1 妖精の瞳/守るべきアカウント
ギルドの酒場でコーザはビールを飲んでいた。
酩酊の機能は切っているので、酔っぱらうことはない。
あくまでも、味と雰囲気を楽しんでいるだけだ。
「……」
プレイヤーの多い賑やかな酒場だが、それでも近くの話し声であれば問題なく聞き取れる。
いや、聞こうとしなくても聞こえてしまうというほうが正確な表現だった。
「このゲームは気に入っているが、見た目はダメだな」
「おい、言葉に気をつけろよ。俺たちからすれば、ここは現実だろう? 『ゲーム』なんて言い方をするな」
「わ、悪い……」
迂闊な発言をしたプレイヤーが、恐るおそる辺りをうかがっている。
幸いなことに、コーザ以外に2人の会話を聞いている者はいないようだ。
「それで何がダメだって?」
「見た目だよ、見た目。俺は髪の長いアバターがよかったんだ」
言いながら、そのプレイヤーは自分の前髪を持ちあげていた。
「短髪のメルリオじゃ嫌だってか? 髪の長さなんて、どっちだっていいだろ」
タイムストップ・オンライン――タイオンの世界には、一部のNPCを除いて性別が設定されていない。
アバターに設けられた違いは、髪の長さだけだ。
「よくねえよ。長髪のほうが、できる格好が多いじゃねえか」
愚痴っていたメルリオの視線が、いつの間にかコーザに注がれていた。
(悪いね、うちはフィノットで……)
心の中で謝って、コーザは何食わぬ顔でビールを口にした。
響く公開アナウンスの無機質な声。
『新たなプレイヤーがログインされました。歓迎してください』
新規プレイヤーの出現を知らせるものだった。
(そろそろ行くか……)
黒い長髪をなびかせながら、コーザは酒場をあとにする。
コーザの目的はアカウントを助けることだ。
それはビギナーを一人前にするということにほかならない。
「露店通りだよな、やっぱ」
はじまりの町で初心者が陥りがちなミスは、武器の性能を強化しようと、武器屋や鍛冶屋に向かうことだ。
チュートリアルでは、はじまりの町以外のショップを使うように忠告されるが、ここに注意を払っていなかったり、あるいは、そもそもチュートリアルをスキップしたりしているプレイヤーが多い。
コーザが武器屋方面に足を伸ばす。
はじまりの町の有する露店通りは、いかにも入りたくなる構造をしているが、ここは見た目に反して一方通行だ。
迂闊に入ると迷子になる。
「いたいた」
さっそく、迷っているプレイヤーの姿を見つけた。
レアリティーの低い装備。
まず間違いなく、ビギナーだろう。
助けたいアカウントにこだわりはない。遠目から、この子にするかと決めて近づくコーザだったが、その前に別のプレイヤーがビギナーに接触していた。
(おっと、同業者か……)
はじまりの町には、コーザ以外にも上級者の姿が見える。
律儀にレクチャーをしているあたり、不埒な輩ではないようだ。放っておいても平気だろう。
もちろん、彼らが善意でレクチャーしているわけではないことも事実だ。
本当に狙っているのはビギナーじゃない。
妖精の瞳だ。
(あの様子じゃ、今日はここにいてもやることがないな……)
場所を移す。
再び公開アナウンスの声が響いた。
『新たなプレイヤーがログインされました。歓迎してください。妖精の瞳を持つプレイヤーが現れました。カーティルのプレイヤーが現れました』
先ほどに比べて、顕著に情報が多い。
「おいおい……」
思わず、コーザは胸中でため息をつく。
(ただでさえ需要過多な妖精使いに、おまけにカーティルだ? 盛りすぎだろ)
タイオンのアバターは、短髪のメルリオか長髪のフィノットが基本だ。実際に、酒場で愚痴っていたのはメルリオであり、ほかでもなくコーザがフィノットである。
ただし、極稀に例外的な見た目を持つプレイヤーもある。
半分短髪、半分長髪のアバター。すなわち、カーティルだ。
当たり前だが、これらは自分で選ぶことができない。
妖精使いと同様、カーティルの存在も公開アナウンスの対象だ。どういう理由でかは知らないが、珍しいものは全部プレイヤーに告知する方針らしい。
(一息でアナウンスされた以上、このアカウントが職業妖精使いのカーティルで間違いない)
不正を疑いたくなるほどのレアリティーだった。
「こいつはダメだな……。うちの手には負えん」
ただでさえ、見た目の違うカーティルは悪目立ちする。
それが妖精の瞳を持っているともなれば、ごたごたに巻きこまれるのは明白だった。
「わざわざ自分から、面倒ごとに首を突っこまなくてもいいわな」
コーザがその場から離れていく。
ほかに初心者が立ち寄りそうなところと言えば、狩場くらいだろうか。
そちらへ向かおう。
歩くコーザの前にまばゆい閃光が発される。
「――ッ」
まぶしさに目を細め、思わず手を目元にやった。
白色の発光はログインを知らせるものだ。
次第に弱まる光に、閉じていた目を開く。
視界に映ったのは当然1人のアバターだ。
(……冗談だろ?)
桃色の髪。
半分だけ結わえられた髪が、サイドテールとして綺麗にまとまっている。
(カーティルの髪型はデフォルトがサイドテールだ……)
間違いなく、それは今しがたアナウンスされたばかりの妖精使いだった。
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