7 VS魔女/闘技場の王として
ミライカの出現させた隕石が動き出し、明後日の方向へと飛んでいく。
「クソっ!」
ひとまずは計画どおりだ。
(ヌーベル・ローブが決闘最強なのは、バトルフィールドの展開中に装備したときだけ……)
インターバルの間は、観客エリア以外のすべてが静止する。
それは魔法であっても例外ではない。
そのため、決闘の直前に選択された魔法は、キャンセルすることもできず、決闘がはじまってから処理が再開される。
「元々、ステゴロの勝負にヌーベル・ローブみたいなインチキを持ちこもうってのが、ダメなんだよ」
隕石の狙いはコーザたち本来の位置だ。
スキップを決めたコーザたちに命中するわけがない。
完全な無駄撃ち。
その間に、セリーリアから手を離したコーザが、ミライカに肉薄する。
「知らなかったのか? ヌーベル・ローブの最強伝説は、うちが10年前におわらせちゃったんだ。魔法の使えない魔女に脅威なんてないっしょ。残念だったね、可愛いかわいいメルリオさん。一昨日おいで」
コーザの連撃がミライカのHPゲージをごりごりと削っていく。
「調子に乗るなよ!」
魔法《星に願いを》のクールタイムが終了。
激高したミライカが、ただちに別の魔法を使う。刹那――ミライカのアバターは、電流が走ったように硬直した。
「ぐはっ!」
意地悪な笑みを浮かべたコーザが、その場で何度も小さくうなずく。
「得意の大技を外しちゃったんだもんな。次は搦め手で動きを封じてから攻撃したいっていう気持ちは、うちにもわかるよ。でも、残念でした」。
《知恵比べ》
次に自分の受ける魔法が、ダメージ判定のないものであった場合、その魔法を使ったプレイヤーに麻痺を与える魔法だ。
ハイリスクだが、ミライカの行動を読んでいたコーザからすれば、危険などないに等しい。
動けないミライカに、コーザが追加の攻撃をお見舞い。
ついに、ミライカの体力ゲージが0になる。
この間に、マグリアーナも自身のステータスを強化しおえ、コーザとの戦闘に備えていた。
「これで2対1だな。降参してもいいんだぜ」
「冗談でしょう? 初期アカウントの妖精使いなんて、数のうちに入らないじゃない!」
激突。
ダメージ判定のある魔法に、《知恵比べ》は使えない。
純粋なパワー勝負だ。
「ふっ!」
ステータスの総計はコーザのほうが上だが、魔女の職業は攻撃型。コーザのバランス型では、じり貧だった。
「雷公と氷姫の舞踊!」
マグリアーナを中心に、フィールドから氷の刃がいくつも生えて来る。それだけではない、コーザを中心に信じられない量の雷が降り注いだ。
(……ったく、やることが相変わらず派手なんだから、もう)
マグリアーナの知力は、すでに最大まで強化されているのだろう。
魔法を一発でも食らえば、それだけで勝敗を決する。かすっただけでも、ドン引きの大ダメージだ。
「品がねえんだよ、お前は! 決闘はもっとスマートにやるもんだろ」
「お黙り! 骸花の王女!」
どうにか《雷公と氷姫の舞踊》をかわしきったコーザの背後に、巨大な女性が出現する。
手に持つは骨で作られた剣。
頭の花冠はすでに腐っており、汚損した花柄のドレスとは正反対の色白い肌が、かえって痛々しく見える。
開かれたまぶたの下に眼球はなく、閉じられた右目からは青い血がぽたぽたと流れていた。
(……必中魔法か。性格ワリい……)
彼我の距離に応じて、固定のダメージが入る。
王女が場に出現している限り、逃れられるすべはない。
骨の剣が振られる。
王女の斬撃がコーザのHPを削った。
(うへぇ! 今ので3割減かよ……。知力高めすぎだろ……)
おまけに、追加効果でHP回復に異常を付与された。
体力ゲージを元に戻すこともできない。
「そんなにうちと離れたくないってか!」
「ええ、もちろん。大好きだもの、殺したいくらいね!」
王女からのダメージを減らすためには、マグリアーナに接近するしかない。
大変な危険が伴うだろう。
それは無論、コーザも承知していた。
そして、多かれ少なかれ、決闘がこういう流れになるだろうということも。
「さすがに、今回ばかりはいくら無敗のコーザでも無理か」
「ステータスを強化される前なら、まだどうにかやりようがあったかもしれねえな」
「馬鹿を言え。そもそも2対1から普通に戦えている時点で、化け物すぎるだろ」
コーザが彼我の距離を減らしていく。
もちろん、それに合わせてマグリアーナは迎撃の姿勢を見せる。
(……お前が素直な性格で助かったよ。王女ベースの戦術を使われたら、うちもちびっと危なかった)
必中の《骸花の王女》をキーにするなら、マグリアーナはコーザから離れなければいけない。
だが、完全に迎え撃つ気だ。
マグリアーナの意識は今、コーザ1人にしか向いていない。
(だからこそ、2体1の状況を作ったわけよ)
今は危険を承知で、マグリアーナの注意を自分に引きつけるしかない。
本命の準備が整うまで――。
「おらよ!」
もはや肉弾戦に近い様相だ。
さすがにマグリアーナも、ここまで接近すれば、隙のでかい大技は使って来ない。
物理主体のコーザに対して、マグリアーナが小技の連続で応戦する。
「夜叉姫の恋……」
ふいをついた魔術攻撃が、コーザの腕に命中。
HPゲージを恐ろしい勢いで吹き飛ばした。
(……限界か。それじゃあ任したぜ、セリーリア!)
胸中でコーザがつぶやく。
バトルフィールドの隅。
どの観客の目も向いていない場所で、静かにセリーリアが銃撃の姿勢を見せていた。
「……。すう……はあ」
心臓の鼓動を鎮めるためだろう。
セリーリアがゆっくりと長い呼吸をくり返す。
その武器は、妖精使いのものではない。
もうすぐで、コーザを仕留められる。
そう確信したはずのマグリアーナが、次の獲物を探すように視線を横へと向ける。
その視界には映ったはずだ。
息を潜めながら、銃を構えているセリーリアの姿が。
「しまっ! 消費ア――」
――イテムか。
マグリアーナの言おうとした単語は、最後まで出て来ない。
すでに、手遅れだった。
「はいふぁいはいおー!」
独特の掛け声のもと、セリーリアが砲撃をぶっ放す。
それはパーティー間のレベルが低いときにだけ使える、お助けアイテムだ。
一緒に遊ぶための道具。
当然、火力はレベル差があればあるほどに高くなる。
(うちのレベルは103。セリーリアは言うまでもねえな)
101以降のレベル上げが異様に困難なことを思えば、それは事実上の最高火力だった。
「インターバルで禁止したのは装備品だけだからな。アイテムの譲渡は対象外だ」
HPゲージをわずかに残したままのコーザがにやりと笑う。
打ち込まれた弾丸が、間を置かずマグリアーナの頭部に命中。
残りの体力を残さず吹き飛ばしていた。
「ばいにゃーら」
ゲームセット。
無敗という称号にたがわぬ、鮮やかな作戦勝ちだった。
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次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ




