9 簡易ダンジョン/煉南鳥
コーザがセリーリアの手を握る。
「こっから先は、ちょっとしんどいが……ついて来られるか?」
「が、頑張ります……」
「いい子だ」
魔法《脱獄の共犯者》。
自分と対象の敏捷性を足して2で割る効果がある。
ほぼ同時に、至高の波止場の扉が開く。
リックウッドが、マスター権限を自発的に解除したわけではない。
職業:大泥棒3名による合体技だった。
「悪いが、強引に入らせてもらったぞ」
赤いバンダナを巻いて気取ったフィノットに、コーザが辟易と言い返す。
「モテすぎだろ……。愛の告白は1人ずつって、パパとママから教わらなかったのかよ?」
「用があるのはコーザ、貴様ではなくそちらのカーティルだ。それに大泥棒の上位互換を持っていながら、我々と袂を分かった貴様を俺はまだ許していない」
コーザの職業幽債鬼は、盗賊系統の最上位だ。
出現条件は不明であり、今のところタイオンにおいて同じ職業のプレイヤーはコーザしかいない。
「クソガキじゃねえか。あいにく、セリーリアに一番最初に告るのはうちってもう決まっているんだ。泥棒らしく、違う娘でも探しに行きな」
裏口からコーザが至高の波止場を出る。
そこはもうはじまりの町の外だ。
高難度のエリアである中央大森林が広がっている。
「俺たちから本気で逃げられるとでも思っているのか!」
追って来るいくつものプレイヤー。
逃走しつつ、コーザもまた無数の罠具を仕掛けていく。
至高の波止場を出ようとしたメルリオに罠具が反応、即座に中身が展開される。
(……簡易ダンジョン)
それはプレイヤーを、強制的に迷宮の中に閉じ込めるアイテムだ。
高レベルのプレイヤーからすればほぼ実害のないものだが、幸か不幸か、確実に足止めはできてしまう。
さすがに迂闊には近づけないと、追っ手が急停止。
仲間同士で連絡を取り合う。
「今のは簡易ダンジョン……。種類ってわかります?」
「冥画だ」
「冥画って……マジですか。最高峰のレアリティーじゃないですか。よくこんなことに使えるな……。売ったら40万Gはくだらない。俺なら絶対に使いませんね」
リーダーのフィノットが、人一倍大きな声で前を走るコーザたちを威嚇した。
「ずいぶんと気前がいいじゃないか、コーザ!」
それに対し、コーザは後ろ手に軽く腕を動かすだけだった。
(……そりゃそうだろ。人生最後の大盤振る舞いだぜ。景気よく派手に行こうや)
さらに進んでから、コーザは振り返る。
「安心して、足元を調べながら追って来てくれ!」
茶化すコーザに、大泥棒たちが気色ばむ。
だが、リーダーだけは落ち着き払ったままだ。
「油断するな。今のは俺たちの注意を、地面に向けさせるためのものだ。頭上も警戒しろ」
「ういっす!」
セリーリアの腕を取りながら、コーザは走る。
(さてと……。勝手に疑り深くなっててくれたら、ラッキーだわね)
簡易ダンジョンは便利だが、罠具であることに変わりはない。
アイテムに設定された耐久値以上のダメージを受ければ、壊れてしまう。
無論、追っ手は確実にその方法を取って来るだろう。
マンパワーが違うのだから、手当たり次第に魔法をぶっ放して、地雷原を掃除するだけでいい。
一応、魔法に反応して発動する罠具など、嫌がらせのように仕掛けて来たが、それでも遅かれ早かれ限界は来る。
「頼むぜ、使い魔たち」
アイテムを消費し、味方のNPCを呼び出す。
高度な命令も実行できる使い魔たちだった。
手持ちの在庫はすべて使う。
20体の人型使い魔がコーザの周りに出現した。
(今のセリーリアでも中央大森林のモンスターとは戦わせられない。もっと強力な使い魔もいるが……簡易ダンジョンに反応しない狐嫽人が最善手のはず。あとはとっておきも使ってやるか)
主人の命令を待つ使い魔たちに、コーザは言い放つ。
「プレイヤー名セリーリアの付近にいるモンスターを手当たり次第に攻撃しろ」
20体の使い魔が一斉に動きだしていた。
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大泥棒の一団は地雷原を掃除しながら、着実に前進していた。
「こんなことをしている間に、妖精の瞳に逃げられちゃうんじゃないっすか?」
「いや、もうすぐ簡易ダンジョンの罠具エリアはおわる」
「……?」
どうしてそんなことを言い切れるんだと言わんばかりに、メルリオはフィノットを見返した。
「コーザが罠具をばらまけたのは、せいぜい中央大森林に入ってからの数秒。そんなに深くまで罠具は設置できない。そういう意味じゃ、今は設置し放題だがな……そんなことをするより、逃げたほうが賢明だろう?」
「なるほど」
もうまもなくだ。
そうフィノットが思った瞬間、怪しげな声が一帯に響いた。
『古き契りに基づき、参上した。今より我が相手とならん』
護法煉南鳥。
コーザの持つレアアイテムの中でもぶっちぎりの存在だ。
それは大泥棒のリーダーも理解している。
「煉南鳥……。お前が持っていたのか」
「なんすか。俺、こんな使い魔は知らないんすけど」
「同じ世界には、常にひとつしか存在できない神話級のアイテムだよ。時間制限つきだがな。……なんでもありだな、出し惜しみしないつもりかよ」
煉南鳥を30分以上使用することはできない。
このカウントダウンは、召喚した使い魔を解除しても元には戻らない。次は、そこからカウントダウンが再開される。
アイテムの入手頻度を考えるなら、1人のプレイヤーが煉南鳥を使役できる総計の時間は、30分と同義だった。
「せめて、こいつの足止めをするぞ。それが今のコーザに対して、唯一、一矢報いることのできる方法だから。まあ……それも、煉南鳥相手なら瞬殺だろうがな」
言っているそばから、仲間のプレイヤーたちが次々に殺されていく。
体力のステータス1つを取っても、単純計算で6倍なのだ。
勝てるわけがなかった。
『相変わらず弱いな、そなたたちは』
「うるせえ、くたばりやがれ……」
恨み言を言った大泥棒ギルドのリーダーも、まもなくHPを全損。
リスポーン地点へと転送された。
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