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アドミラとシェリスカ。  作者: キサラギハルカ
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中編

「帰ってもらおうかな・・・」

 シェリはぼそっと呟いたが、そんな失礼なことができるわけがない。魔法庁からのお客が用事があるのは絶対にシェリなのだから。

 家のドアまであと数メートルというところになっても後ろ向きなシェリを、私はどんと前に押し出した。

「ああ、シェリスカ殿ですね?」

 飾り一つない、うちの家のドアを眺めていた魔法庁からのお客は、ゆったりとした口調で言った。

「ええと・・・」

「よろしければですが、お話したいことがありますので家にお邪魔してもよろしいですかな?」

「はい」

 シェリは、青い瞳を悲しげに伏せながら言った。





「ほう、これは・・・」

 シェリの家には、テーブルがひとつしかない。お客が来ても、座ってもらう場所は食事を取るいつものテーブルだ。

「こういった飲み物は初めてだ」

 そのテーブルに向かい合うようにして、私がいつも座っている席にシェリが、シェリが座っている場所に魔法庁からのお客様であるアレン氏が座っていた。アレン氏は、ぽっちゃりした体型のおじさんだった。そして、私が作ったカフェモカ(表面が泡立っているやつである)を見るなり、小さなグレーの瞳を丸くして見入っていた。

「それは、コーヒーに泡立てたミルクを注いでいるだけなんです。こちらではそういう飲み物が最近流行っていまして」

「なるほど」

 アレン氏は、そこで気がついたかのように頭の上にのせていたグレーのシルクハットを取った。

「失礼。どうも外出の機会が少ないと礼儀を忘れてしまう。シェリスカ殿」

 カフェモカをちびちび飲んでいたシェリは、びくりとしてアレン氏に顔を向けた。アレン氏は、グレーのスーツをぴしりと伸ばすように姿勢を正すと、

「今日、ここに来たのはですな、お話があるからです」

「・・・わかっています」

「ええと、こちらの女性はあなたの」

「単なる家政婦です。もちろん、同席はしません」

 シェリだって、いくら何でもそのつもりだろうけど、私はさっさとそう言ってしまって自分の部屋へ行くことにした。

「そのほうがいいね」

 シェリが、いつもよりははっきりとした口調で言った。

(シェリ?)

「ねえ、アドミラ。今日の晩御飯は君の得意なビーフシチューがいいな」

 そう言ったシェリは、青い瞳を細めて笑っていた。

「わかった・・・」

 私は呻くように返事を返すと、とりあえず自分の部屋へ向かった。




 部屋の中には、アレン氏と彼だけが残された。

 しん、とした静寂が二人を包む。ティーカップから立ち上る湯気だけが、静寂の中でも自由に動いていた。彼は、またちびちびとカフェモカを飲んでいた。アレン氏に構うことなく。

「もう、何度も要請していることですが、我々のもとへ来る気はありませんかな?」

 彼は、両手で持っていたティーカップから左手を離した。

「我々は、あなたを必要としている」

 彼は、ティーカップを傾けて全て飲み干すと、静かにテーブルの上に置いた。

「あなたの力、知識が必要だ」

「僕を必要とするなんて、まともじゃない」

 アレン氏はぎくりと身を震わせた。

 彼が、深い青い瞳をアレン氏のグレーの瞳にしっかりと合わせたからだ。どこかか弱いように見える青年の姿はどこにもなかった。

「もう一度言う。僕を必要とするのは、まともじゃないことをしようとしているからだ」

「我々はただ」

「アレン氏。僕はね、あなたを見たことがあるんだよ。小さい頃だったけれど。だから、あなた方が何をしようとしているのか知っているんだ。いや、何を考えているのかといった方が正しいのかな。そのときに僕が何もしなかったのはね、ただの遊びだと思っていたからだ。ただの真似ごとだろうと」

「遊び?真似ごとだと?!」

 アレン氏は、小さなグレーの瞳に憎悪の炎を燃え上がらせた。

「邪悪なる神なんて、存在しないんだよ。アレン氏。歴史が証明している」

 向けられた憎悪に、彼は微笑みながら言った。

「応じないというのであれば、あの家政婦がどうなってもいいのか!我々が貴様のことを何も掴んでいないとでも?」

 彼の青い瞳が一瞬だけ深みを増し、冷えた。

「あなた方が何を掴んでいようが」

 彼はくすりと冷たい笑みを浮かべて続けた。

『僕には勝てない』

 そのとき、アレン氏には、彼の瞳が光ったかのように見えたかもしれない。一瞬の間になされたことだった。足元に出現した魔法陣を見たと思ったら、それを読む時間すらなく、アレン氏は床に倒れていた。

倒れたアレン氏が見上げたその先には、彼が座っていた。

「今のは・・・」

 アレン氏の体はがたがたと震えていた。何が起こったのか全く理解できなかったからだ。

「魔法陣を展開させ、軽い衝撃波を当てた。それだけだけど?」

「しかし、いつ描いたのだ・・・?」

「さあ、いつでしょうか?当ててごらん。また会いにくる勇気があればそのときでも教えてよ」

 彼は、アレン氏に手を差し出したが、アレン氏は取らなかった。自分で立ち上がり、よろよろとした足取りで彼の家を出て行った。




  





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