19 新エリア/妖聖の庭園
「うちが悪かったよ、セリーリア。勝手に決めたのは謝る。このとおりだ」
コーザは頭を下げるが、セリーリアは何も言わない。
「だけど、妖精の嬢王のほうがお前には合っている。ここは妖精の瞳を持ったプレイヤーが、自分たちのために作った場所だ。お前と同じ悩みを持ったプレイヤーしか、ここにはいないんだ」
「……」
助けられた直後で、セリーリアが自分の意見を主張できるほど豪胆な性格でないことは、コーザも承知していた。
(……ちょっと、ずるいかね)
逡巡するコーザに、シュナイダーが声をかける。
「とりあえず、次のモンスターが現れると危ない。移動しないか? すぐそこに休息所がある。そこなら非戦闘エリアだ。もっとも休息所のほかには、何もないんだが……」
休息所しかなかろうと、モンスターが出現するかしないかという決定的な違いは大きい。
コーザもうなずいて、セリーリアとともに移動をはじめた。休息所の周りには、騒ぎを聞きつけてやって来たと思しきプレイヤーたちが、すでに多く集まっていた。
「見ろ、レベル1だぜ」
「信じられないわ。そんな子を本当に連れて来られるんだ……。いったいどういう腕をしているの……」
案内をおえたシュナイダーが再びコーザに声をかける。
「ここなら存分に話し合えるだろう。僕たちはどういう結論でも構わないよ。……ただ、セリーリア」
話しかけられたセリーリアが、妖精の嬢王のフィノットを見つめ返す。
「君がどういう判断をしても、僕らはいつでも君を歓迎する。それは忘れないでいてくれ」
「……ありがとうございます」
さすがに無言を貫くわけにもいかなかったのだろう。
セリーリアはぽつりとつぶやいていた。そうして、セリーリアがちらりと休息所のほうに視線を向ける。
視線に気がついたコーザが、すぐさま口を開いていた。
「休息所だな。あそこも宿泊するための施設だ。宿屋との違いは、定員制であること。泊められる人数に、上限があるんだよ。たぶん、よそから簡単に来られないように、妖精の嬢王が常に占領しているんだと思うぜ」
宿泊イベントのワープによって、思わぬ闖入者が来訪することを予防しているはずだ。
コーザが自分の推測を話せば、ご名答と言わんばかりに、ギルメンたちがうなずいている。
だが、セリーリアの聞きたかったものとは違うらしい。カーティルの関心は、休息所にはなかった。
「いえ、そうではなく……。あちらにも二重マップがあるようなので、何があるのかなと……」
セリーリアの発言に、コーザがシュナイダーの様子をうかがう。
だが、何もないと言いたげにフィノットは首を横に振っていた。
(……セリーリアのはったりか? また、脱走するつもりじゃねえだろうな……)
そうやって不審がっていれば、セリーリアはコーザの手を引いてゆっくりと歩きだす。
「ここです」
セリーリアは指で示すが、妖精の嬢王の反応は変わらない。子供のいたずらを叱るように、柔らかい笑みを見せている。
「冗談はよすんだ。何もないだろう?」
「嘘つき!」
セリーリアは叫んで手元で指を動かしていく。
その迫真の様子に、コーザはどっちを信じればいいのかわからなくなった。
まもなく、正解を告げるアナウンスが響く。
『プレイヤーによって新しいエリアが発見されました。セリーリアが妖聖の庭園の占有者になりました』
間違えるはずもない。
(二重マップ……)
それは妖精の瞳を持つプレイヤーにだけ許された、新規エリアの解放だ。
「おい、どういうことだ?」
セリーリアを疑ったことに罪の意識を覚えながらも、それ以上にコーザはシュナイダーたちに対する不信感を露骨に態度で示した。これでは妖精の嬢王が信頼に足るギルドだという、そもそもの前提が覆ってしまう。
セリーリアを預けるどころの騒ぎではない。
だが、フィノットの関心はコーザにないようだった。信じられないと言いたげに、シュナイダーはセリーリアを見返している。
「馬鹿な……」
「おいおい、演技が派手すぎるんじゃないか? お前たちには見えていたんだろう?」
しかし、なおも妖精の嬢王は首を振る。
シュナイダーだけでなく、全員があまりにも驚愕の表情を浮かべているので、さすがにコーザも判断に迷った。
(隠していたわけじゃねえ……のか?)
それならば、導かれる事実はひとつしかなくなってしまう。
「本当に……今、セリーリアが初めて……」
目を白黒させたままのシュナイダーに代わって、別のプレイヤーがコーザに応じる。
「一度、だれかが発見している二重マップなら、問題なく全員が見えるんだけど……二重マップごとに固有の条件が設定されていることもあって、全部を確かめられるわけじゃないの」
詳しい仕様を知らなかったコーザは、すぐに返事をすることができない。
「……。ずいぶんと面倒な仕掛けだな」
「ある意味では偏りを減らし、先駆者による独占を防いでいるとも言えるんだけどね。極限ダンジョンとかを特定のプレイヤーに押さえられちゃうと、みんなが困るし……」
(そりゃまあ……そうだな)
納得せざるをえない主張に、コーザも小さなうなずきをくり返した。
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