんじゃあ、つまらないだろう? 俺もちょうど飽きてきたところだ。
では今俺が置かれている状況を、今一度整理してみようじゃないか。
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