5 決闘/妖精の瞳の重要性
決闘の申し出に対する回答を保留にして、コーザはマグリアーナを見返した。
「うちら2人に黄昏の庭全員で挑むってわけじゃないだろうな?」
「それもそうね。そんなことをしたら、レイド扱いになっちゃうわ。季間ごとに回数の決められているレイドの使用権を、こんなところで無駄にしたくはない。……いいわ、2対2でやりましょうか。公平でしょう? ちょっと戦力外の子もいるみたいだけど、それはあなたが選んだことだものね」
セリーリアは初期アカウントだ。
それが戦力に数えられないことは言うまでもない。
(どこが公平なんだよ、クソフィノットが)
「……あたしのせいなんですか?」
勝負の不公平さは、ビギナーのセリーリアにも伝わってしまったようだ。
不安げに妖精の瞳が揺れている。
コーザは殊更明るい声音で話した。
「気にするな。人の善意につけこむのも、魔女の常套手段だぜ。こんなことを一々気にしていたら、楽しくなんか遊べないさ」
「でも……」
そんな2人のやり取りを見ていたマグリアーナが目を丸くし、次いでくすくすと蠱惑的な笑い声を上げた。
「あらやだ、コーザ。あなたってば、妖精の瞳の重要性も伝えていなかったの?」
「えっ……」
セリーリアがマグリアーナを見やる。
その視線は、あからさまにつづきの言葉を促していた。
「あなたのように妖精の瞳を持ったプレイヤーだけが、二重マップを見つけられるの。ここは見つけた者がその区画を占有できるのよ? 特定のエリアを自分のものにできるってこと。重要じゃないわけないじゃないでしょう?」
まるで拉致することが当然だとばかり主張するマグリアーナに、コーザは食ってかかる。
「そんなくだらねえことを理由にセリーリアから自由を奪うってか? 冗談じゃねえな。妖精の瞳のプレイヤーがギルドでどういう扱いを受けるのかくらい、うちでも知っているぜ」
「それならコーザ、あなたはどうするっていうの?」
もっともな疑問だ。
セリーリアを一瞥したコーザが、その手を強く握った。
「……。うちがこいつを一人前のプレイヤーにする。他人から妖精の瞳を持っている存在じゃなく、ただのセリーリアとして接してもらえるようにな」
「綺麗事ね」
「うるせぇ魔女。同じフィノットのよしみで、うちがきっちりけじめを着けてやるよ」
やれやれと言いたげにマグリアーナは肩をすくませた。
「交渉決裂ね。では、決闘のルールでも決めましょうか」
「マニュアルはうちが決めさせてもらうぞ。そのくらいのハンデはあっていいはずだろ?」
「もちろん。負けたときに逆恨みされても困るもの」
コーザは素早く決闘のルールを決めていく。
決闘にまつわる諸制限。
コーザたちが勝ったときの条件。マグリアーナたちに望むもの。
入力した内容をマグリアーナに送信する。
コーザからの要望を受けたマグリアーナが、かすかに笑ったように見えた。
しかし、コーザはそれに気がついていない様子だ。
マグリアーナが、自分たちの望むものをコーザに突き返す。
その妙な条件にコーザは眉をひそめた。そこに書かれてある内容が、あまりにもお上品なものだったからである。
「……。どういうつもりだ?」
「そのままの意味よ。あたくしたちはセリーリアさんと、交渉するための場を望むわ。適切な取引がしたいの……ねえ、セリーリアさん?」
「えっ、はい……」
自分の名前を呼ばれるとは思っていなかったのだろう。
セリーリアが困ったように笑いながら、マグリアーナを見返した。
「あなたは自分で、コーザのことをボディーガードとして選んだの?」
セリーリアがコーザのことを見上げ、やがてためらいがちに首を横に振った。
「そうでしょう? 時間がなかっただろうし、その場にいる人にだれでもいいから頼らざるをえなかったことは、あたくしたちも理解しています。でも、コーザを悪人ではないとする根拠はあるのかしら? あたくしはセリーリアさんのことを心から心配しています。黄昏の庭はたしかに派手な活動もするギルドだけれど、ここにいる魔女たちはみんなあなたの味方よ」
反吐が出る。
人のいいセリーリアの優しさにつけこんで、惑わせようという企みにほかならない。
目が泳ぐセリーリアは、どうすればいいのだとコーザに訴えていた。
「うちがろくでなしだと、お前が判断してからにすればいい。マグリアーナたちが本当に味方だってんなら、逃げ出して来たお前を無下になんかしないはずだぜ」
マグリアーナは何も言わない。
唾をつけることには十分に成功したと言わんばかりに、綽々とした笑みを見せていた。
「ミライカ」
「はい」
「決闘の準備をなさい」
パートナーとして選ばれたのは黄昏の庭のナンバー2。
本気のメンツだった。
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