十六夜の空、始まりの風…1
どうも、陽炎煙羅というものです。
今回は、この拙作を開いていただき、誠に感謝感激しております。
二日ごとに更新する予定です。
では、お楽しみいただけると幸いです――。
――事の始まりなんてものは、本当に些細なことでしかない、と思う。
『臨時ニュースです』
点けっぱなしにしていたテレビから、アナウンサーの凛とした声が流れた。
俺はすすっていたラーメンを食べるのを止め、顔を上げる。
『昨日未明、第三十四居住区に現れた“YDN”は本日六時三十二分、第一軍機動部隊により迎撃され、姿を消しました。第三十四居住区、及び周辺の区間にお住まいの方々は、今後ともに十分な警戒を続け、怪しい飛影、不審炎などを見かけたら、速やかに軍に知らせてください。また、日本政府は今後も警戒体制を強化し……』
手元にあったパネルの画面をタッチし、テレビの電源を切る。
「はあ……」
漏れるため息。
いつまでこんな生活を続ければいいのだろうか。
先のことを考えれば考えるほど、頭が痛くなる。
「本当に、理不尽だよなあ……」
手元にあるパネル状の端末の画面に目を向ける。
日付は、西暦2262年、5月12日。
人類に天敵が現れてから、実に120年もの年月が経とうとしていた。
――――120年前、2142年の冬のことである。
ヨーロッパのある地質学研究チームが、ある発表をした。
それは、『イギリスの北西、アイスランドの地底に謎の空間が存在した』というもの。
これまでそのようなものは一切観測されなかったのに、急にそこに現れたのだという。
この発表に、一部の学者達は歓喜した。
また、世間では、知られざる財宝だとか、失われた古代文明だとか、地底帝国だとか、いろんな噂が飛び交った。
その空間は位置的に地下三階くらいのところにあり、侵入することは容易なものと思われた。
そして、発表から数カ月後、すぐに地質学のエキスパートと学者達でチームが組まれ、探索が始まった。
最新鋭の機械を使って地盤に影響を与えないよう、地面を下に、下に掘り進む。
そして、地底空間に侵入した彼らが見たのは、にわかには信じがたい光景だった。
まるで、どこか、中世の神殿を彷彿とさせる造形の空間。
いくつもの風化して崩れかけた石柱に、周りの壁は何かが彫られていても判別がつきそうもない。
そして、広大な空間の中心部にそびえていたのは、崩れかけて古めかしい周りとは別に全く傷の付いていない、石碑だった。
それの映像は、今も軍によって厳重に保管されている。
今の時代、教科書の表紙にも載っている写真。石鎖に何重も巻き付けられたその石碑は、誰が見たって一瞬身を竦ませてしまうほどに、厳かな雰囲気を纏っていた。
発見したその場に居合わせたチームの人々はその光景を見て、やはり歓喜したらしい。
即座に、“神殿”の探索が始まった。
しばし探索をした後、想定外の自体が起こった。
研究員の内の一人が中心部の石碑に巻きついていた石鎖に触れてしまったらしい。
その瞬間、石碑を束縛していた石鎖は全て砕け散った。
そして、急に地響きが起こり、地底空間が崩れ始めたのである。
慌てたチームの人々は回収した物資をほとんどその場に捨て置いて、地上に逃げ帰った。
石鎖から解き放たれた石碑がそのままどうなったのかも、結局分からずじまい。
何かの予言の後だったり、何かの伝説の語られた後のように、世界は何も変わらず回り続ける。
……はずだった。
それから、“異変”が始まった。
まだ導入の段階です。気長にお待ちください。