13 魂花/宿泊イベント
それから30分ほど走ったとき、コーザたちは目的の場所に到着していた。
「ここが……目的地ですか? あたしには何も見えないのですが……」
セリーリアが困惑したように話す。
無理もない。
いまだコーザたちがいるのは森の中であり、目の前には、建造物などの目印にあたるものさえ存在しないからだ。
セリーリアからすれば、1分前の光景と何も変わっていなかった。
だが、コーザは力強いうなずきをもって答える。
「そうだ。この地点がちょうど、最も目的の宿屋に近い距離なんだよ」
「はあ……?」
とまどいながらも首肯するセリーリアに、コーザはアイテムを渡していく。
「魂花?」
受け取った道具の名前を、セリーリアは読み上げる。
「ああ、プレイヤー側の時刻を進めるアイテムだな」
コーザたちの時刻設定は13:42。
タイオンでは一定の間隔で宿屋に止まらなければならない。これを怠っていると、7日置きに強制的に宿屋へ泊まるというイベントが発生する。
通称、宿泊イベントである。
「これを使えばいいんですか?」
「ああ、そうだ。うちらの日付は2日目だからな。合計で5個使えばいい」
「2日目? あたしまだ、ログインしたばっかりなんですけど……」
コーザの奇妙な発言に、セリーリアが目を丸くする。
「それはパーティーを組むときに、うちのに合わせちまっているからだな」
「……???」
コーザはログインしてまだ2日しか経過していないのかと、セリーリアが訝しむ。
どうにも余計に混乱させてしまったらしい。
「ああっと……。1週間サイクルだと思ってくれ。今は火曜日だ。魂花を使うと、曜日を変えられる。日曜日にしたいんだ」
「な、なるほど」
宿泊イベントが起こるのは、決まって7日目の21:00である。
イベント時刻を進めることのできる魂花を使えば、無理やり宿泊イベントを起こすことも可能なのだ。
戦闘エリアにいるときに宿泊イベントが起きた場合、直近で宿泊した宿屋に強制的に転移させられる。
では、セリーリアのようにそもそも宿屋に泊まったことがない場合は、どうなるのか?
(最寄りの宿屋にワープする。ちょうどうちらは今、最寄りの宿屋がはじまりの町から中北部の都に変更されたってわけよ)
宿泊イベントを無理やり起動できるのはマグリアーナたちも同じだが、決闘での賭けにコーザは魂花の使用禁止を盛り込んでいた。
相手はこの方法で接触禁止の期間を縮めることはできない。
最初から、宿泊イベントを使って移動するつもりだったからこそ、コーザに抜かりはなかった。
コーザの視界に現れる表示。
『パーティーメンバーの催時が変更されました。速やかに、パーティーを解除するか、催時を再調整してください。残り猶予10秒』
セリーリアが魂花を使用したのに合わせ、コーザも魂花を使用する。
宿泊イベントしかり、イベント時刻をトリガーに起動する出来事もタイオンには数多く存在するため、魂花は他人に使うことはできない。自己使用限定のアイテムだ。
数回もくり返せば、コーザの狙っていたイベントが出現していた。
『あなたはしばらくの間、宿屋に宿泊していないようです。宿屋に泊まりましょう!』
拒否するコマンドは存在しない。
例外的に、長期に渡っての攻略を必要とするダンジョンなどでは、宿泊イベントを後回しにできるが、それも後回しにできるだけで、逃れられるわけじゃない。ダンジョンから出た瞬間に宿泊イベントが挿入される徹底ぶりだ。
放置していれば数秒後には、最寄りの宿屋がある中北部の都にコーザたちは到着していた。
そのまま宿屋に連行される。
「いらっしゃいませ、ようこそ愛花の枕へ」
微妙にいかがわしい名前にも聞こえるが、ここが花の都だからであって他意はないはずだった。
「お泊まりですね。おや、あなたは残金が不足しているようです。持ち物を処分なさいますか? それとも、お連れ様が支払いますか?」
タイオンにおける最大の違いは、宿屋の料金だ。はじまりの町こそ手加減されているが、それ以外では相応の金額を要求される。
(愛花の枕は1泊4万6000G……。2人で約9万Gか)
コーザの所持金は約1億4000万G。
それをセリーリアの旅で全部使うつもりでいるのだから、そのうちの9万など痛くもかゆくもない。
「もちろん、うちが払うさ」
「セリーリア様は当店のご利用が初めてですね。よろしければ、心行くまでお楽しみください」
宿泊に恒例の初回限定イベントだ。
自分の泊まっている部屋から景色を覗いたり、入浴したりすることができる。
「楽しんで来な。宿屋は泊まった時点で1時間きっかり出られないからな。心配しなくても置いていったりしねえよ」
だからこそ、通常は入眠補助機能を使って、強制的に寝落ちする。
「コーザさんは一緒じゃないんですか?」
「うちは初めてじゃないからな」
「そう……ですか」
心なしか、寂しそうに話すセリーリアを見て、コーザはとまどった。
視界には、今もなおコーザに選択を問う表示があったからだ。
『スタンプ・ローラーを使って初回イベントをもう一度見ますか?』
使えばもちろんセリーリアとともに行ける。
(……。どうしたもんかね)
さんざん迷った挙句、コーザはアイテムを消費することにしていた。
「……ああ、悪い。セリーリア、うちも初めてだったみたいだ」
「あっ、よかったです」
本当にコーザが初回であったならば、セリーリアとは違ってコーザは別の宿屋に飛ばされている。
もちろん、これまでに泊まったすべての宿屋の履歴を消せば実現は可能だが、それだけの量のスタンプ・ローラーは携帯できない。
セリーリアの無知につけこんだ嘘だが、このくらいは真実を知ったあとでも許してくれるだろう。
自分に柔らかい笑みを送るセリーリアに、コーザは温かい気持ちになっていた。
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