プロローグ
大賢者ルシフェルは、全知全能を誇る存在だった。年齢は数え切れぬほどの長い年月を生き、その経験は無限に広がっていた。
だが、彼の真の力は、知識や魔法のみに限られなかった。剣術では最強の剣士として知られ、魔術の使い手としては世界に並ぶ者がいない。医療においても、命を救う手段を知り尽くしており、料理も得意で、最高の味を提供することができ、築城においてもどんな城でも築ける能力を持っていた。その才覚で、多くの国々を支え、多くの民に愛されてきた。
彼の人生には悔いがない。数えきれぬほどの困難を乗り越え、時に血を流し、時に涙を流し、他者のために生きることに全力を尽くした。そして、今、長い歳月を経て、ルシフェルは安らかな日々を送っていた。無敵の存在としての地位も、名声も、彼にとっては何の意味もなかった。
そんなある日、神々が彼の前に現れた。煌びやかな光に包まれ、天から降り立った神々の姿は、壮麗で威厳に満ちていた。彼らはすぐにルシフェルに声をかける。
「ルシフェル、汝の力、汝の知恵はもはや凡人の枠を超えている。汝は神々の域に達しており、これからも多くの世界を導いていけるだろう。しかし、ひとつ願いがある。汝の才能は惜しい、せっかくのその才能を活かして転生を願わんか?」
神々の声には真摯な願いが込められていた。ルシフェルの力を永遠に失わせるのは惜しいと。転生することで、彼の持つ力を新たな世界で発揮してほしいと、神々は説得を続けた。
だが、ルシフェルは静かに微笑んだ。その目には、長年の経験と満ち足りた心が宿っていた。
「神々よ、私はすでに満足している。多くの民を救い、愛され、私はすべてを学び、すべてを経験した。何一つ後悔はない。今の私には、ただ安らかに過ごす時間が必要なのだ。転生を求める心はない。」
神々は驚いた。転生を勧める者に対して、満足していると言い切った者は初めてだった。神々はその静かな言葉に、少しの間、言葉を失った。しかし、すぐに彼らは深くうなずき、ルシフェルに対して尊敬の念を抱く。
「貴様の決断を尊重しよう。そして、汝が求める安らぎが訪れることを祈ろう。」
神々は静かに姿を消した。ルシフェルはその後も、静かな日々を過ごした。自分の知識や力を求めることなく、身近な人々とのひとときを大切にし、時折、穏やかな笑顔を浮かべながら、心穏やかに余生を送った。
天寿を全うしたその日、彼は静かに眠りについた。彼が生きた人生の証は、彼の足跡と共に語り継がれ、伝説となって世界中に広がっていった。そして、神々もまた、彼の意志を尊重し、彼の生き様を後世に伝えるべく語り継いだ。
ルシフェルは、決して神ではない。しかし、彼が歩んだ道は、神々に匹敵するほど偉大で、そして人々にとっては、何よりも尊いものであった。
ルシフェルの人生はすでに満ち足りていた。だが、天寿を全うしたその日に神々の提案を受け入れることにした。実は提案された日から頭の中でこの力を転生して活かしたい、民を救いたいという思いが膨らんでしまった。困難な世の中があるのであればそれを直したいと思ってしまった。もっと正直に言えば生きて人と繋がりたいと思ってしまった。
ルシフェルは転生を選択した。
神々も喜んでそれを認めた。
転生の際、五つの力のうち一つ、そして一つのスキルしか持ち越せない。
魔力、体力、生命力、知力、防御力のいずれかを選び、それに基づいた能力を持って転生するしか出来ない。そして、スキルは一つだけを選ばなければならない。
大賢者の膨大なそれぞれの力からたった一つ、数多あるスキルの中からたった一つ、そしてその選択は、転生後の人生を大きく左右するものだ。
だがルシフェルは、どんな力を選ぶかを一瞬の迷いもなく決めていた。
「私は魔力を選び、スキルには『総創』を選ぶ。」
その言葉を聞いた神々は、驚愕と共に声を失った。総創──それは「創造主」として知られる者のみが使える魔法、あらゆる魔法を駆使し、世界そのものを創り出す力。神々でさえも、その力を持つ者はかつてなかった。それを、大賢者ルシフェルが選んだのだ。
「総創……それは……創造主様以外には使えぬ力ではないか。」
一人の神が言葉を発し、他の神々もその驚きを隠しきれない。
「だが、彼はそれを望むのか……。」
「ルシフェル、汝の意志がそれほどまでに強いとは……。だが、転生後には、この力がどれほどの試練をもたらすか、汝自身が知るべきだ。」
神々は一瞬、ルシフェルの決断を考え直そうとしたが、彼の眼差しには揺るぎのない覚悟が宿っていた。そのため、神々は深い敬意を込めて彼を見守ることに決めた。
「よかろう。汝が選んだ道を歩むがよい。だが覚悟せよ。『総創』を持つ者が異世界に転生すれば、その力を制御することは一筋縄ではいかぬ。汝が望むなら、どんな試練も乗り越えられると信じている。」
そして、ルシフェルは光の中に消え、戦国時代の異世界へと転生した。