和(あま)なきて、動きだす…1
――竜の襲撃。たった一週間と二日で人類の半分近くが死んでしまった、種の存亡に関わる、大事件。
人々が今最も恨んでいる、否、悔んでいる事件だ。
誰もが思っただろう。あれが、あの事件が、あの石碑が解放されたこととなにか関係があるものなのだと。
自らの好奇心を恨み、後悔した。
失ったものは、戻らない。
――――翌日。
十六夜が俺の部屋に来て二日経った。……が、依然として、彼女は自分がどこからきた何者なのかを思い出すことは無かった。
「なあ、十六夜」
「……なに?」
ソファーでくつろいでいる十六夜に声をかける。
今日も俺は学校だ。軍事学校とはいえ、毎日の授業は欠かされていない。
「……いや、なんでもない」
風呂とかはどうしてるのだ、と訊こうと思ったのだが、やはり女の子にそんなことを訊くのは野暮というものだ。
時折すれ違った時にふんわりと甘い香りがするから、恐らく健康云々もしっかり自分でしているのだろう。うん。
「今日も、学校?」
「ん? ああ。毎日あるからな」
そう言うと、心なしか十六夜が機嫌を損ねたらしい、ぷくーと口を膨らませる。
やはり一日一人でいると暇なのだろう。
でも、俺だって、学校をサボるわけにはいかないし。
「じゃあ、行ってくるよ」
「うん、待ってる」
一人暮らしを始めたのは自分の意志だけれど、やっぱり自分の家に人がいるってのは、やはり安心する。
などと考えながら、俺は玄関を出た。
――――――――――――――――――。
「ねえねえ、つっきー」
「何だよ」
教室でツールをいじくっていると、今風紀委員の仕事から帰ってきたらしい、息を切らした皐月が机の横で立っていた。
「あー。またツール使ってる。……まあ、いまはそれどころじゃないよ!」
「何なんだよ」
そう言うと、皐月がもったいぶるように腕を組む。
「実は、今日、このクラスに転校生が来るのでーす!」
「マジか」
転校とは珍しい。
このご時世、家を移したりなんてことをする人もめっきり減ってしまったものだが、やはり転校生というものはいいな。
期待とか、ついついしてしまうだろ?