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全てはミライの笑顔のために  作者: アベル
魔界王第二位 編

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11(4)

 任務を遂行する度胸など、とうにすり減ってしまった。

 いっそ、考えるのをやめてしまおうか。残された二週間、ただ穏やかに時が過ぎるのを待ち、静かに処分を受け入れる……。自分が消えれば、誰も傷つけずに済むのだから。

 死ぬのはもちろん怖い……だが、自分が死ぬ事によって相手は生きる事ができるのだからそれに越した事はない。


(なぜ……魔族と他種族は争わなければならないのか……。誰とでも平和に過ごしていけるそんな世界さえあれば……きっと素晴らしい世界ができるはずなのに……なんで魔族は……)


 木のもとで丸くなりながらそう考える。乾いた風が草原を撫で、彼女の『尖った』耳を冷たくかすめていく。端から見たら捨てられた子のようにも見える。

 そんな姿を見て放っておけなかったのか、道を歩いてきた一人の若い人間の男が彼女に近付いた。


「やあ。こんな道端でどうしたんだい? 座り込んじゃって」

「……?」


 マリアネは頭を上げ、男の顔を見上げる。

 年齢はだいたい二十代ぐらいだろうか、男は心配そうにマリアネに話しかけてきた。

 少し派手な衣類を着ており、この草原地帯では非常に際立つ服装だ。無論、マリアネも同じだが。

 一体誰だろうか。

 だが、男の服装をまじまじと見つめるうち、マリアネはある一点に気づく。その瞬間、先ほどまでの悩みなど空の彼方へ吹き飛ぶほどの戦慄がマリアネを貫き、思わず目を見開いた。

 マリアネは男の胸元に注目した。そこにはある勲章が服につけられている。枠に剣と盾、そして杖がバランスよくデザインされている勲章だ。それはただ者ではない証拠である。

 その意匠を見た瞬間、マリアネの脳裏にかつて大魔王に教えられた言葉が消えない烙印のように浮かび上がった。


『いいかマリアネ。世界には我々の敵など何百万といる。この勲章をみよ。これはかつて、私に挑んだ英雄の遺物だ。こやつらは……あの忌々しき『光の使者』……。すなわち、魔に打ち勝つために生まれた害虫ども。しかし、気に留めよ。この害虫はただ者ではない。なにせ、人間界に降り立ちし忌々しき五神ゆえに……』


 なにより、この勲章を付けていると言う事は────


「その勲章……まさか『不朽の栄光』……ですか……⁉」

「え? あ、ああよく分かったね。物知りな事だ」


 男が軽く笑うが、マリアネは笑えなかった。


(不朽の栄光。その名前を知らない魔族はいない。魔界王にとってのカウンターギルド。炎、水・氷、風、土の四神の力を受け継ぐ者たちを束ね、ギルドの頂点に立つのが『光の使い』……!)


 不朽の栄光は主にグランディール国や地方の守護、各地の平和のために働く、国に認められしギルドだ。

 誰が生み出したかも分からない世界の謎だが、この世には魔法があり、その技の性質は六つに分けられる。

 ────情熱と破壊の『炎』、慈悲と清廉の『水・氷』、自由と変革の『風』、豊穣と守護の『土』────これらはかつてグランドシオルを治めし四神の力であり、認められた者が魔力として力を授かると言われている。

 そして、希望と未来の『光』、絶望と支配の『闇』こそ、かつての因縁を共にしてきた光の神と闇の神の力。

 グランドシオルは未だ謎が多いが、魔法が扱える者というのは六神の願いの元、認められ、魔力を授かった特別な人の子と代々言い伝えられている。

 魔王にとって厄介な相手──それは闇の種族と言われる魔族の対照、光の力。不朽の栄光は光神をはじめとした四神の力そのものを受け継ぎ、極めた人物。それは、神に選ばれた『光の使者』だけがその手の甲に特殊な刻印が生まれつき刻まれおり、世界を守るものとして例えそれがどんな相手であろうと慈悲をかけない。

 魔族の対極たる光の力、神々に選ばれた光の使者。それがどれほど厄介な相手か、大魔王からは嫌というほど聞かされている。その最大級の敵と今、自分は出会ってしまったのだ。


「そ、そんな事より君は何をしてるんだ? まずは立とうか」


 不朽の栄光である男は、マリアネに手を差し伸べる。マリアネはその手を握るか果てしなく迷った。

 そもそも、人間の手を借りてもいいのだろうか。


(まずい。私は魔王だ。もしバレたら……!)


 この男に触れられたら、抑え込んでいる魔力に感づかれるかもしれない。完全に抑え込んでいるとしても、接触したら気づかれる可能性は大いにある。

 この世界で最強格の人類、鋭い勘で気づかれるかもしれない。マリアネはどう対処すればいいか考えるが、思い付かない。

 だが、男は待ってくれるはずもなかった。


「なんだ。立てないのか」

「────ちょ………」


 男は有無を言わせぬ様子で、しかし手荒ではない仕草でマリアネの手を掴み、すっと立たせる。彼は特に表情を変えることもなく、マリアネに触れたことに平然としていた。

 気づかれなかったのか……いや、おかしい。正直、世界の守護神たる不朽の栄光の人間が、魔王のマリアネに触れて異変に気づかないわけがない。


「あ、その……」

「……ハハッ。こりゃ驚くなぁ」

「え?」


 男はニコニコとマリアネに笑みを向ける。


「もう分かってるんだぞ。君、魔族でしょ」

「うっ、やっぱり……!」


 やはり男はマリアネが魔族だと言う事に気が付いていた。なのにも関わらず、男は表情を一切変えずにマリアネに接する。

 普通、人間にとって魔族は『敵』と認識しているため、必ず敵視するはずなのだが。


「俺は不朽の栄光のチームとして、勉学にも励んだり、訓練したりと色々したもんさー。だからそれに関しては、見たら分かる。角は魔法で消せても、耳の長さは隠せてなかったね。その耳、エルフとはちょっと違う感じだしなぁ」

「あ、あぁ!」


 マリアネは内心で舌打ちした。 角は魔法で隠していたが、耳の長さを意識から外していた。完全な失態だ。しかし、耳が長いのを見るだけで魔族と分かったと言うのか。

 やはり不朽の栄光は只者ではない。知識も他の人間に比べて圧倒的だ。


「でも、一つ面白い事はね」

「……?」

「さっき君がおじいさんを助けるところ、偶然見たんだ。あの見た目からは想像もつかない、とんでもない一撃だった。……あれだけの力、並の魔族じゃない。ひょっとしてとは思ってたけど……」

「え……?」


 男は掴んだままのマリアネの手を見つめる。やはり男の手の甲には、光の使者として何かの刻印が刻まれていた。


「今、こうして触れて確信したよ。この膨大な魔力……。君、魔王なんだろ?」

「────ッ!」

「その表情だと図星……みたいだね」


 本当に何もかもを見破られていた。ただの魔族どころか、男と触れた事により、魔王であることまで明かされてしまったのだ。

 不朽の栄光に、魔王だと知られてしまったのだ。

 マリアネは動揺を隠せなかった。この人間は最大の敵。それを今から自分一人で相手をしなければならないと考えると、戦えるか不安になる。


「そ、そんな怯えないでくれよ。別に俺は君が魔王だとしてもなにもしないよ。君にその気がないならね」

「え、どう言う事ですか………」


 なんと男はマリアネが魔王だと分かっている上で、戦わないときっぱり宣言する。一般的に人間は魔王を憎む存在である。魔王を倒す、それが人間の野望でもある。不朽の栄光が結成されたのも、それが一番の目的と聞く。

 だが男はそれでも戦わないと言うのだ。


「いや~、にしてもびっくりしたよ。まさかこんな……言い方悪いけど弱そうに見える魔王がいたとは。俺ね、えっと……何代目か忘れたけど、魔王を見たのは実際初めてでね」


 いきなりそのような事を言い出すので、マリアネは困惑する。なんと返事を男に返してあげればよいか。


「触れるまでは半信半疑だったけど。……でも、やっぱり魔王だったんだ。それにしても、あんなすごい力を見せたかと思えば、今度は木の下で膝を抱えて……。はっきり言って、泣いてたろ? どっちが本当の君なんだか、見てるこっちがハラハラしちゃったよ」

「そんなところまで! 言わないでください言わないでください忘れてくださいぃ!」


 マリアネは男の胸を子どものようにトントンと叩く。男はクスクスと笑い、彼女をからかう。


「でも、その時見て思ったんだ。なにか悩んでるんだなって。魔王でもそんな風に辛い顔するんだなって」

「いや……」


 マリアネはその言葉を聞いて黙り込んでしまう。そして任務の事を思いだし、辛い感情が頭に蘇る。


「ご、ごめん。けなしたいわけじゃないんだ。もしよければだが、その悩みを俺に話してくれるか。もし、でいいんだ」

「………不朽の栄光さんが魔王の悩み事なんて聞いていいのですか?」


 マリアネは今、最大の敵に悩み事を話そうとしている。これは前代未聞の事であり、もしこの事が公になれば世界は大きく反響するだろう。

 だとしてもマリアネはこの悩みをぶちまけたい。誰でもいいから聞いてほしかった。


「いや、多分ね、ダメなんだろうけど。あ、そうだ。魔王の偵察って事で。魔王の事知っとけば後々楽になるかなぁって」

「こじつけに無理がありますよね」

「そ、そうだね。でも、建前はともかく、純粋に君の話が聞きたいんだよ」


 自分の立場もあると言うのにこの男はマリアネの悩みを意地でも聞きたいようだ。これ以上に優しい人間がかつていただろうか。マリアネは自然とこの男に満面の笑みを浮かべていた。


「ほんと優しい方です。魔王と分かっていながらも戦わず、さらには私の悩みまで聞いてくれるなんて。まるでこの私みたい─────」

「俺はさ、傷つけたくないんだ」

「……え」


 その言葉は、マリアネの心を最も強く打った。

 実現できるはずがないと諦めていた、暗闇の底に沈めていたはずの理想。それが、目の前の男の言葉によって、眩しい光を伴って蘇ってくる感覚がした。


「殺したくない、争いたくないんだよ俺はさ。魔王だとしても俺は共に平和に過ごしていけたらと思ってるんだ。魔王だから何なのさ。関係ないと思わないか? 別に仲よくしたらいいじゃんって思うよ。争いのない、そんな世界にしたい。どうしようもない、仕方がない時はやるしかないんだけどね。いつもは結局、力で解決。もうそんなの嫌なんだ。力でねじ伏せるんじゃない世界。……馬鹿げた理想だって笑われるけど、俺は本気でやってみたいんだ。……なあ、君も本当はそう思ってるんじゃないか?」

「………⁉」


 そう、この考えはまさしくマリアネが願っている世界と同じ考え。彼女は吃驚し、思わず体から一気に何かが抜けてしまい、息が詰まる。

 敵だとしても仲良くいたい、他種族との争いがない世界にしたい、例えそれが魔族だとしても。

 世の中にこのようなバカげた思いを持っているのは自分しかいない、そう考えていたマリアネだが、この不朽の栄光の男もまた、彼女と同じような考えだったのだ。

 マリアネはその話を聞いた途端、無性に泣きたくなってしまった。


「ちょ、ごめん! 泣かせるつもりは」

「うっ……いえ、ごめんなさい。私……嬉しくて。こんな事考えるの私しかいないと思ってたから、同じ事を考える人がこの世にいて嬉しくて……」

「君も……、そうなんだ」


 そこからマリアネは自分が抱えている重苦を全て洗いざらい吐露した。

 相手が人間だって、不朽の栄光だっていい。

 男は咽びながらも必死に話す彼女の顔を真剣な眼差しでみつめながら静聴していた。

 男の反応が一番変わったのは、マリアネが『魔界王第二位』と正体を明かした時だ。さしもの彼も、一瞬言葉を失って大きく目を見開いていた。

 マリアネは鬱屈としていたが、話せる事は全て話した。


「そうか……。だから君はこの地域に来たんだね。でも人間を首を取るくらいなら自分が死んだ方がいいと……そう言う事か」

「……おかしいですかね」


 マリアネの発言に男は小さく唸り、考え込むように少し目を伏せた。


「難しい質問してくるね。どちらも正しいとは言えないけどね。でも……自分がこっちでいいって思った方が正解なんじゃない……かな。けど君は本当にそれでいいのか」


 いいわけではない、もちろん死にたくはない。でも他人の犠牲で自分が生き残るのは受け入れられない。

 男は迷いと覚悟が入り混じったマリアネの表情を見て、ふっと息を漏らすように笑った。その葛藤が、彼にはどこか眩しく見えたのかもしれない。


「なら……もう最後までそうしたらいいさ。君は魔界王第二位なんだろう。そんな大きい役職を担ってるなら、その信念をもって最後まで行動するべきさ」


 男はマリアネにそう言って、親指を大空にビシッと立てた。

 頭の中で二つに割れていた道が、男の言葉でようやく一つになった。

 人間を殺すか、自分が罰を受けるか──もう、迷いはなかった。選べなかったわけではない。ただ、その決断を正しいと肯定してくれる誰かが、彼女には必要だったのだ。

 他人を殺してまで生きたくない、自分に合ったいい選択肢のはずだ。

 兄が妹をあやすように、男は優しくマリアネの頭を撫でた。つい先ほどまで、この世界で自分だけが間違っているのだと、捨てられた子のように震えていた。だが、今は違う。敵であるはずのこの男が、自分の最大の理解者になってくれた。ずっと胸につかえていた重い何かが、ようやく溶けていく気がした。


「さて、そろそろ帰りなさい。こんなとこでもし仲間に見られたら俺怒られちゃう。『リーダーなのに魔王と関わるなんてなに考えてるの! このバカッ!』、『リーダーの資格なし、くたばれ』、『お前とは金輪際関わらない、死ね!』とかね。マジで殴られるよ、うちのメンバー手加減ってもんを知らないからね、ハハッ」

「そ、そうですね。ご迷惑おかけ────ってリーダー⁉」


 なんと男は不朽の栄光のリーダーだと言う。

 と、言う事はだ。


「あなたが……『光の使い』の……!」

「ああ、自己紹介がまだだったね。不朽の栄光のリーダーで、『光の使い』なんて大層な名前で呼ばれてる。神に選ばれたとか使者とか、正直どうでもいいんだけどさ。……魔界王第二位の君と、どっちが強いかね? ……うん、きっと俺が勝つな! 勝てる……はず。……いや、本気でやったらどうなるか。……うわ、考えたら怖くなってきた」


 まさか今まで話してきた男が『不朽の栄光』のリーダーだったとは。

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