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4 魔女ギルド/黄昏の庭

 セリーリアが後ろを振り返る。

 その目には、今も自分たちを探して途方に暮れている、メルリオたちの姿が映っているはずだった。


「……。あの人たちは大丈夫なんでしょうか?」

「初心者じゃないなら、平気だろうさ」


 ちらりとコーザが横のセリーリアに視線を向ける。


(今は自分の身を案じてほしいんだがな……)


 これもセリーリアの優しさなのだろう。

 なおさら、この子が初心者狩りにあって、心を痛めてしまうようなことは避けたい。

 標準時刻(ワールドクロック)が動かないということは、現実世界が動いていないということだ。それは、自分たちがタイオンからログアウトできないということにほかならない。自分たちにはもう、このゲームをやめるという選択肢がないに等しい。


 それはプレイヤーにとって、タイオンこそが現実であることを意味している。


「初心者だったら?」

「ん? ああ……」


 先ほどの話の続きだった。

 別のことを考えていたコーザは、一瞬、対応が遅れてしまう。


「そうさね……しばらくは出られないだろうな。ちなみにうちが初めて露店通りに入ったときは、2週間出られなかったぜ」


「あはは……。……え?」


 コーザがジョークを言ったのだろうと、セリーリアは愛想笑いをする。

 だが、コーザが無表情なのを見ると、違うのかもしれないと顔つきを改めていた。心なしか身震いしているようにも見える。


「冗談ですよね?」


 どうやらセリーリアもチュートリアルをスキップするタイプのプレイヤーだったらしい。

 タイオンこそ、コーザもその日の気分でチュートリアルに目を通したが、普段はスキップしているので人のことをとやかくは言えなかった。


「昔はソロプレイ一筋だったからな。意地でも他人に帰り道を聞かなかったんだよ。うちみたいなアホなことをしなけりゃ、3時間もあれば出られるだろうさ」


「3時間……」


 それでも想像していたよりはずっと長かったようで、セリーリアは困ったように笑っていた。


「そろそろ描画が復活するな。透明人間タイムは終了だ」

「はい」

「うちらが目指しているのは店舗だ」

「店舗?」

「ああ。普通のショップと違って、NPCじゃなくてプレイヤーが運営している」


 一瞬、考えこむようにセリーリアがこめかみに指をあてた。


「もしかして、コーザさんのお知合いですか?」

「勘がいいな。そういうことだ。無事に至高の波止場(バーナー・ドック)に着ければ、そこから町の外に出られる」

「わかりました」


 うなずくセリーリアの手を引いて、コーザは縦横無人に町中を走る。

 非戦闘エリアであれば、プレイヤーの敏捷性は関係ない。セリーリアであろうと、コーザであろうとステータスに左右されずに動ける。


「おい、あれ!」

「まさか、さっきのカーティルか?」

「妖精の瞳!」


 方々から声は聞こえて来るが、ちょっかいをかけるほどの勇気はないらしい。

 だれもコーザたちに近寄ろとはして来ない。


(ラッキーだぜ……。このまま何事もなく着いてくれよ)


 胸中で願う。

 それを知ってか知らでか。

 あざ笑うようにして、一通の電子音が響いた。

 コーザの視界に現れた表示は、決闘の申し出。


「待っていたわ、コーザ。はじまりの町(ザ・ワン)を正面から出ないなら、店舗の裏口機能を使うしかないものね。至高の波止場(バーナー・ドック)のマスターは、コーザとも古い知り合い。読むのは簡単だったわ。ここに来ることは最初からわかっていたの」


 声のした屋根を見つめる。

 ふわりと1人のアバターが地面に舞いおりた。

 フィノット。

 赤黒い帽子に、赤黒いローブ。

 全身をワインレッドで固めたアバターの職業は、見た目通りの魔女(ソーサラー)だった。


魔女(ソーサラー)ギルド……黄昏の庭(プロミネンスドア)!」

「覚えていてくれてうれしいわね。あたくしたちの目的は言わなくてもわかるでしょう? おとなしくその子を引き渡しなさい」


「おいおい、魔女(ソーサラー)限定の黄昏の庭(プロミネンスドア)様が妖精使い(ピクシー)をご所望かい? 節操がねえな」

「相手が妖精の瞳じゃ仕方ないでしょう? いいから渡しなさい。そうすれば、悪いようにはしないわ」

「やなこった」


 決闘を拒否。

 その瞬間にセリーリアの手を引いて、店舗をめがけて走り出す。

 ただちに、再戦の申し込みが届いた。

 コーザのアバターがフリーズする。


(……チッ)


 内心で舌打ち。

 さすがに、やり過ごすというのは無理があるだろうか。

 フィノットが指を鳴らす。

 親玉と似たような格好したプレイヤーが続々と現れる。

 わざわざ確かめるまでもなく、フィノットの部下だろう。部下たちが一斉に至高の波止場(バーナー・ドック)の入り口を占拠した。


「どうするの? このまま、あたくしたちはずっと至高の波止場(バーナー・ドック)を固めていてもいいのよ?」

「……マグリアーナ。お前、いつからそんな下品なやつになったんだよ」

「冗談でしょう? あたくしたちは犯罪連盟。お下品さもセールスポイントのひとつだわ」

「コーザさん……」


 不安げにセリーリアがコーザの手をつかんだ。

 安心させるように、コーザもまたセリーリアを見つめ返す。


「大丈夫だ。ほかの連中に、お前を横取りされたくはないはずだからな。こいつらだって、いつまでも至高の波止場(バーナー・ドック)を占拠しているわけにはいかない。うちが決闘を受けるなら、必ずこいつらは乗って来るよ」


 つけいる隙はそこにある。


(……。うちは無敗のコーザだぜ)


 にやりと笑ったコーザがマグリアーナに視線を向ける。

 いったい何が無敗なのか。

 それはほかでもなく、決闘であった。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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