8 マグリアーナ/意味深な台詞
決闘はコーザたちの勝利でおわった。
決闘におけるHPの全損は、死亡という扱いにはならない。アイテムこそ消費されるが、HPとMPは決闘をする以前の状態に復元される。
したがって、コーザの眼前にはマグリアーナとミライカが立っていた。
「……お見事と言ったほうがいいのでしょうね」
「別に褒めてほしくなんかねえよ」
興奮覚めやらず、好き勝手に騒ぐ観客たち。
それを横目に、コーザとマグリアーナは報酬の最終調整に入っていた。
報酬は決闘の開始前に決めるのが普通だが、おわってからでも微調整なら行える。もっとも、コーザにそのつもりはなかった。
(宿泊イベントで2週間の接触禁止……それから……)
コーザは今一度、自分の望む条件が正しいかどうかだけ確かめる。
(大丈夫だ。間違いない……)
賭けの内容が変わらないのを認めたマグリアーナが、目を丸くしながらコーザに尋ねる。
「本当にたった2週間でいいの?」
「ああ、問題ないぜ」
コーザは自信たっぷりにうなずいた。
(3週間ならうちのホームグラウンドにたどり着ける。2週間なら、自治組織のある町に行ける。そう思わせるのが、うちの計画!)
力強く首肯するコーザを見たマグリアーナが、不敵に笑う。
(……。いや、大丈夫なはずだ)
首を横に振って、コーザは雑念を追い払う。
コーザたちの周りには、なおも続々とプレイヤーが寄って来ている。
決闘のせいで人を呼んでしまったのだ。
それに思わぬ時間のロスでもある。
(早くしねえと……)
この間に、セリーリアを狙っているプレイヤーが近づいて来るかもしれない。
コーザが報酬の獲得を行う。
とたんに、接触禁止を知らせる警告音が周囲に鳴り響いた。
黄昏の庭が、コーザに接触している扱いだからだ。
この警告を無視していれば、当然にペナルティーが発生する。
「道を開けなさい。面倒なことになる前にね」
マグリアーナの一言で、速やかに魔女たちが至高の波止場を離れる。
店舗までの道が開いていく。
セリーリアの手を取って、コーザが歩きだす。
その背中にマグリアーナが言葉をぶつけた。
「コーザ、また会いましょうね」
「へっ、やなこった」
振り返ったコーザが、虫を払うように手を振った。
だが、マグリアーナは、それに蠱惑的な笑みで応える。
「いいえ、必ず会うわ。あたくしたちは、そういう運命なの」
(……)
意味深な台詞をつぶやくマグリアーナに、コーザは一瞬目を細める。
だが、魔女の言動を理解するだけ無駄だろうと、店舗に向かう足を速めた。
銀色を基調とする街並みに、中指を突き立てた紫色の景観。
これこそが、コーザの目指していた至高の波止場だ。
「やっとだぜ」
到着するやいなや、コーザはセリーリアに大量の装備品を与えはじめた。
「えっ……。コーザさん、これはいったい……」
アイテムボックスに次々と入っていく貴重な装備品の山を、セリーリアはびっくりしながら見守っている。
うれしさよりも、どうしていいのかわからないという戸惑いのほうが、勝っているとしか思えない。
「こっから先は戦闘エリアだ。どうしても敏捷性が命なんでな。悪いが、うちの言うとおりにあとで装備してくれ」
「な、なるほど……」
店の入り口にたむろするコーザたち。
それに気がついた店舗のマスターが、2人へと近づいて来る。
プレイヤー名はリックウッド。
マグリアーナも指摘していたように、コーザとは古い知り合いだった。
「コーザじゃねえか。ってことは、そっちが噂の妖精使いか。情報が流れて来たときは耳を疑ったぞ。まさか、お前がカーティルの強奪犯だったとはな」
「はっ、そんなんじゃねえよ」
ドンドン……ドン!
店舗の入り口を叩く音。
リックウッドがマスターの権限で、一時的にプレイヤーを入れなくしているのだ。
無論、これがコーザを匿うための措置であることは言うまでもない。
リックウッドが扉のほうを指さして言う。
「早くしろ、コーザ。いつまでも白を切り通すのは無理だぜ」
「わあってるよ」
「賢者の施しは?」
「ああ、そうだな」
賢者の施し。それは経験値を獲得するための消費アイテムだ。
経験値を与えれば、それだけ敏捷性のステータスも向上する。
リックウッドに言われ、セリーリアにアイテムを譲渡しようとした直前、コーザはそれをためらった。
(……。自分でモンスターを倒してレベルを上げる。そんな楽しみまで奪っちまったら、うちもマグリアーナとほとんど変わらねえじゃねえか……)
イベントマラソンを使えば、あとからでもレベルを下げることは可能だ。
しかし、そんな虚無の作業をセリーリアにさせたくはない。
(それならうちのスキルだけでいいな)
職業:幽債鬼の固有能力は、相手に最大で50万単位の経験値を貸し付けることができる。
当然、貸し付けるだけだ。
以降、そのプレイヤーが獲得する経験値は、代わりにコーザが獲得することになる。これは1割の色をつけてコーザに返すまで効果が持続する。
セリーリアとの契約を結びはじめたコーザを見て、リックウッドは信じられないとばかりに腕を上げた。
「正気かよ、コーザ!? 救咎定約だけで追っ手を振り切るつもりか?」
一度、貸し与えてしまえば、それ以降セリーリアはしばらくの間、経験値を獲得する機会を失う。
それはつまり、今からでは賢者の施しを使っても意味がないことを示していた。
リックウッドにはコーザが自分の能力だけで、セリーリアをどうにかしようとしていることに気がついたのだ。
「あたりめぇよ。うちは無敗のコーザだぜ?」
「お前、そのあだ名は……」
嫌っていたはずではないのかと、リックウッドは目を丸くする。
そして、今度はセリーリアの肩に手を置いた。
いかにコーザが真剣にセリーリアと向き合っているのかを理解したからである。
それは同時に、コーザにとってセリーリアが特別なプレイヤーになりつつあるということでもあった。
だからこそ、リックウッドはセリーリアに語りかける。
「コーザのこと、頼んだぜ」
「えっ? はい……」
頼まれるのは自分のほうだと言いたげに、セリーリアは困ったように笑って、装備を整えていた。
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