和なきて、動き出す……4
……その日、俺はどうしようもなくイライラしていた。
帰るなり十六夜が変な目で見てきたのだから相当なものだっただろう。
理由と言えば、何のことはないのだが、……なんだかあの転校生の言葉が妙に心に残っているのだ。
俺が竜に関係している?
たわごとにも程がある。
「燈也……怒ってる?」
十六夜がテレビから目を離してこちらを向く。
勝手に見るなよ。電気代も馬鹿にならないってのに。
「あー、怒って無い。ただ、さ」
「?」
ふと、思ったことを口にしてみる。
「俺の眼の前に竜が現れたらどうするかな……と思って」
「……」
気のせいだろうか。一瞬、十六夜が暗い顔をしたような気がした。
「まあ……あれだ」
明日になれば、分かることもある。あいつに問い詰めることも出来るさ。
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畜生。
いや、愚痴っても仕方ないな。でも、これは許してくれ。
今の今まで、この瞬間まで、登校途中に瓦礫の山に巻き込まれたとか!
ねえだろッ!
「……といっても、始まらないよなあ……」
事は、俺がいつも通りに学校への登校通路――一部瓦礫の山――に行ったことから始まった。
始まったもクソもないが、まあ、ここまで言えば分かるか。
要するに、急に瓦礫の崩落に巻き込まれた。そういうわけだ。
「はあ……」
残念にも程がある。
またもや遅刻か。もう嫌だぞ。一回遅れて行って、先公にどやされて死にかけたことがあるからな。
「暑い。暗い。ああー、何だ、あれだ。辛いぜ」
とりあえず色々考えていないとさみしくて死んでしまう。
「しかし、どうしたものか……」
ガキッ
ん?
何だか、目の前の瓦礫が動いたような……。
そう思ったとたん、すぐそこの瓦礫がガリッと崩れた。
続いて、視界に入る、蒼。
……蒼?
俺が閉じ込められていた瓦礫を、まるでそこらのゴミを片すかのように容易に崩したそれは、すぐに俺の視界から消えた。
「一体……」
すぐに身体を起こそうとして顔を上げると、
「……」
崩れて穴になっている部分からこちらを覗いていたのは、あの、蒼い髪の転校生だった。
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「はあ……」
「なんでため息なのよ」
そうして今現在、俺は教室……ではなく廊下に立たされている。
隣には、俺が閉じ込められていた瓦礫をどかしたらしい、転校生。
しかし、あの時、一瞬で瓦礫の山に穴を開けたのはどうやったのだろうか。
ドリルを持っていたわけでもないだろうし。
ただ瓦礫が崩れる一瞬、視界の端に蒼くて巨大な何かが映った気がしたが、あれはなんだったのだろうか……。
隣の転校生までもがため息をし始め、その日は過ぎて行った。