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「本当にそんな人が私とお話ししていてもいいんですか!」
マリアネは相手が分かった以上、態度を改めざるを得なくなってしまう。先ほどまでの安心感が、即座に緊張感へと塗り替えられる。
『光の使い』。それは人類の希望を背負い、幾度も難関に立ち向かう勇者だけがなれる伝説の存在。マリアネが仮に戦いを好む性格で、今、目の前にいる勇者と一戦交えたとしても、決着すらつくか怪しいところである。
しかし男は、怯えるマリアネに優しく言った。
「警戒するなって。言っただろ。君とは戦わないって。俺は悪と戦う。けど、悪になるつもりのない者とは戦わない。不朽の栄光ってのは、悪から世界を守る。そのために結成され、代々引き継がれてきたんだ。君と戦う理由なんてないんだ」
「で、でも私の存在は……」
「君は平和を乱すような『魔王』じゃない。……世界の平和を乱す奴は許さないさ。でも、戦う前にまず話し合う。それで済むなら、それが一番いいに決まってるだろ?」
確かに話し合いで解決するのならそれに越した事はない。誰も傷つかず、話し合いで解決する、それはマリアネが常に望んできた事。
「俺は何も傷つけない、何も殺さない、殺させない。そんな平和を望んでいる。困っている人がいるならもちろん助ける。例えそれが、人間にとって最大の敵である、君のような魔族、魔王だとしてもね。俺の仲間とか、他の人たちに聞いたらいい返事は返ってこないと思うけど……それでも俺はそんな世界を望んでいるんだ。魔族とさえ共生できる世界を……ね」
「……いい考えです。私もそんな世界で過ごしてみたい。過ごしてみたかった」
「そうか、やっぱり君も変わってるな、俺みたいに」
勇者は少し困ったように、けれどとても嬉しそうに小声で笑い始めた。それにつられるように、マリアネもクスクスと笑いだす。互いの立場の異様さと、目の前の相手が最大の敵であるはずなのに自分と一番近い考えを持っているという馬鹿馬鹿しさ。何かがおかしくなったように、変わり者同士で二人はしばらく笑う。
もし第三者がこの光景を目にしたら、非現実的すぎて目を疑うだろう。この世界の勇者と呼ばれる存在と、世界の支配者である魔王が一緒に会話をして微笑みあっているのだから。
「さて、もうそろそろ行くから。仲間に怒られちゃう。魔王と話してたなんて言ったらただじゃすまねえからな俺。ハハッ」
「あ、ついまた話が長くなっちゃいました。私も……帰ります」
マリアネは勇者に、今できる精一杯の敬意を込めて大きく一礼し、軽やかにその場を飛び去った。
その姿が空の彼方まで、小さく見えなくなるまで、勇者は手を振り続けた。
「本当に魔王、ねえ……。まさかあんな魔王がいたとはな、本当に変わりもんだ。……こりゃ、もし仲間に魔王と茶飲み話してたなんてバレたら、本気でギタギタにされそうだ……。いや、それどころか勇者剥奪、下手すりゃ処刑か……!?」
そう一人で呟いた勇者であった。




