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セカンド・ブラック  作者: 陽炎煙羅
一章 
10/14

皐月晴れ、燈也は迷う…5

 この学園は竜の襲撃に伴って造られた軍事学校だ。


 午前中には一般教科の授業がある。

 昼食後、俺達は武器を取り、別棟で武器や情報機器の扱いを学ぶ。


 昔の人々からしてみれば、ありえないことだろう。

 だが、俺にとっては生まれてからずっと続く“常識”なのだ。




―――――――――――――――――――。


「ただいま」

 帰るまで、学校に居る間はいつもの日常。

 だが、今俺の部屋にはいつもとは違うものがある。


「―――――――――――――」

「ん?」

 部屋の戸を開けると、澄んだ声が響いてきた。


「――――黒き者は空を舞う

 地に生きる者と共に 永遠を誓い

 月詠の舞を踊る

 月下の回廊 月は見ていた

 全ての償いを 包み込むように――」


「歌……?」

 ひどく暗い短調のリズムだ。……しかし、記憶がない割には歌なんか覚えてんのかよ。


「あ……」

 夕焼けの差し込む部屋に入ると、ベランダにいた十六夜がこちらを振り返った。

「なんて歌なんだ? それ」


「……知らない」

 おいおい。

「知らない歌を歌ってたのかよ」

「……いいでしょ」

 おお、何か口調が様になってきてる。

 まあ、いつまでも記憶喪失でいられても困るしな。

 皐月といい、赤宮といい、あの友人たちがいつ押しかけてくるやもしれない。


「何か思い出したか?」

「……歌だけ。とう……」

「ん?」

 十六夜が少し顔を伏せた。

「燈也。名前、覚えた」

 覚えるのは勝手だが、とりあえず思い出す方を努力してくれよ。


「うん」

 先が思いやられるな、本当。

 でも、この子を外に放り出すわけにもいかないしな。


 ……はあ、どうしたものか。

 でもまあ、俺も結構暇な学生生活を送っていたわけだから、たまにはこういうことがあってもいいか。


「ねえ燈也」

「なんだよ」


「なんで皆はさみしそうなの?」

 みんな……?


 ああ、ベランダから見えた、道行く人々のことか。

「こんな時代だからな。みんなが暗いのも仕方ないさ」

「時代?」

「お前も知ってるだろ? 竜の襲撃を受けた中で最も被害が大きかったのは東京とロサンゼルスだ。今でも復興の最中なんだから、市民が鬱になってても仕方ないだろ」

「竜の……襲撃」


 さすがにそれは忘れていなかったらしい。

 十六夜が辛そうな表情を浮かべた。


 ……あ。

 しまった。これは不味い、でかい墓穴を掘ってしまったぞ。

 十六夜は屋根を突き破って落ちてきたこと以外は何らかの、竜に関する何かで記憶を失っているはずだ。

 だとすれば、竜の襲撃の話題を出したら十六夜を傷つけてしまう可能性がある。


「ごめん、十六夜」

「……うん。分かってる」

 

 あま襲撃に関する話題はしない方がいいな。機嫌を損ねて出て行かれでもしたら心配で俺が死んでしまう。

 言い過ぎか。でも、この性格は変えられない。

 こうして出会ったのも何かの縁だ。


 できれば最後まで力になってあげたいのだが……。

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