12 荷馬車/強制移動
ほどなくして、シェルターテントのほうから、すやすやとした寝息が聞こえて来る。
セリーリアのアバターに、かぶさるようにして上から出ている表示はAFKだ。
(寝たみたいだな)
セリーリアに話したほど、時間的な余裕はない。
コーザたちが中央大森林に向かったことは、もう大勢のプレイヤーに知られているだろう。
下手をしたら先回りされる恐れがある。
セリーリアが寝ている間にも、距離を稼ぐ必要があった。
(シェルターテントは無敵だが、パーティーメンバーによる強制移動は有効なんだよな……)
立ち上がったコーザが、セリーリアのそばに寄る。
そうしてアイテムボックスから、牽引用の荷馬車を取り出した。
テントを荷台の上に乗せてから、中央大森林の中を再び移動しはじめる。
「ご主人……」
ほどなくして、声がかかる。
斥候として出していた使い魔が戻って来たのだ。セリーリアの付近には、モンスターがいなくなったという判断だろう。
(戻って来たのは3人か……)
狐嫽人が中ランクの使い魔とはいえ、今いる場所の難度を思い知らされる。
セリーリアのHPが全損した時点でゲームセットだ。身代わり系のアイテムはダンジョン内でしか効果がないため、はじまりの町からのやりなおしになる。
次はもう、町から外にセリーリアを連れ出せないだろう。
「よくやってくれた。今度はこの荷馬車を護衛してくれ」
労いの言葉をかけ、コーザは次の命令を出す。
荷馬車の移動はゆっくりだが、ないよりは遥かにマシだった。
(今のうちに、次の仕掛けの準備をするか)
コーザが取り出したのは、スタンプ・ローラー。
宿屋から自分の宿泊履歴を消すという高級品だ。
本来の使い道は、特定のイベントをもう一度鑑賞したり、報酬を得たりするためのものだが、もちろんコーザがやろうとしているのは違う。
10個以上のアイテムを消費して、どうにか自分の環境を整えた。
(これでよし……と)
そうして1時間ほど進んだときだろうか。
パーティーメンバーの復帰を知らせる通知が、コーザのもとに届いた。セリーリアが起きたのだ。
「うわぁ」
馬車の荷台に乗せられていることに気がついたセリーリアが、小さな悲鳴を上げる。
「悪い、脅かしたか?」
3人の狐嫽人も一斉に、セリーリアを心配そうに見つめる。
「い、いえ……。こちらの方たちは?」
シェルターテントから這い出して来たセリーリアが、狐嫽人に関心を示す。
大泥棒たちに追われているときは、よく見ている暇などなかったので、今さらなのは仕方ない。
「初めまして。手前どもに名前はありません。お好きなようにお呼びください」
狐嫽人は名前のとおり狐の化身だ。
巫女装束を思わせる紅白の衣装を身にまとい、いかにも和風な感じではあるが、毛の色は珊瑚色と少々現実離れしたピンク系である。
セリーリアの背後で、シェルターテントが音を立てて消えた。
「あっ……」
名残惜しそうにセリーリアがつぶやくのを見て、コーザは補足する。
「消費アイテムってのは、そういうもんだからな。気にするな、ほしけりゃまたやるよ」
なんとも言えない表情でセリーリアがうなずいている。
もったいなかっただけで、ほしいわけじゃないと言いたげだった。
だが、セリーリアも口に出してまでは主張しない。
セリーリアが荷台から降りたのを確認して、コーザも荷馬車を破棄する。高級品ではないため、荷馬車は使い捨てだった。
「もう少しで、当座の目標地点に到着だ。頑張れそうか?」
「はい!」
元気にうなずくセリーリアの手を取って、コーザが再び走りだす。
今のコーザよりも、狐嫽人のほうが敏捷性は高い。
先行させ、露払いの役目を任す。
今度は手当たり次第ではなく、直進させるだけだ。障害物の排除が主な仕事だった。
(あとちょっとだが、使い魔は追加しておくべきかね……)
一瞬、悩むコーザだが、すぐに首を振って考えを改める。
(こんなところで凡ミスするほうが、よっぽど無駄だわな)
すぐさま、アイテムを取り出し、使い魔を召喚する。
狐嫽人は在庫切れだ。
犬をモデルにした人型の護法。
当然、こちらも高級品である。本来は、おいそれと気軽に消費するようなものではない。
「その場で待機。プレイヤー名コーザ・セリーリア以外のプレイヤーを感知したら、そいつを殺せ」
「かしこまりました。ご武運を」
頭を下げて見送る使い魔に、複雑そうな視線を向けつつも、セリーリアは手を引かれるままにコーザと走った。
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