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11 調理/救っているのはどちらか

 コーザは無言で昼飯の準備に取りかかった。

 芋と根菜に、ケアロナという香味野菜を入れただけの簡単なスープだ。

 調理をするコーザの手元に、セリーリアの視線が注がれる。


「眠れないのか?」

「体は疲れていると思うんですが、なんだか目が冴えてしまって」

「それなら――」


 入眠を補助する機能があるぞ。

 そう言いかけて、コーザは口を止める。

 さっきの今でこれはない。

 また失言を重ねるところだった。


「飯でもいっしょに食うか? もっとも、うちの腕じゃまずいものしか作れないがな」


 コーザは調理スキルを上げていないため、美味しい料理を作ることも、料理の美味しさを感じることもできない。


「いえ、お腹は空いていないです……」

「そうか。外が明るいからかもな。テント内に遮光モードがあるから、それで明るさを調整するといい」


 セリーリアは首を振って、明るいままでいいことを主張した。


「暗いと、どうしようもなく不安になって眠れなくなるんです」

「……。明るくする機能はなかったな。今度、運営に要望を出しておこう」


 コーザの冗談にセリーリアが小さく笑う。

 できあがったばかりのスープを、コーザはゆっくりとすすった。

 味覚を切っているため、味はデフォルトの味付けで固定だ。

 ただ、熱さは感じられるので、適度に冷ましながら飲む。

 アバターの冷熱センサーもオフにできるが、そこまでしてしまうと人間味が薄れるので、コーザはセンサーを入れたままだ。


(空腹の機能だってオフにしようと思えばできるしな……。やりすぎだと思うが)


 たしか知り合いの戦闘狂が、500時間くらいぶっ続けでバトルに励んでいたなと、コーザは思い出して呆れてしまった。


「コーザさんは眠くないんですか?」

「まあ、そうだな。それに睡眠補助機能を使うと、寝ながらも起きてられるんだよ」

「そう……なんですか」


 内容が内容なだけに、その機能はペアロックの対象外だ。なので、セリーリアへの影響はない。


「話していたほうが気が紛れるってんなら、なんか話すか?」

「ありがとうございます。でも、いいんですか? 急がないといけないんじゃ……」

「しばらく時間を稼いだからな。全然、平気さ」


 てっきり、セリーリアの話を聞くつもりでかけた言葉なのだが、いつまで経っても、セリーリアは一向に話をしようとしない。


(うちの話か? うちの話を待っているのか? うちの身の上話なんか聞いても、なんも面白くねえよ……)


 内心で泣きそうになりながら、どうにかコーザは話題を探す。


「ああ……なんだ、その。お前の決闘での掛け声は、独特だったな」


(いじってどうする!)


 自己嫌悪にかられるコーザだったが、意外にもセリーリアのほうはそうではないらしい。


「ある曲の説明欄にあるんです。合成音声の……」


 現実世界の話をするのはマナー違反だが、それを咎めようとはコーザも思っていない。


「ああっと……ボーカリーダー?」

「ZUSAMUです。百音(ももね)……」

「ああ、すまん。うち音楽、嫌いなんだ。説明されてもわからん」


 コーザの連れない返事に、セリーリアは寂しそうに笑って押し黙る。


「そう……なんですね、ごめんなさい」


 沈黙に耐えきれず、コーザは再び口を開く。


「……。……誰の曲だ?」

「クラゲワックスさんです。死にたいときは、いつもその人の曲を聞いていました」

「……今度、その曲を教えてくれ」

「よく聞いていたのは、別の曲で『四重苦推進論』です。優しい曲ですよ」


 曲名からは想像できない感想に、コーザは反応に困ってしまう。


「音楽が好きなのか?」

「音楽がーーというより、その世界に浸って、ほかの事柄から逃げられるところが好きです。……久しぶりにまた聞きたいな」


「まだ死にた……」


 口にしてから、それが失言だと気がついた。


(……)


 だが、今度はごまかすをことをしない。

 せめて自分といるときが、ちょっとだけ楽しい瞬間であってほしい。自分と良い方向で関わったプレイヤーは、セリーリアが見納めになる。カーティルだけに絞るなら100%セリーリアだろう。


 だからこそ、自分もセリーリアと大差ないことを、コーザは白状していた。


「まあ、うちも大概か。うちだけじゃない……。体感時間が無限なんていう馬鹿みたいな機能をつけてまで、タイオンをはじめたやつらは漏れなく自殺志願者だろうよ」


「……。死にたくてはじめたんです。それなのに、つづきかあるってわかったら、なんだか怖くなって来ちゃった。あたしって、すっごく自分勝手……」


 間を置くために、コーザは一度スープを口にしてから返事した。


「そうか……。現実で生きているより、こっちのほうがマシだと思えたならよかったじゃねえか。これからはずっとタイオンがお前の現実だよ。あっちのことなんかもう忘れちまいな」


「でも、ゲームなんてしているのが親にバレたら、今度こそきっと殺されちゃう……。今のあたしじゃ首を絞められていても分かんないですよ」


「……。セリーリア、お前ログインしたの何時だ?」

「えっ?」


 脈絡のない質問。

 セリーリアが目を丸くしてコーザに尋ね返す。


「設定⇒アカウント⇒ログイン時間の順に表示させてみな」


 指示された順番で、セリーリアが寝転がりながら画面を切り替える。


「23:06です」

「そうか。うちもだよ」

「……そんな」

「大マジだ。うちはタイオンで、ざっともう20年くらい生活している。仮にお前の親が、お前を殺しに来るのが5分後の23:11だとしよう。単純計算でも、あと100年はここで暮らせるぞ」


「……」


「それにたぶん、うちなんかよりお前のほうがよっぽどマシだぜ。うちがタイオンをはじめた理由なんて、バイトに行きたくなかったからだしな」


 コーザが自嘲気味に話せば、セリーリアは穏やかな顔でコーザを見返していた。


「優しいんですね……」

「……」


 初めてだれかに自分を褒められた気がした。

 タイオン以外の特徴を。

 ここはやりこめばやりこんだだけ、だれでもが恩恵を得られる世界だ。

 それはコーザの努力かもしれないが、自分のアイデンティティーではない。

 セリーリアを慰めたつもりだったのに、気がつけば、自分のほうが救われている。無性に泣きそうだった。


 ごまかすようにコーザは早口で告げる。


「とにかくだ。うちよりも若いやつが死にたくなるようなら、お前がダメなんじゃなくて、現実がどうしようもねえんだ。逃げたお前は正しいよ」


 セリーリアは何も言わない。

 コーザに背を向けて横になっている。

 それが寝顔を見られたくないからではなく、コーザの表情を見ないようにするための配慮だということに気がつけないほど、コーザは愚か者ではなかった。


(何をやっているんだ、うちは……)


 コーザはまた顔に手をやっていた。

 よっぽどこの子のほうが、自分より大人だと思った。

 人を導く資格があるとも思った。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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