15 食事/再会
宿泊イベントの終了に伴い、コーザは覚醒を促された。
寝たのは、たった10分だけだったが、平時は睡眠補助を使っている。これだけのショートスリーピングでも問題ない。
セリーリアとの合流。
自分を探していたような様子もないため、あのまま外の光景を見ていたのだろう。
「急にいなくなって悪かった」
「いえ、全然大丈夫です」
「パーティーを組みなおすぞ」
どのみち、コーザがパーティーを解除せずとも、宿泊イベントの終了時にパーティーから脱退させられる。
2人とも抜けるということは、パーティーの解散と同義だ。
(やっぱ、一度時刻を合わせていると便利だわね)
パーティーの申請。
少しはタイオンの世界にも慣れて来たようで、心なしかセリーリアの手つきも素早くなっている気がした。
「うちらが目指すのは東部にある妖精の森だ」
「はい!」
「その前にアバターを軽く整えるか……」
さすがに初期アバター感丸出しのカーティルを、連れて歩きたくはない。
裏道からショップに立ち寄って、セリーリアの見た目を軽く変更する。ついでに、コーザも黒髪を茶髪に変え、髪形をポニーテールに変更した。
プレイヤー名はどうしようもないので、どちらも気休めにしかならないだろう。
町を出る。
再び《脱獄の共犯者》を使用して、東に向かってセリーリアと走った。
「怖くないか?」
手をつないでいるとはいえ、夜の草原を走らせているのだ。足元が不安になるはずだろうと、コーザはセリーリアに尋ねる。
「いえ、コーザさんがいてくれるので」
露骨な好意に、うれしさよりも心配が勝る。
「……。そうかい、しっかりつかまってな」
そこから3時間移動したあたりで、自分の手を握るセリーリアの力が、次第に弱まって来た。
「す、すみません」
「いや、うちこそ急かしすぎた。そろそろ休憩にしよう。宿泊イベントのおかげで、だいぶ距離も稼げたからな。今度こそ安心して眠ってくれ」
再びシェルターテントをセリーリアに渡す。
一緒にランタンもプレゼントし、明るさを自分で調節してもらう。
横になったセリーリアが、まもなく寝息を立てていた。
(うちも寝るか。いや……最後くらい、こういう贅沢な時間の使い方も悪くない)
焚火を組んで、一応、周囲を警戒しつつ、夜が明けるのを待った。
そろそろではないかという頃合いを見計らって、コーザは朝食の用意をする。
芋、根菜、ケアロナとメニューに代わり映えはない。
「ん……」
小さな寝言をつぶやいて、セリーリアがもぞもぞと動きだす。
やがてパチリと目を開けた。
宿泊イベントのような覚醒補助がないにもかかわらず、目覚めがいいようだ。
(……)
自分とは違う頭の作りに、コーザは少しだけセリーリアを羨んだ。
「お、おはようございます……」
「よく眠れたか」
「おかげさまで」
それはよかったと言わんばかりに、コーザはうなずいて焚火のほうに手をやって示す。
「うちの手製で申し訳ないが、朝食の用意をしてある。一緒に食おうぜ」
「はい、ありがとうございます」
セリーリアがシェルターテントを這いだす。
消えてしまうアイテムに、ちょっとだけもったいなさそうにするのは、前回と変わらない。
苦笑したコーザがセリーリアにスープを手渡した。
「まずいだろ? 味覚を切っていると、全部豆腐みたいな味になるんだよ」
ペアロックのために、セリーリアの味覚センサーもオフだ。
「あたし、お豆腐好きですよ」
「そりゃ、うちは助かるけどよ……」
スープを掻きこむコーザに、セリーリアが視線を向ける。
見れば、セリーリアは上品にスープを飲んでいた。
「……悪いな、残念な育ちで」
「いえ、お腹が空いていたんだなって思って……。待たせちゃいましたか?」
「まさか。空腹だったら、勝手に作って食っているさ。味わうほどのものじゃないから、そうしているだけだ」
「ふふ……」
セリーリアがおかしそうに笑う。
そして、そこでようやく自分の周りの景色に気がついたらしい。
背後には花畑があるのだ。
「うわぁ!」
水色・白色・桃色の入り乱れた花弁は、ゲームの世界ならではの幻想的な光景だった。
だが、その実態は愛でるようなものではない。そのことは、コーザが注意を促すよりも前に、セリーリア自身も気がついたようだった。
「これって魂花ですか?」
「ああ、そうだ。野生の群生地だな。踏んだり、攻撃したりして壊しても曜日が変わるから、くれぐれも気をつけろよ。採取してみたいなら、慎重にやって――」
セリーリアに注意しながら、コーザはその可能性に気がついてしまった。
マグリアーナたちと交わした約束を思い返す。
ほかでもなく、それは宿泊イベントを2回こなすまでの、コーザたちへの接触禁止だ。
(少なくとも7日以上は、マグリアーナたちはうちらに接近できないはずだった! だけど――)
自分自身のイベント時刻を変更する方法はいくつか知られている。
代表的なものはパーティーを組んだときの共通化。
そして、もうひとつがコーザたちも用いた魂花の使用だ。
もちろん、コーザはどちらもマグリアーナたちが使えないように制約をかけてある。
(しまったぜ! 魂花の破壊までは禁止してねえ!)
自分のミスだった。
今しがた話したように、野生の魂花を破壊しても曜日は進む。そして、それはアイテムを消費した扱いではない。
「セリーリア、悪い! うちがへまをしでかした。急いで移動するぞ!」
ひょっとしたら、黄昏の庭はコーザの過失に気がついていないかもしれない。
だが、マグリアーナがそこまで気が回らないと、楽観的に考えることはできなかった。
「は、はい!」
コーザに急かされ、セリーリアも慌てて食事を食べおえる。
だが、すべては手遅れだったのだ。
「ねえ、コーザ。だから、あたくしは言ったでしょう? また会えるって」
空中より落とされる蠱惑的な声。
わかっていても相手を確かめずにはいられない。
空を見上げる。
「――ッ」
(マジ……かよ)
そこには、魔女ギルドのリーダーが嫣然と空を漂っていた。
今度は支部の人員までもを引き連れて来ている。
タイオンの魔女が全員揃ったのではないかと思えるほど、その光景は絶望的だった。
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