16 看破/思いもよらぬ提案
コーザは空中に浮かぶ無数の魔女の群れを見渡した。
ここは戦闘エリアだ。
上品に決闘を行うような場所ではない。
「……」
コーザがセリーリアを自分の後ろにかばう。
(煉南鳥を召喚しても、たぶん先にセリーリアがやられる……)
セリーリアを倒された時点でゲームセットだ。
敗北は必至だった。
打開策を見いだせないコーザに、マグリアーナが自分から話しかけていた。
「本当はこの場で、そのカーティルを奪うつもりだったの」
「……。だった?」
妙な言葉づかいにコーザがマグリアーナを見つめ返す。
「ええ、そうよ。あなたが中途半端に妖精使いを匿うつもりでいるのなら、今ここで魔女たちを総動員してセリーリアを奪ってやるつもりだったの。でも、気が変わったわ。出し惜しみせずに、煉南鳥まで使うくらいコーザが本気だって言うのなら、諦めてあげる。今から職業を魔女に変えさせるのも、どうかと思っていたところだしね」
宿泊イベントは強制だ。
処分できるアイテムもない場合には、経験値を吐き出すことになる。これを逆用したのがレベルダウンで、応用すれば職業選択までならやりなおせる。
だが、これはあまり実用的ではない。
「何が目的だ?」
とてもではないが、コーザには信じられなかった。
目的のためならば、平気で他のプレイヤーにまで被害を及ぼすのが魔女ギルドだ。
狙った獲物を前にして、こんな簡単に手を引くとは思えない。
「別に何も。あたくしこそ、どうしてあなたがこの子に、そんなに固執しているのかが知りたいわ」
目的を話すだけで見逃してくれるのなら安いものだと、コーザは正直に話す。
「前にも言ったろう? うちはただセリーリアを、この世界で生きていけるようにしたいだけだ」
「……。それってきっと、あなたが考えているよりもずっと大変なことよ。ちゃんとわかっている?」
「一応、そのつもりだぜ」
「……そう。わかっているのなら、それでいいわ。その子も、もうだいぶコーザに懐いちゃっているようだしね。今からじゃどのみち、使い物になんないわ」
コーザの洋服をぎゅっとつかんでいるセリーリアを、珍しくマグリアーナが優しげに見守っていた。
「おっ、ありゃ噂の妖精の瞳じゃねえか? ラッキーだな、売ればいい金になる」
マグリアーナと話すコーザたちのもとに、黄昏の庭よりも下品なプレイヤーたちが現れる。
「魔女もいるじゃねえか。どうだ? 俺たちと共闘しねえか? 分け前は3割でいいだろう? 俺たちが7割な」
ぎゃははと、野卑な笑いが聞こえて来る。
まるでカモがいないか探し回っていたら、偶然見つけたと言わんばかりだ。
事実、そのとおりなのだろう。
唯蛾は黄昏の庭と同じく犯罪連盟だが、行動に統一感のないせいで、本当にただの迷惑なプレイヤー集団と化していた。
空を漂うマグリアーナが、心底どうでもよさそうにプレイヤーを睥睨する。
「身の程を知らぬ馬鹿ばかり……。ミライカ」
「はい」
マグリアーナの指示で、魔女たちが一斉に《星に願いを》を発動する。
すさまじい詠唱の数だ。
地上に降り注ぐ隕石の群れ。
続々とプレイヤーがリスポーン地点に飛ばされていくのが、地上のコーザにもはっきりと見えた。
「ここはあたくしたちが引き受けましょう。無敗のコーザに貸しを作るのも悪くないわ」
「信じていいんだろうな」
「貸しだと言っているでしょう? 返してもらうわよ」
『マグリアーナがパーティーへの加入を求めています。これを許可しますか?』
まだ話はおわっていないということなのだろう。
悩んだ末に許可を出す。
コーザはうなずいて、セリーリアの手を取っていた。
「……」
少し目線を横に向ければ、唯蛾のメンバーが次々に殺されていっている。
魔女の本領発揮。
得意としている大規模飽和攻撃だった。
(洒落になっていねえぞ……)
本来はあれを相手にしていなければならなかったのかと思うと、ぞっとする。
妖精の森はもうすぐだ。
そこにいけば、妖精の嬢王というギルドがある。
大部分のプレイヤーが妖精使いで結成されたギルドだ。その主義主張は、タイオンにおける妖精使いたちの正当な自由と権利の保障にある。
(そこに行けば、間違いなくセリーリアは保護してもらえる……)
コーザの視界に現れる表示。
パーティーメンバーであるマグリアーナからのメッセージだった。
『単にその子を、妖精の嬢王に預ければいいとか考えているのなら、今度こそ本気で奪うわよ』
看破されている。
姝醜の都の東には妖精の森があるのだ。コーザがどこへ行こうとしているのか、見通すのは難しくなかったのだろう。
(構やしねえよ……)
だが、いくらあまたのギルドを壊滅させた黄昏の庭とはいえ、妖精の嬢王を滅ぼすことはできないだろうと、コーザはあまり注意を払わない。
(うち1人で守るより、そのほうが絶対に安全なんだ)
コーザは首を横に振って、妖精の森までの道を急いだ。
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