6 バトルスタート/無敗の証明
コーザがフィールドを展開する直前、ミライカが装備を改めた。
フィールド展開中の60秒間は装備の変更ができない。
事前に、そういう取り決めをした。
このタイミングでの装備の着脱は、意図的なものだろう。
ミライカの装備はヌーベル・ローブ。
当たり前のように激レアアイテムだ。
「目にもの見せてあげる」
ヌーベル・ローブを町中で装備したときの効果は、直後の2秒間、魔法の使用を可能にするというも。
本来、戦闘エリアでしか使えない魔法の使用を解禁するのだ。
決闘において、それが無類の強さを誇ることは言うまでもない。
《星に願いを》
ミライカの頭上に、巨大な隕石が出現する。
(……。かかったな)
それを認めた瞬間に、コーザも決闘の開始を宣言した。
速やかに、フィールドの作成フェーズに入る。これに伴って、隕石も動きを停止した。
以降、フィールドができあがるまで、決闘に関わるプレイヤーは動けない。
「おい、見ろよ! 決闘がはじまるぜ! みんな、来い!」
「対戦するのは、黄昏の庭じゃねえか?」
「マグリアーナだ! 魔女ギルドのリーダーだぞ!」
「相手はだれだ?」
「ヌーベル・ローブからの《星に願いを》かよ。容赦ねえな」
「あんなの負け確じゃん。そんなんで勝ってうれしいんか?」
ぞくぞくと集まる観客たち。
(他人事だからって、面白がってくれちゃってまあ……)
プレイヤーの声に隠れるようにして、コーザがセリーリアに小声で話しかける。
「セリーリア、ちょっといいか? 決闘がはじまったら、お前にやってほしいことがあってよ……」
セリーリアは訝しみながらも、コーザからのアドバイスに耳を傾けた。
フィールドの周囲に作りあげられた観客席には、すでに多くのプレイヤーが腰をおろしている。
その表情からは、今すぐ決闘がはじまらないのかと、興奮が隠しきれていない。
「クソっ、この60秒が待ち遠しいぜ!」
「長えよな、30秒で十分だろ」
残り10秒を切ったところで、フィールドの頭上にカウントダウンが表示された。
囃し立てるように、それぞれが自由気ままに残りの秒数を数えていく。
「9、8、7――!」
それを聞きながら、そろそろかとコーザも準備をはじめた。
コーザが対峙する2人の魔女を見やる。
セリーリアの視線がミライカの頭上に向けられた。
「……っ」
尋常ではないサイズの3つの隕石。
落下する軌道は、どう考えてもセリーリアたちの足元だろう。
セリーリアが息を飲む。いくらゲームだとはいえ、足がすくんでいるのかもしれない。これが現実ならば、受ければ間違いなく死亡するのだ。
本能的な恐怖に慣れろと言うほうが無茶である。
「心配するな」
そんなセリーリアの心を読んだわけではないのだろうが、コーザが今一度、セリーリアの手を握った。
「……はい」
セリーリアも気丈にふるまってはいるが、足の震えは収まっていない。
だからこそ、コーザは努めて優しく、頼りがいがあるように自分を大きく見せる。
「うちをだれだと思っている? うちは無敗のコーザだぜ」
「2、1――」
コーザが言いおえるのとほぼ同時に、決闘のゴングが鳴らされた。
スタート。
その直後に、コーザとセリーリアが一瞬のうちに真横へと移動する。
「……。おい、どこに消えた?」
無数にいる観客たちでさえも、その動きを目で追うことはできない。
(バトルスキップ大成功……ってね)
瞬間的な高速移動だ。
決闘のゴングが鳴らされる直前――コンマ数秒の間で行う移動入力。
このシビアな判定に勝つと、プレイヤーのスタート位置をずらすことができる。
ほとんどバグ技に近い絶技だ。
「あそこだ! 右に移動しているぞ」
「……何が起こったんだ?」
多くのプレイヤーが呆けた顔で口を開いているが、さすがに対戦相手はそうじゃない。
れっきとした決闘経験者だ。
絶技を理解しているからこそ、マグリアーナは苦々しい顔でつぶやく。
「バトルスキップか……。味方パーティーの人数、対戦相手の人数によっても微妙にタイミングの異なる小ネタ。あたくしもワンオンワンなら、3割の確率でこのローリングを決められるけれど……それを百発百中か。噂にたがわぬ化け物ね」
そして、同じことは一部の観客にも指摘できた。
バトルスキップに覚えのある者を中心に、観客が騒ぎだしていた。
「プレイヤー名コーザ? ……もしかして、あいつ……。いや、でもあいつはもう決闘を引退したはずじゃ……」
「間違いねえ! 黒髪のフィノット! 無敗のコーザだ!」
「無敗のコーザって、いまだに連勝記録が破られていねっていう、あの?」
「ああ、そうだ!」
タイオンに廃ジャンキー専用の拡張機能が搭載されたとき、決闘で連戦連勝の記録を打ち立てたフィノットがいる。
そのフィノットは昼夜を問わず、闘技場に入りびたり、挑み来るすべてのプレイヤーを正面から倒しつづけた。
おとぎ話に近い実績だ。
それがだれなのかは、もはや言うまでもないことだった。
コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。
次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ




